監督:塚本連平 / 原案:小林信也 / 脚本:福田雄一、石川北二、塚本連平 / 製作:菅井敦、三宅容介 / プロデューサー:三瓶慶介、利光佐和子 / エグゼクティヴプロデューサー:朝長泰司、男全修二、南條昭夫 / 撮影:木村信也 / 美術:松塚隆史 / 装飾:石毛朗 / 照明:丸山和志 / 編集:大野昌寛 / VE:高橋正信 / 音楽:藤岡孝章(藤岡藤巻) / 主題歌:かりゆし58『雨のち晴れ』(LD&K) / 出演:三村マサカズ、大竹一樹、芦名星、ベンガル、井森美幸、田中要次、正名僕蔵、酒井敏也、載寧龍二、岩松了、穂積ぺぺ、長谷川朝晴、小松和重、永岡佑、篠山輝信、入来茉里、尾上綾華、足立麻美、安藤玉恵、佐野泰臣、つぶやきシロー、手島優、板野友美、丘みつ子、麿赤兒 / 配給:KLOCKWORX
2009年日本作品 / 上映時間:1時間34分
2010年1月30日日本公開
公式サイト : http://www.kazura-movie.com/
シネクイントにて初見(2010/01/30) ※初日舞台挨拶つき上映
[粗筋]
建設会社の山梨支社でデザイナーとして働く森山茂(三村マサカズ)には悩みがある。……毛が、薄いことだ。森山家は薄毛の家系で、父の盛夫(麿赤兒)に弟ふたりはもとより、仏壇に飾られた先祖代々ことごとく髪が薄い。道端から笑い声が聞こえると、自分が笑われているのではないかと訝り、薄いとか透けているとかいう単語に思わず反応してしまう。
そんな彼にある日、転機が訪れた。東京本社で、新しい住宅地建設受注のためのコンペティションに才能のある設計技師が求められ、茂に白羽の矢が立ったのだ。上京した彼は、駅前にある大型ヴィジョンで流れていたカツラ会社のCMを見て、天啓を受ける。ここに、昔の彼を知る人間はひとりもいない。コンプレックスだらけの生活から解放される、絶好の機会ではないか。
さっそく大手カツラメーカーに駆け込んだ茂だが、思いの外制作費用に維持費がかかり、完成まで時間がかかることを知って意気消沈する。自分を変えるには時間も金も必要なのか、としょげていたとき、道の妙なところにある案内を発見、辿った先にあったのは、大和田(大竹一樹)という奇妙な男が単独で経営するカツラ店。もうここしか頼れるところはない、と茂は思い切って発注する。
こうして茂の“カツラー”……“カツラッチ”、まあ何でもいいや、とにかくカツラ生活は幕を開けた。何故か忽然と現れる大和田の助けもあって東京本社でのデビューは無事に切り抜けることが出来たが、同時に茂はカツラがバレないように生活することがどれほどのストレスかを、初日から痛感するのだった。
転勤して間もなく、茂は運命の出逢いをする。別の支社から、茂と共に住宅地の設計を担当するため、牧田涼子(芦名星)という女性がやって来たのだ。同じ仕事をしている近しさもあり、茂と涼子は急速に接近していったのだが、その大切な節目にいちいち、“カツラッチ”としての試練が待ち受けていた……
[感想]
お笑い芸人が多分野に進出することは珍しくないが、こと近年は映画監督に進出するパターンが増えているように思う。海外で高い人気を誇る北野武を筆頭に、松本人志、品川ヒロシ、板尾創路といった面々の作品が公開されている。
だが、本篇に主演したさまぁ〜ずは、ライヴでは自ら構成・演出を手懸け独自の世界を築いていることで知られるが、今回は演出にも脚本にも口を挟まず、純粋に“俳優”として出演している。テレビで見せる彼らのキャラクターを思えば、そもそもそういう役割分担が不似合いだ、と感じるのだが、もっと大きいのは、監督、脚本を担当したスタッフがそれぞれにお笑いやコメディに通暁していたせいもあるのではなかろうか。監督の塚本連平は無数に小ネタをちりばめて熱狂的なファンを獲得しているドラマ『時効警察』を手懸けているし、共同脚本の福田雄一は『爆笑レッドシアター』などのバラエティ番組の構成に加え、ドラマの時間的制約そのものをギャグに採り入れてしまった『33分探偵』やイケメン俳優同士の掛け合いをさながらコントに仕立てた『東京DOGS』など、ドラマでも“笑い”のセンスを示している。こういうスタッフが手助けするなら、自ら演出する必要もない、と考えたのではないか。
出演者の考え方はあくまで想像に過ぎないが、こういうスタッフが拘わっている、と解ると、観る方としても安心感が得られるはずだ。実際、笑いの作り方に嫌味も不自然さもない、非常に質の高いコメディ映画となっている。
小林信也というスポーツ・ジャーナリストが自らの体験を綴った作品に基づいているだけに、カツラに関するエピソードに真実味が備わっている。だが決して自虐的にも嘲笑的にもならず、ほどよい匙加減で描けているあたりは、コメディを熟知したスタッフ、キャストの力によるものだろう。面白いのは、主演のさまぁ〜ずはふたりとも薄毛のイメージはないのに対し、中盤を過ぎたあたりで登場するカツラ使用者の集いに参加する俳優は、日本の映画やドラマを観る者からすると頷ける面々ばかりなのだ。しかも全員、決してカツラ着用者ではない。この、納得できるけど、着けているところを見ると切なく笑える、という感覚の工夫が堂に入っている。普段からカツラ疑惑が囁かれている人を起用しては、恐らく本気で痛々しくなったはずだ。
細かい笑いやネタの仕込み方も実に巧い。主人公・茂に対し何やら疑わしげな眼差しを向ける先輩の女性社員の表情や、上司・取引先との接触で見せる珍妙なやり取りでの笑いの取り方もさることながら、それがちゃんとストーリーそのものにも寄与しているのが絶妙だ。コメディを過剰に意識した作品でしばしば犯す、不自然さを際立たせるような組み立てとはならず、「あるある」と感じられる範囲に収まっているからこそ、笑えるし共感も覚える。
一方で、さまぁ〜ず大竹一樹が演じるカツラ屋店主の行動や彼の店の状況に、突飛なモチーフをふんだんにちりばめているのが、いいコントラストとなっていることにも注目していただきたい。絶対にあり得ないような広告の出し方に、カーテンをめくると同時に経営している乾物屋の店先があるというシュールさ、店内のインテリアの異様さもインパクトが強烈だ。不気味なまでの神出鬼没ぶりも、いい具合に作品の奇妙さ、ユーモアを補強している。
それにしても驚かされるのは、さまぁ〜ずというお笑いコンビの持つ個性の強さだ。監督も脚本家も、独自の世界観を持っており、本篇の作りにもそれは窺えるのに、彼らふたりが絡んでいるパートはものの見事に“さまぁ〜ず”の世界に染まっている。主人公の人物像に合わせて三村のツッコミは若干マイルドに、物語を補助する形になってはいるものの、彼らの掛け合いはバラエティ番組のトークやコントで見せる間や空気そのものだ。そのため、彼らの名前に惹かれて劇場に足を運んで不満を抱くことはないだろうし、バラエティでしか彼らを知らない人でも、芸人としての彼らの才能を感じることが出来るに違いない。
“笑い”を演出する才能が集い、細かなくすぐりを随所にちりばめながら、決してカツラ愛用者を辱めず、程よい匙加減で笑いに仕立て上げている。実際にカツラを使用し、その秘密と生活している人にとっては慰めになるだろうし、カツラを用いる人の心情がいまいち理解できない人にとってはいい啓蒙となるだろう――少なくとも一時的には。そんな効能も期待できる、良質のコメディ映画である。そういう考察を抜きにしても、単純に快い笑いを堪能できるはずだ。
関連作品:
『着信アリ2』
『ピーナッツ』
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