午前中までに懸案をひととおり片付け、やや寝不足気味だったのを解消するため一眠りしたあと、久々にハシゴをする目的で恵比寿へ赴く。これまでは道に不案内であることを理由に電車でしか訪れたことのなかった場所ですが、ふと思い立ってバイクにて出かける。途中まではわりと行き慣れている道だから、と高を括っていたら、案の定というか、恵比寿界隈に近づいたとたんどこを走っているのか解らなくなる。てきとーにあたりをつけて何とか恵比寿ガーデンシネマに到着したときには、到着予定時間を5分ほど割り込んでいました。が、窓口で確認したところ、まだ予告編なので入るのに問題はないらしい。本日のお目当ては7時15分開映の映画のあとに行われるイベントだったのですが、そちらのほうもどうやらまだ整理券が残っていたので、無事に確保してそそくさと劇場へ。
まず一本目は『追跡者』『ボルケーノ』などで渋いおっさんぶりの定着したトミー・リー・ジョーンズ監督・主演、『アモーレス・ペロス』『21グラム』におけるその個性的な構成とプロットが脚光を浴びているギジェルモ・アリアガ脚本による『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(Asmik Ace・配給)。あの『21グラム』の脚本家の作品と聞いて、えらい重厚なドラマを期待していたのですが、確かに厚みはありますがちょっと趣が違う。人間ドラマというより、ハードボイルドの風情です。多くを語ることなく、異境で頓死した友を故郷へと運んでいく主人公の姿の哀しくも凛々しいことといったら。バリー・ペッパーもいい味を出しており、なるほどカンヌ映画祭2冠も頷ける名作でした。詳しい感想は後日、このあたりに。
続いては『サマリア』のキム・ギドク監督作品、空き家に上がり込んで僅かのあいだ寝泊まりするとい行為を繰り返す男と、愛と暴力によって夫に縛り付けられた女の奇妙な絆を描いた作品『うつせみ』(Happinet Pictures×角川ヘラルド・ピクチャーズ・配給)。『サマリア』とは方向性に違いはあれど、やはりこの監督ただ者ではない。象徴をふんだんに鏤め、圧倒的な牽引力で観客を引っ張っていきながら、まったく予想もしなかった着地を見せつける。解釈は様々あるでしょうけれど、その美しさと深みとは誰にも否定できますまい。詳しい感想は後日、こちらにて。
上映終了後、新作『弓』のプロモーションのため来日中のキム・ギドク監督と、親交の深い行定勲監督によるトークイベントとティーチ・インが催されました。キム・ギドク監督は年齢を感じさせない若々しい風貌をしており、その作品に常にちらつく暴力性とは対極的な優しさと人当たりの良さで、終始にこやかに丁寧に話をしていました。作品を賞賛する行定監督に「そろそろ否定意見もお願いします」と言ってみたり、作品の美しさを評価する言葉に対して劇場の佇まいと観客の容姿を褒めて応えてみたりとユーモアも覗かせつつ、今後も変わらず特異な作品を発表し続けるとその志の高さもきちんと示すといった具合。
ティーチ・インにおいても受け答えは常に真摯でした。作品のなかに登場する赤色に監督のこだわりを見出していた観客には、特定の色にこだわりはないと応えつつ、それをきっかけに色彩に関する自身の哲学を語り、きっかけを与えてくれてありがとう、と質問した方に気遣った答え方をする。その創作意欲の旺盛さもさることながら、温かな人柄の一端が垣間見え、わざわざ平日に無理をして訪れた甲斐のあるイベントでした。
……しかし、帰りは再びしんどかった。予想外に冷え込んだ空気に悲鳴を上げ、なかなか正しい帰り道に入ることが出来ず煩悶し、来たときよりも更に余計に時間を費やしてようやっと帰宅したころには凍えきっておりました……行った甲斐はありましたが、無茶せず電車にしときゃ良かった。
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