原作:令丈ヒロ子[作]・亜沙美[絵](講談社青い鳥文庫・刊) / 監督:高坂希太郎 / 脚本:吉田玲子 / 作画監督:廣田俊輔 / 撮影監督&VFXスーパーヴァイザー:加藤道哉 / 美術監督:渡邉洋一 / 美術設定:矢内京子 / 色彩設定:中内照美 / 編集:瀬山武司 / CG監督:設楽友久 / 音響監督:三間雅文 / 音響効果:倉橋静男、西佐知子 / 音楽:鈴木慶一 / 声の出演:小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、遠藤璃奈、小桜エツ子、一龍斎春水、一龍斎貞友、てらそままさき、薬丸裕英、鈴木杏樹、設楽統(バナナマン)、小松未可子、ホラン千秋、山寺宏一、折笠富美子、田中誠人 / アニメーション制作:DLE&マッドハウス / 配給:GAGA
2018年日本作品 / 上映時間:1時間34分
2018年9月22日日本公開
公式サイト : http://www.waka-okami.jp/movie/
TOHOシネマズ上野にて初見(2018/09/22)
[粗筋]
母親の実家である花の湯温泉に帰省した帰り、おっここと関織子(小林星蘭)は事故に遭う。おっこは奇跡的に軽傷だったが、両親は揃って帰らぬ人となってしまった。そうしておっこは花の湯温泉で“春の屋”という旅館を営む祖母・関峰子(一龍斎春水)のもとに身を寄せる。
あてがわれた部屋で、おっこは思いがけないものと出会う。ウリ坊(松田颯水)と名乗る、幽霊である。やけに“春の屋”に肩入れするウリ坊にそそのかされ、おっこは祖母や従業員のエツコさん(一龍斎貞友)、康さん(てらそままさき)を前に、「春の屋の若おかみになる」と宣言した格好になってしまう。
同級生で、花の湯温泉でいちばん大きな旅館・秋好旅館のひとり娘である秋野真月(水樹奈々)に“バカおかみ”と揶揄されたりしながらも、おっこは着付けを学び、所作を学び、自分なりに“若おかみ”になろうと務める。
ある日、おっこは学校からの帰り道に、道端で座りこんだ男の子と、その父親らしき人を見つける。やけに汚れた身なりにおっこは躊躇するが、ウリ坊に「花の湯温泉は誰も拒まない、って言われただろ?」と囁かれ、宿泊先のない親子を春の屋に案内する。
父親の神田幸水(設楽統)はおっこの心遣いに感謝するが、息子のあかね(小松未可子)の態度は頑なだった。おっこはあかねの挑発に声を荒げてしまうが、あかねが母親を亡くしたことを知ると、彼のために、春の屋なりのおもてなしをしようと思い始めるのだった……。
[感想]
原作は、小学生くらいまでの年齢層を対象とする講談社青い鳥文庫で20巻以上も継続する人気シリーズであり、この劇場版の公開直前までTVアニメも放映されていた。が、私はどちらにもまったく触れずに本篇を鑑賞している。だからこそ断言できるが、本篇は予備知識など一切なしに、この劇場版だけ鑑賞しても充分に楽しめる。感服するほどに、1本の映画として成り立っている。
小学生が本当に若女将として現場に出ていること、そこに幽霊という存在が絡んでくることなどはまさにフィクションならでは、だが、若女将としての仕事の内容、向き合う姿勢は極めてリアルだ。着付けや作法の話もある一方で、客がリラックスして過ごせるようにどのような努力をし、どのような気遣いをするべきか、というところまでしっかりと描きだしている。
ヒロインのおっこは誰しも親しみを覚えるくらいに普通の女の子だが、他方できちんと、若女将の任に相応しい才能もきっちりと描かれている。客が何を必要としているかを察知し、旅館の人間として出来る範囲で客を喜ばせようとする。そこに子供らしい純真さも織り込みつつ、自分なりに若女将の仕事に努める姿は微笑ましくも頼もしくもある。観ていると、本気でこんな旅館なら泊まってみたい、という気分にさせられるから見事だ。
映画のストーリーは原作から幾つかのエピソードを抽出したうえで、おっこが両親とともに事故に遭うシーンをはじめ、幾つかの要素を加えて再構成したものだという。抽出されたエピソードが原作に描かれていたものに添っているのだとしたら、そのセレクトも完璧だった、と言うほかない。劇場版の物語は、おっこが乗り越えなければいけないものごとを明確にし、おっこが若女将としての自分を確立していくまでの成長を巧みに切り取っている。
この面において、旅館に棲みついた幽霊やあやかしの存在も有効に機能している。おっこを若女将という仕事に導き、成長させ、どうしても乗り越えなければいけない出来事と向き合わせる。そして、若女将という“仕事”を選んだことが、結果としておっこの救いにもなっていく。組み立てにまったく隙がない。
劇場版の監督を担当した高坂希太郎は、スタジオジブリでの経験も豊富であり、それ故に細部にもこだわりがあるようだ。シンプルで親しみやすいけれど全篇で統一感があり、背景の隅々まで丁寧に描写された画面もさりながら、原作には登場しないというおっこの事故のくだり、こちらも映画のオリジナルだがクライマックスに貢献する神楽のシーンにも、その繊細な心配りが光っている。
原作そのものが子供向けとして描かれているのだから、子供にとって理解しやすい内容になっているのは勿論だが、大人の目で見ても極めて質の高い映画になっている。おっこを演じた子役・小林星蘭の堂々たるハマりっぷりも含め、なまじ予備知識をさほど入れずに鑑賞しただけに、感動とともに終始驚きを味わった1篇だった。
関連作品:
『リズと青い鳥』/『のんのんびより ばけーしょん』
『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪ 奇跡の魔法!』/『SING シング』/『friends もののけ島のナキ』/『君の名は。』/『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』/『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』
『友だちのうちはどこ?』/『テルマエ・ロマエ』/『テルマエ・ロマエII』
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