原題:“Gunpowder Milkshake” / 監督:ナヴォット・パプシャド / 脚本:ナヴォット・パプシャド、エフード・ラフスキ / 製作:アレックス・ハイネマン、アンドリュー・ローナ / 製作総指揮:シェイナ・エディ=グロフ、リュック・エティエンヌ、ロン・ハルパーン、アダム・フォーゲルソン、ディディエ・ルプファー / 撮影監督:マイケル・セレシン / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・シューネマン / 編集:ニコラス・デ・トス / 衣装:ルイーズ・フログリー / キャスティング:ルイス・エルナー、レイリン・サボ、オリヴィア・スコット=ウェブ、メアリー・ヴェルニュー、コーネリア・フォン・ブラウン / 音楽:フランク・イルフマン / 出演:カレン・ギラン、レナ・ヘディ、クロエ・コールマン、カーラ・グギノ、ミシェル・ヨー、アンジェラ・バセット、ポール・ジアマッティ、イヴァン・ケイ、デヴィッド・バーネル4世、ジャック・バンデイラ、アダム・ナガイティス、エド・バーチ、ラルフ・アイネソン、サミュエル・アンダーソン、マイケル・スマイリー、フレイヤ・アーラン / 配給:kino films
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / PG12
2022年3月18日日本公開
2022年8月9日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc]
ムービープラスにて初見(2023/8/22)
[粗筋]
サム(フレイヤ・アーラン)が12歳の頃、母スカーレット(レナ・ヘディ)は姿を消した。組織の殺し屋として働いていた母は、ある日、危険な状況にあることを告げ、追っ手の一部を始末したあとで去っていった。
それから15年後、成長したサム(カレン・ギラン)は母も使われていた組織《ファーム》のネイサン(ポール・ジアマッティ)のもとで、母と同様、殺し屋稼業をしていた。スカーレットの才能を受け継いだサムは、組織でも屈指の凄腕に育っていた。
だがその日は組織の情報不足により、想定よりも遥かに多い敵を相手にしたため、サムは傷を負い、結果として大虐殺を繰り広げてしまった。自分で傷口の手当てをしているところへ、ネイサンから電話がかかり、もうひとつ至急の用件を片付けてほしい、と頼まれる。
サムの新たな任務は、会計士が持ち逃げした組織の資金の回収。組織が居場所を特定していたので、サムにしてみれば簡単な仕事――のはずだった。金さえ返せば見逃すつもりだったが、会計士は意外な抵抗を見せ、揉み合ううちにサムは会計士の腹を撃ってしまう。そのとき、会計士の持っていた電話が鳴った。それは会計士の娘を誘拐した一味からの連絡で、手に入れた現金を取引場所まで持って来なければ、会計士の娘エミリー(クロエ・コールマン)を殺す、というものだった。
幼い少女を見捨てることなど、サムには出来なかった。会計士を、裏の仕事を請け負うリッキー医師(マイケル・スマイリー)に預けると、会計士の代理で、誘拐犯の指定したボウリング場へと赴く。
しかしここでも事態は最悪の展開を迎えてしまう。どうしても資金を回収したいネイサンが放った直属の部下3人組をどうにか押さえたサムだったが、金を手にした誘拐犯が仲間割れをして、挙句、金を詰めたスーツケースごと文字通りに吹き飛んでしまった。そして同じ頃、ネイサンの許に更に悪い報せが届く。直前の仕事でサムが皆殺しにしたなかに、《ファーム》にとっての得意先のひとつである犯罪組織のボス、ジム・マカレスター(ラルフ・アイネソン)の息子がいたのだ。
どうにかエミリーを病院まで連れていったサムだが、会計士は既に死んでいた。それに先んじて、サムに手酷く痛めつけられた3人組のもとには、改めてサムの抹殺命令が下っている。
この絶体絶命の状況で、サムはエミリーを守り抜き、自らも生き延びることが出来るのか――
[感想]
女性を主人公としたアクション映画はもうさほど珍しくはない。『トゥームレイダー』『ソルト』と単身で主役を張るヒット作を繰りだしたアンジェリーナ・ジョリー、《ワイルド・スピード》シリーズを筆頭に多彩な作品に出演、もはや“強い女”のアイコンと化した感のあるミシェル・ロドリゲスなど、アクションの分野で存在感を示す女性俳優も以前より増えてきた。
しかし、本篇ほど“女性”というものが強く逞しい存在として際立った作品は特異だ、と思う。
主人公サムは、殺し屋として生きてきた女性の娘として育ったサム。母が行方をくらましたことをきっかけに、自身も若くして、暗殺を生業とするようになる。母親譲りの能力で一目置かれるが、思わぬ経緯から、自身を囲ってきた組織と敵対する羽目になる。
この一連の成り行きで明白になるサムの姿はハードボイルドな凜々しさに満ちているが、経歴故に、事態に巻き込まれて危険に晒された少女を見捨てることが出来ない。そこから、様々な勢力と交戦する中で、実に様々な戦い方をすることとなる。
本篇の魅力は、こうしたアクション・シークエンスの大半が、ユニークなアイディアと趣向に彩られていることだ。
序盤からアクションは見応えがあるが、身代金を巡る駆け引き辺りから一気に、魅力が増す。お互いに殺傷能力のある武器を封印された同士がボウリング場の設備を活用したくだりから、銃撃と乗用車が入り乱れる誘拐犯との激闘で、アクション映画好きなら既に痺れる仕上がりだが、病院における死闘は更に素晴らしい。サムを待ち受けるのは、既に痛めつけられてボロボロになっているが、飛び道具を所持した連中だ。対するサムは、策略によりかなりのハンデを負っている。このハンデを克服する、というか、逆手に取ったかのようなアクションシークエンスはたぶん映画界でもほとんど例がなく、観ていてアドレナリンが湧いてくる。
しかも、この派手で暴力的なアクションに、常にユーモアが感じられるのも本篇の魅力だ。これも特に病院でのひと幕に顕著だが、笑気ガスの使い方や、なんでこんなものが、と思うようなガジェットがきちんと活かされる辺りは、笑いつつも唸らされてしまう。
こうしたアイディア豊かなアクションが、サムを中心とした女性陣を主として演じられていることも、本篇の特徴であり、魅力でもある。
男性主体だと、格闘技系の覚えがあるアクション俳優が中心とならないと、パワー系に偏りがちだが、女性が中心、しかも男性相手となると、パワーよりも技術で翻弄する描写に説得力が生まれる分、キレのあるスタイリッシュな描写が主体となる。本篇は、アイディア豊かなアクション表現とも相俟って、特にスタイリッシュさが際立っている。
しかも、女性、しかも“殺し屋のひとり娘”という設定を主人公に与えたことで、物語全体がシングルマザーと娘の厄介な関係性の象徴としても機能している。
母親に置き去りにされ、やむなく同じ仕事に携わったサムが、図らずも自分のせいで天涯孤独となったエミリーを守るため奔走する。男性が主体となった組織が彼女を見放す一方で、やがて手を差し伸べるのがまた腕に覚えのある女性たちなので、本篇は“女性対男性”という構図を明瞭にしていく。しかも、従来のアクション映画における女性たちのように、守られたりサポートされて成立する強さではなく、ほとんどが少人数で男たちを手玉に取るほどに強い。無敵ではないが、しかし決して弱音を吐かないサムたちの逞しさが痛快だ。
ただ、だからといって決して“女性”であることを主張していないので、押しつけがましさがない。次第に、シンブルにサムたちの強さ、窮地に陥ってもユーモアを失わない生命力に痺れ、最後には爽快感が味わえる。台詞の組み立てにもセンスがあり、印象深い。
この着想の巧さとスタイリッシュな表現を、質の高い映像が支えている。スピーディながら観ていて動きの伝わりやすい、アクション映画として優秀なカメラワークもあるが、色調やデザインがポップな美術の功績も大きい。プロダクション・デザインを担当したデヴィッド・シューネマンは『デッドプール』初期2作や『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』を手懸けているが、本篇の前にも女性をメインとした『アトミック・ブロンド』を担当、そして本篇の次には、ポップな異次元に再構築された“トーキョー”を舞台にした『ブレット・トレイン』を手懸け、作を追うごとにスタイルを先鋭化している節がある。
クライマックスのサム・ペキンパーめいた演出もあって、まるで高度に現代化された西部劇の趣がある。過激なシーンも多いので、暴力表現が苦手な方はもちろん、お子さまに勧めるには注意が必要と思われるが、世代問わず勧められる娯楽映画だと思う……なんで映画館で観なかったんだ私は。
関連作品:
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『日の名残り』/『レッド・バロン』/『カリフォルニア・ダウン』/『ソード・オブ・デスティニー』/『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』/『ワイルド・ストーム』
『ワイルドバンチ』/『レオン 完全版』/『ファイト・クラブ』
『トゥームレイダー』/『ソルト』/『ウルトラヴァイオレット』/『ブラック・ウィドウ』/『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』/『ブレット・トレイン』




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