
“ラシャメン”騒動からヘブンさんの熊本移住という決断、そして錦織さんとの離別まで。
ラフカディオ・ハーンが著作の中で愛着を強く示していた松江を1年半ほどで離れた理由は、本当に「松江の冬が寒すぎたから」というのが一般的な通説だったりします。その寒さで体調を崩したのがセツと親しくなるきっかけだった一方で、本当に辛かったのでしょう。
しかし同時に、外国人と結ばれた女性に対し、理解があったわけでもないのも事実。これはどちらかと言えばハーンの側の話ですが、彼らが暮らしていた松江城の北側に当たる地域について、“鬼がいる”という話が一部の人々のあいだで囁かれていたといいます。
また、ハーンは晩年、東京の市ヶ谷近くに移り住みますが、その理由は、ハーンが帝大の講師に雇われた、という事実以外にも、セツが人口の多い都市であればこそ、自分の存在が埋もれることを望んだ、という側面もあったらしい。ハーンは都市よりも自然と古い文化の息づく町を愛し、松江滞在の頃に旅をした隠岐に移住することを望んでいたものの、セツの心情を考えて実行しなかった。
こうした史実を踏まえると、本篇のこの2週にまたがる展開は、実際のハーンの人物像、セツの置かれた境遇をきちんとドラマとして落とし込んでます。実際、偏見の眼差しに晒されたトキからすれば、たとえ世間の関心は薄れていた時期だったとしても、心穏やかに暮らせる状況ではなかった。ヘブンさんが、トキの夫として、家族として判断するのはごく自然です。
錦織さんは、いわばその巻き添えを食った形とも言える。トキとの出会いでややないがしろにされたようでふてくされていた時期を通り過ぎて、ようやく完成したヘブンさんの日本滞在記で“親友”と記されたことに喜び、松江中学校の校長への昇進、という好機にあの展開です。そりゃあ、表面的な理由だった松江の寒さを解消するため奔走するに決まっている。
ただ一方で、彼もやはりヘブンさんを友人と思っているし、トキの元夫・銀二郎の一件で偶然に知り合って以来、縁のある彼女を取り巻く状況の変化に理解もある。ヘブンの存在と対になった自らの立身出世が遠のいても、受け入れるほかない。周囲に期待されながらも帝大入学を果たせず、後ろ暗さを抱えたまま教職に就いていた錦織は、すべてのツケが回ってきた、という感覚で受け入れたのかも知れません。
それにしてもこのドラマ、間を多用して丁寧に感情を表現することが多いですが、今週は特に圧巻でした。ヘブンが松江を去る決心をした本当の理由を察したときの、宍道湖半に佇むトキの姿も印象的ですが、横顔だけで哀しみ、諦観、そして仄かに覗く穏やかな安堵まで演じきった吉沢亮は圧巻。本当に、いいドラマだと思う。
次週より新天地、そして予告された範囲ではドラマ最後の舞台となる熊本篇です……実のところ、熊本にも行きたい行きたい、と思いながら、イベントみたいな機会もなく未だ訪れていないので、体験的に語れる部分が減るのがちょっと悔しい。でも、ドラマとしては秀逸なので、最後まで楽しみます。
このあたりで錦織のモデルとなった西田千太郎についても語りたいところですが、今後について、どの程度まで史実に沿って描くつもりなのかが解らないので、もうちょっと棚上げにしておきます。


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