『ジュラシック・パーク』

TOHOシネマズ新宿、スクリーン1入口脇に掲示された『ジュラシック・パーク』上映時の午前十時の映画祭13案内ポスター。
TOHOシネマズ新宿、スクリーン1入口脇に掲示された『ジュラシック・パーク』上映時の午前十時の映画祭13案内ポスター。

原題:“Jurassic Park” / 原作:マイクル・クライトン / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 脚本:マイクル・クライトン、デヴィッド・コープ / 製作:キャスリーン・ケネディ、ジェラルド・R・モーレン / 撮影監督:ディーン・カンディ / プロダクション・デザイナー:リック・カーター / 編集:マイケル・カーン / VFX:インダストリアル・ライト&マジック、ティペット・スタジオ / VFXスーパーヴァイザー:デニス・ミューレン / 恐竜スーパーヴァイザー:フィル・ティペット / キャスティング:ジャネット・ハーシェンソン、ジェーン・ジェンキンス / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 出演:サム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、リチャード・アッテンボロー、アリアナ・リチャーズ、ジョゼフ・マゼロ、ボブ・ペック、マーティン・フェレロ、ウェイン・ナイト、サミュエル・L・ジャクソン、B・D・ウォン、キャメロン・ソア、グレッグ・パーソン / アンブリン・エンタテインメント製作 / 配給:UIP
1993年アメリカ作品 / 上映時間:2時間7分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG12
1993年7月17日日本公開
午前十時の映画祭13(2023/04/07~2024/03/28開催)上映作品
2022年11月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc4K ULTRA HD + Blu-ray Disc4K ULTRA HD + Blu-ray Disc Amazon.co.jp限定セット]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/title/60002360
TOHOシネマズ新宿にて初見(2023/4/11)


[粗筋]
 恐竜化石の発掘に勤しんでいた古生物学者アラン・グラント博士(サム・ニール)を、後援者でインジェン社の経営者ジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)が突然訪ねてきた。ハモンドいわく、“画期的”なアミューズメント施設の実現にあと一歩まで漕ぎ着けているが、投資家を納得させるためには専門家のお墨付きが必要なのだという。協力してくれれば、向こう3年の発掘費用を保証する、という甘言に、グラント博士は同僚である古代植物学者のエリー・サトラー博士(ローラ・ダーン)とともに現地へと発った。
 そこはコスタリカ沖の孤島イスラ・ヌブラル島に設けられたテーマパーク。多くの説明も受けないまま、案内人の運転するバギーで高圧電流の流れる柵のなかにある巨大な敷地へと導かれたグラントたちは、目の前に現れた恐竜の姿に愕然とする。
 インジェン社はこの地に築いたのは《ジュラシック・パーク》――古代に滅亡した恐竜のDNAを特殊な方法で採取し、現代に蘇らせた公園である。園内には既に復活した複数の種が群れをなしており、客は自動操縦のバギーに乗って、巨大生物を間近で鑑賞出来るようになっている。
 恐竜の放たれた区画とツアーの軌道が設けられた敷地は高圧電流が通るフェンスで囲われている。恐竜は牝のみが培養され、DNA操作によって5日間にわたって酵素が投与されなければ生存できないようになっている。安全対策は万全だ、とハモンドは豪語し、グラント博士とサトラー博士、カオス理論学者のイアン・マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)とインジェン社の弁護士ドナルド・ジェナロ(マーティン・フェレロ)、そしてハモンドの孫であるアレクシス(アリアナ・リチャーズ)とティモシー(ジョゼフ・マゼロ)のマーフィ姉弟を、自動運転のバギーで施設へと送りこむ。
 しかし実際には、《ジュラシック・パーク》には極めて深刻な問題が生じていた。グラント博士たちがパークの奥深くにまで到達したとき、それは遂に、牙を剥いた――


[感想]
 誰しもいちどや二度、恐竜を生で見たい、と思ったことはあるはずだ。その願望がある以上、技術が確立されれば、商売に利用しようと考えるのも不思議はない。
 本篇は遺伝子研究の発達を背景にしたマイクル・クライトンの小説を、本人も参加して脚色、スティーヴン・スピルバーグによって実写化した作品である。大ヒットとなり、数年のあいだに2つの続篇が発表され、2015年にこの流れを引き継ぐ『ジュラシック・ワールド』から始まる新たな3部作が登場する、壮大な連作に繋がっていった。私自身は、根がひねくれ者なので、ヒットした当時はいっさい目もくれず、「4Dに合いそうだから」という理由で2015年の『ジュラシック・ワールド』だけ鑑賞している。午前十時の映画祭13での連続上映で、初めて『~ワールド』の原点に接する格好となった。
 もうある程度の経験値を積んだ上で鑑賞すると、実にスピルバーグらしさの横溢した傑作である。
 恐竜のDNAを解析して現代に蘇らせる、というのは、技術的に可能性を感じるリアルな設定だ――現時点まで本当に実行した者が(少なくとも表立っては)いない、というあたりで推して知るべしだが、しかしその想像の範囲内にある虚構が観客を興奮させる。そして、その設定から敷衍して想定しうる危険、恐怖を的確に再現し、独創性のある手法で迫り来る脅威、惨劇を表現する。この手法は、海中にいる脅威を優秀なギミックと巧みな象徴で『JAWS/ジョーズ』という画期的な傑作の手法の発展形とでも言うべきものだ。
 また、未知の存在がもたらす恐怖を観客に伝えるための手捌きも堂に入ったものだ。特に印象深いのは“波紋”である。未見の方のために語りすぎるのは避けるが、恐竜が迫ってくる兆候を、誰にでも実感のしやすい象徴で描いている点が見事だ。
 一方で、原作者も参加しているだけのことはあって、恐竜に関する知見が当時としてはかなり新しいものを用いているのが窺える。恐竜の多くが鳥類に繋がる、という説は発表後30年経ったいまでもそこまで浸透していないように感じているのだが、本篇ではグラント博士がさらっと言及しており、抜かりがない。たとえば、羽毛があったという説など、私の知る範囲でも採り入れられていないものはあるが、そこはある程度、観客が持つイメージに添って調整を施していると思われる。遺伝子工学によって、恐竜が人間の管理なしで生き存えない、という設定が示されるが、それもこういう不自然さを緩和する、という点に貢献している。有力な説をあえて用いない、ものによってはデイノニクスに近い生態の種をヴェロキラプトルとして登場させる、という選択をしているのも、科学的な説得力を保ちつつフィクションとしての魅力を優先すればこそだろう。このスタンスは間違いなく、作品のエンタテインメントとしての強度を上げている。
 それにしても、30年を経た視点で眺めると、本篇はまさに“起きるべくして起きた”災厄であり、きっちりとその事情も描写しているのが興味深い。SF的に観ても、競争者のある開発はその技術を狙われやすい。という点から必然的な経緯でもあるのだが、グラント博士らの冒険の傍らで描かれる“裏切り者”の心情もまた、いまにして思うと必然なのである。明らかな過重労働、上司の無理解、職能の軽視と、反発を招くこと必至の労働環境に、こういう意趣返しを試みるのも宜なるかな、と思ってしまうのだ――結果的に、無関係だったグラント博士やハモンドの孫たちを危険に晒したことは許されないにしても。当時は元凶として憎まれ役になり、グラント博士らの一行に挟まれるようにして描かれるその行動がサスペンスのトリガーとして機能していたものが、別の角度でひとつの真理を捉えている、というのも、きちんと必要な部分を練っていればこそだろう。
 解釈に現代との隔たりはあっても、楽しませ方や、登場する人物の心情には∽に通じる普遍性を備えている。だから30年を経ても充分に楽しめるし、より高度な研究によって得られる知見、新たな映像技術を採り入れた続篇や影響を受けた作品が生まれようとも、本篇は価値を保ち続けるはずだ。


関連作品:
ジュラシック・ワールド
激突!』/『JAWS/ジョーズ』/『未知との遭遇 ファイナル・カット版』/『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』/『プライベート・ライアン』/『A. I. [Artificial Intelligence]』/『マイノリティ・リポート』/『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』/『ターミナル』/『宇宙戦争』/『ミュンヘン』/『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』/『戦火の馬』/『リンカーン』/『ブリッジ・オブ・スパイ』/『ウエスト・サイド・ストーリー(2021)』/『フェイブルマンズ
愛をつづる(うた)』/『パーフェクト ワールド』/『ライフ・アクアティック』/『大脱走』/『ボヘミアン・ラプソディ』/『ラットレース』/『パルプ・フィクション
市民ケーン』/『ゴジラ(1954)』/『サイコ(1960)』/『ゴッドファーザー PART II』/『シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『ターミネーター』/『ダイナソー・プロジェクト』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!

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