『バウンド』

バウンド [DVD]

原題:“Bound” / 監督・脚本・製作総指揮:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー / 製作:アンドリュー・ラザー、スチュアート・ボロス / 共同製作:ジェフリー・サドジン / 撮影監督:ビル・ポープ / プロダクション・デザイナー:イヴ・コーリー / 編集:ザック・ステーンバーグ / 衣装:リジーガーディナー / 音楽:ドン・デイヴィス / 出演:ジェニファー・ティリー、ジーナ・ガーションジョー・パントリアーノ、リチャード・C・サラフィアン、ジョン・P・ライアン、クリストファー・メローニ、バリー・キヴェル、ピーター・スペロス、ケリー・リチャードソン、メアリー・マーラ / 配給:K2 Entertainment

1996年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:菊地浩司 / R-15

1997年7月日本公開

2009年1月28日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD:bk1amazonBlu-ray Discbk1amazon]

DVDにて初見(2009/04/27)



[粗筋]

 知人のインド人が使っている部屋をリフォームする仕事を請け負った前科者の女コーキー(ジーナ・ガーション)は、仕事先のアパートで、ヴァイオレット(ジェニファー・ティリー)という女と遭遇した。

 偶然にもコーキーが修理を始めた部屋の隣に住んでいたその女は、マフィアのマルゾーネ一家に所属するシーザー(ジョー・パントリアーノ)に囲われており、一家の多くの男が色目を使っている。だが当人は己の境遇に嫌気が差し、抜け出す機会を窺っていた。

 コーキーとヴァイオレットは出逢うなり惹かれ合い、シーザーの目を盗んでベッドを共にする。やがてヴァイオレットは、ここから逃げ出したい、という願望をコーキーに打ち明けるが、決して容易な話ではなかった――刑務所帰りで、犯罪のスキルには自負のあるコーキーだからこそ、マフィア相手に一戦交えることの難しさを承知していた。

 しかしある日、思わぬ形で好機が訪れる。シェリー(バリー・キヴェル)という男が組織の金を着服した。シーザーは一家のドン・ジーノ(リチャード・C・サラフィアン)の息子ジョニー(クリストファー・メローニ)と回収に向かったが、ジョニーが発見された金の上でシェリーを射殺してしまい、札束が血まみれになってしまう。罵りながら札束をヴァイオレットのもとに持ち帰り、洗い乾かしている姿を目にした彼女は、コーキーに横取りを提案する。

 はじめは難色を示したコーキーだったが、ヴァイオレットの剣幕に押されるように、強奪計画を立てた。急場仕上げ、しかも誰よりもヴァイオレットが危険な綱渡りを強いられる計画だったが、その精度の高さに納得して、ヴァイオレットはすぐさま行動を開始する……

[感想]

マトリックス』シリーズで一世を風靡する直前に、ウォシャウスキー兄弟が撮った、低予算のサスペンス映画である。

 のちに『マトリックス』で示すような革新的な撮影手法は無論、SF的なモチーフも用いておらず、舞台はほとんど一軒のアパートに限られている。だがそれでも、細かなモチーフを大写しにする撮り方をはじめ細かな映像の組み立てに、『マトリックス』の萌芽が幾つも見いだせる。壁を隔てて互いの気配を感じ合おうとするヴァイオレットとコーキーを頭上から、壁を突き抜けるカメラで立て続けに見せ、非常事態にヴァイオレットが電話を掛けると、カメラがケーブルを辿ってコーキーのもとへ辿り着く、といったあたりは特に顕著だ。

 ごく限られた舞台、素材を使っているなかで、映像的な印象が鮮烈であることにも注目したい。陰影に気遣った女同士の濡れ場は適度なエロティシズムを醸し出し、屍体を隠してのやり取りを俯瞰で見せて緊迫感を演出する。特に最後の殺人のシーンなど、序盤からちらつかせていたモチーフを活かして、酸鼻なのに美しいイメージを残す。

 だが何と言っても、ストーリーの完成度が驚異的だ。いわゆるサプライズ・エンディングのような大仕掛けはないが、目まぐるしく状況が変化し先読みの出来ない展開は、終始緊張感が途切れない。最初に説明した段階ではかなり説得力のあったコーキーの計画が、パニックに陥りながらも冷静に状況を打開しようとするシーザーの立ち居振る舞いで次から次へと狂わされ、終盤にはもはや破綻しきってしまう。新たな人物の介入も相次ぎ、最後まで誰が生き延びるのか予断を許さない。

 舞台装置を逆手に取った機転、頭脳戦が繰り広げられる様も秀逸だ。特に壁の薄さ、パイプを介して音が隣に響いてしまう、という建築上の欠陥を、サスペンスの中で存分に利用している。仕方なく貧弱なロケーションを用いているのではなく、必要だから全力で駆使している、と感じられる組み立ては、その辺の金ばかり掛けた大作などよりも堂々とした佇まいを示している。

 幕切れも鮮やかで、犯罪ものながら奇妙な爽快感が味わえる。この決着ではまだ火種が残っているように感じられること、観終わったあとにほとんど余韻がないことがやや気になるが、凄惨なのに観ていて後腐れを感じさせない、完成度の高い娯楽作品だ。

 話によると、『マトリックス』の脚本は本篇より前に完成しており、この作品の成功をきっかけにしてようやく形になったらしい。その後の作品群を見渡すと、もともとコミックの影響の色濃い、SF的なガジェットや独特の哲学を封じ込めたスタイルこそウォシャウスキー兄弟がもともと狙っていたものと見られるが、個人的には本篇のような、きっちりと纏まりシャープな切れ味を示す作品も彼らには合っていると感じる。VFXを多用し、ヴィジュアルに拘った作品もいいが、こういう緻密ながら解り易いストーリーラインを備えた作品もたまには発表して欲しいところである。

関連作品:

マトリックス・リローデッド

マトリックス・レボリューションズ

Vフォー・ヴェンデッタ

スピード・レーサー

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