
リヨ本気の求婚からの、遂に語られたヘブンさんの過去篇。
このドラマの特色は、そもそも史実がそうなっているからではありますが、明治維新から間もない時代、価値観の急変に士族が翻弄されていたのと同時期に、ヘブンがいたアメリカではまだまだ人種差別が色濃かった。ヘブン、ではなくラフカディオ・ハーンがシンシナティ在住時に黒人奴隷だった女性と結婚し、勤め始めた新聞社を逐われ、生活が破綻したのも事実です。なにせ尺があまりないので、だいぶ約めていましたが、ほぼあんな感じだったはず。
恐らく、ハーンにとって、こういう扱いを受けるのは、まったく想定外ではなかったにせよ、予想以上だったはず。ヨーロッパから渡ってきた人々にとってアメリカは“自由の国”というイメージがあったでしょうし、実のところハーン自身、アイルランド人の父とギリシャ人の母のあいだに生まれ、その出自故に苛められていた過去がある。混血だったマティ(劇中のマーサのモデル)との結婚に向かったのも、希望的観測があったのでしょう。
このことが即、ハーンのアイデンティティを決定づけたかどうかは不明ですが、ドラマにおけるヘブンが自らの漂泊する宿命を悟らせた、という解釈は大いに頷ける。そしてそれは、史実でもドラマでも、遠い東洋の国への渡航を決断させるきっかけのひとつになった、と捉えれば、確かに運命だった。
ヘブンから過去を打ち明けられたリヨが、ヘブンへの恋を諦めた、というくだりは、人によっては若干腑に落ちないようにも思われますが、個人的には頷ける。生まれてからずっと松江におり、この時代の旧士族としては恵まれた立場にあったリヨが、自らの想いだけでヘブンを縛り付けるのは難しい。そして、仮にこの先もひとつところに落ち着いていられるか解らないこの人物と添い遂げる厳しさを悟れば、躊躇するのが普通でしょう。
かくて恋の嵐がひとまずの収まりを見せたところで、いよいよトキとヘブンの関係性が変わってきたことをも感じさせる55話のくだりが微笑ましかった。しばしば重い展開があるのに、オアシスのように笑いを提供してきた松野家の風景に、トキとヘブンのやり取りが近づいてきた。来週以降、ますます楽しくなりそうです。
が、その一方で、何やら傷ついちゃった模様の錦織さんに不安要素をちらつかせつつ、次週は遂に“怪談”が始まります。やきもきさせましたが、これ以降の日本にとっても重要な役割を果たす二人の“創作”がいよいよドラマで描かれるのです。わくわく。


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