『レオン<完全版>』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン9入口に掲示された『レオン<完全版>』作品ヴィジュアル。(※『午前十時の映画祭10-FINAL』当時)

原題:“Leon” / 監督&脚本:リュック・ベッソン / 製作:パトリス・レドゥー / 製作総指揮:クロード・ベッソン / 撮影監督:ティエリー・アルボガスト / 編集:シルヴィ・ランドラ / キャスティング:トッド・セアラー / 音楽:エリック・セラ / 出演:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン、ダニー・アイエロ、ピーター・アペル、ウィリー・ワン・ブラッド、キース・A・グラスコー、ドン・クリーチ、ランドルフ・スコット、マイケル・バダルッコ、エレン・グリーン、エリザベス・リーガン、カール・J・マツソヴィッチ、フランク・センジャー / 配給:日本ヘラルド映画 / 映像ソフト日本最新盤発売元:TC Entertainment
1994年フランス、アメリカ合作 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:岡田壯平 / PG12
1995年3月25日日本公開
午前十時の映画祭10-FINAL(2019/04/05~2020/03/26開催)上映作品
午前十時の映画祭15(2025/04/04~2026/03/26開催)上映作品
2024年12月11日映像ソフト日本最新盤発売 [Blu-ray Disc]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2019/11/5)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2026/2/27)


[粗筋]
 イタリアからアメリカに渡り、ニューヨークに住み着いたレオン(ジャン・レノ)は、“掃除屋”として糊口を凌いでいる。父の代から世話になっているイタリア系移民の元締め・トニー(ダニー・アイエロ)の要請に応じて問題を“始末”していた。収入のほとんどをトニーに預け、古びたアパートで孤独に暮らしている。
 同じアパートに暮らす少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)は、恵まれない生活を送っていた。薬物の密売で収入を得る義理の父も腹違いの姉たちもマチルダに対して冷たく、母もマチルダに関心を示さない。マチルダにとって唯一心の慰めは、懐いてくれる4歳の弟だけだった。
 ある日、マチルダが買い物に出ているあいだに、彼女の家を暴漢たちが襲撃した。マチルダがアパートに戻ったときには、すべてが終っていただがマチルダは素知らぬ顔で見張りをやり過ごすと、レオンの部屋へと逃げ込む。
 成り行き上マチルダを匿う羽目になったレオンは、彼女を伴いアパートを離れる。安ホテルに拠点を構えたレオンに、マチルダは仇討ちを依頼しようとした。断ると、暗殺の技術を教えて欲しい、と請うが、これも拒絶する。だがそれでも、行き場をなくしたマチルダを追い出すことはしなかった。
 しかし、この奇妙な共同生活を続けるうちに、レオンの意志は変わり始める。成り行きでアメリカに渡ってきたレオンは未だに読み書きが出来ない。マチルダがレオンに英語を教える代わりに、レオンはマチルダに暗殺の技を手解きし始めるのだった――


TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された『レオン 完全版』上映時の午前十時の映画祭15案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された『レオン 完全版』上映時の午前十時の映画祭15案内ポスター。


[感想]
 デビュー作にすべてが詰まっている、という話がある。その後、どれほど技術を高め作品としての質を高めても、その監督の精髄はデビュー作にほとんど発見できる、というものだ。ただこれは、漫画家であったり小説家であったり、作品をほぼ自分ひとりの舵取りで作れる分野ならばともかく、多額の予算を要し緻密な計画を組んで製作される映画では必ずしも適用しづらい説ではないか、と思う。
 そもそも厳密には、これもリュック・ベッソン監督のデビュー作ではない。ただ、彼がプロデュースも含め多くの作品をリリースしたいま顧みると、この説が快いくらいに当て嵌まっている、と感じてしまう。その後濃厚になっていったリュック・ベッソン監督の“クセ”が、本篇にはぎっちりと、しかし適切なバランスで詰まっている。
 冒頭からの、極端なアングルからのアップによるカットを細かく積み重ね、イメージを膨らませるようなスタイリッシュな演出が施されている。独自の美学があると思しき暗殺者レオンの生活と仕事ぶりが描かれる傍らで、薬物取引に手を出す父親や、義理の母、姉たちに虐げられるマチルダの過酷な生活が織り込まれ、やがて交錯する。
 面白いのは、望んでこのようなライフスタイルを選択したかのようなレオンの、本当の事情が明かされていくにつれて、マチルダとの関係性は奇妙にねじれていくことだ。
 周囲に頼れる者など僅かしかなく、唯一自分を頼る弟を守り、父親からの暴力、義理の母親からの憎悪を一身に受け止めていたマチルダは、むしろ精神的に年齢不相応な部分がある。一方のレオンは、その確立されたルーティンが、他の生き方を知らなかったために決まったものであり、常識や世才についてはさほど身についていない。のちにそのことを自らマチルダに語る場面があるが、卑下するわけでも自嘲するわけでもなく、淡々と述懐する様に、異様な説得力がある。
 だからこそ2人の交流は危ういが、不思議と微笑ましい。マチルダの傍若無人な行動をレオンが叱る場面があるかと思えば、部屋で子供のように遊び回るような場面もある。一方は暗殺者として命の駆け引きを繰り返し、一方は犯罪の現場に居合わせたために逃亡を続けている身だ。血腥い状況に無垢な振る舞いが重なる描写は、詩的でさえある。
 一種、理想郷のような状況だが、ふたりが危険と隣り合わせであることに変わりはない。マチルダの家族を殺した犯人グループが、唯一の生き残りであるマチルダを探し、着実に肉薄していく。このくだりの緊迫感と、随所で描かれるアクションもまた、本篇の見せ場である。多くの場所を派手に移動して立ち回る形ではないが、レオンたちが身を潜めるような安宿、アパートであればこその構造を利用し、動きに多彩な趣向が凝らされ、見応えは抜群である。
 この作品の魅力的なところは、そうして執拗に、残虐にマチルダを追いつめるスタンスフィールドという人物の造形だ。
 極めて感情的で、敵対する者、損害をもたらす者を容赦なく殺す悪党だが、しかし奇妙な愛嬌がある。映画を観終わったあと、それがアクション映画なら自分が強なった気分になったり、劇中の印象的なアクションを真似てしまう、という経験をした方はいるはずだが、本篇の場合、件やマチルダではなく、スタンスフィールド、それも間仕切りカーテンを掻き分ける仕草のほうがまねたくなるだろう。
 魅力的だが危険なスタンスフィールドによってレオンとマチルダは追いつめられ、クライマックスには壮絶な戦いが待ち受ける。泥臭くも趣向に満ち、舞台を限定しているのに派手なアクションは目を離せない。そしてその中に、ドラマも織り込まれている。緊張感の中に哀感を宿し、それでいて一種の昂揚感、爽快感もある展開と決着は、ラストシーンに重なるように響くスティングの『Shape of My Heart』とともに強い印象を残す。
 教条的な部分などないが、際立って魅力的な要素に満たされた、優れたエンタテインメント作品である。本篇以降にもリュック・ベッソンは監督としても製作としても暗殺者、悲しい出自を持つ女性をしばしば採り上げているが、その精髄は本篇にほぼすべて詰め込まれている。

 本篇で映画界にその存在を知らしめたナタリー・ポートマンだが、漏れ聞く話から推測すると、彼女自身は本篇に対し、あまり快い思い出はないらしい。
 13歳にして本篇で鮮烈な存在を映画界に知らしめた彼女だが、年齢に似合わぬ色香を伴うキャラクター像は、様々な場面で尾を引くことになったらしい。この頃企画されたエイドリアン・ライン監督による『ロリータ』出演依頼を拒んだ、というエピソードもあって、イメージの定着を早くから怖れていたことが窺えるが、演技を離れた場面でもそのイメージは付きまとい、性的な眼で見られるのが苦痛だった、という。
 学問にも優れていたポートマンはその後、多彩な役柄に挑み、『Vフォー・ヴェンデッタ』ではスキンヘッドにも挑戦、そして2010年の『ブラック・スワン』でオスカーを獲得、もはや押しも押されもせぬ地位を築いた感がある。そんな彼女が苦い想いを抱く本篇を、安易に褒めるのはこの頃、躊躇われるようになってきた。
 ただ、現代の価値観で過去を裁く、というのは常に危険性を孕む。本篇の場合、ナタリー・ポートマンもジャン・レノもゲイリー・オールドマンも、監督含む多くのスタッフだって健在のはずなのだから、まるっきり過去の話には出来ないが、それでも既に価値観、倫理観は大きく異なる。明確に法を犯し危害を加える行為でもなく、当時の社会に蔓延していた意識や価値観で行われたことすべてを安易に裁くのは避けるべきだ。苦しめる意図がなく無自覚に振る舞っていた者もいれば、自身には疑問があっても、同調圧力に抗えなかった場合だってある。
 彼女の抱いた複雑な心情には寄り添うとしても、その苦難の末に生み出された本篇の価値は認めて欲しいし、これからも作品として愛する人があることは許してくれることを願いたい。少なくとも、そうして生み出された本篇の中には間違いなく、軽んじられ虐げられた人々の苦しみは宿っていて、そのくらいのメッセージ性は備わっている。


関連作品:
アンジェラ』/『LUCY/ルーシー
キス・オブ・ザ・ドラゴン』/『ダニー・ザ・ドッグ』/『トランスポーター』/『トランスポーター2』/『トランスポーター3 アンリミテッド』/『96時間
クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』/『スター・ウォーズ episode I/ファントム・メナス 3D』/『バットマン・ビギンズ』/『月の輝く夜に』/『スパイダーマン』/『アイランド(2005)』/『バーバー』/『ロシアン・ルーレット
雨に唄えば』/『夕陽のガンマン』/『時計じかけのオレンジ』/『ゴッドファーザー』/『タクシードライバー』/『フルメタル・ジャケット』/『羊たちの沈黙』/『ジュラシック・パーク』/『ゴースト・ドッグ』/『トランスフォーマー』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』/『キャプテン・マーベル

コメント

タイトルとURLをコピーしました