『戦場のメリークリスマス』

ヒューマントラストシネマ有楽町、チケットカウンター手前に掲示された『戦場のメリークリスマス〈4K修復版〉』ポスター。
ヒューマントラストシネマ有楽町、チケットカウンター手前に掲示された『戦場のメリークリスマス〈4K修復版〉』ポスター。

原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト『影の獄にて』 / 監督:大島渚 / 脚本:大島渚、ポール・メイヤーズバーグ / 製作:ジェレミー・トーマス / 撮影監督:成島東一郎 / 撮影:杉村博章 / 美術監督:戸田重昌 / 編集:大島ともよ / 音楽:坂本龍一 / 出演:デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし、トム・コンティ、内田裕也、三上寛、ジョニー大倉、アリステア・ブラウニング、飯島大介、本間優二、室田日出男、戸浦六宏、金田龍之介、内藤剛志、石倉民雄、三上博史、車邦秀、ジェイムズ・マルコム / 初公開時配給配給:松竹、松竹富士、日本ヘラルド / 映像ソフト最新盤発売元:紀伊国屋書店 / 2021年4K修復版配給:Unplugged
1983年日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド合作 / 上映時間:2時間3分
1983年5月28日日本公開
2021年4月16日4K修復版日本公開
午前十時の映画祭8(2017/04/01~2018/03/23開催)上映作品
2013年11月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
2021年4K修復版公式サイト : https://oshima2021.com/
日比谷みゆき座にて初見(年月日不明)
TOHOシネマズ新宿にて初見(2017/12/25)
ヒューマントラストシネマ有楽町にて再鑑賞(2021/04/20) ※4K修復版の2K上映、トークイベント付上映


[粗筋]
 1942年、ジャワ島の俘虜収容所長であるヨノイ大尉(坂本龍一)は、拘禁所長(内田裕也)の要請で裁判官を務めることになった。
 戦闘行為以外で日本軍を殺害したかどで被告となった英国軍少佐ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)は、しかし毅然とした態度で無罪を主張した。審判長のフジムラ中佐(金田龍之介)らは即刻死刑に処すべきだ、と唱えるが、ヨノイ大尉は尋問を経てセリアズを俘虜として収容所に受け入れた。
 日本軍と多数の外国兵が捕らえられた収容所では、様々な問題が渦巻いていた。
 朝鮮系の軍属カネモト(ジョニー大倉)が独房に閉じこめられていたオランダ軍兵士カール・デ・ヨン(アリステア・ブラウニング)を襲ったことが捕虜たちのあいだに知れ渡り、デ・ヨンは他の捕虜たちから狙われるようになっていた。日本語が堪能であることから、通訳として日本軍に重宝されているジョン・ロレンス英軍中佐(トム・コンティ)は懇意にしているハラ・ゲンゴ軍曹(ビートたけし)にデ・ヨンの保護を求めるが、ハラははねつけた。
 俘虜たちの動向に神経を尖らせるヨノイ大尉は、銃器に詳しい俘虜たちの名簿が存在することを知り、俘虜長ヒックスリー(ジャック・トンプソン)に提出を求めた。しかしプライドに固執するヒックスリーは一向に首を縦に振らない。そこでヨノイは、セリアズに俘虜長を交代させようと画策した。セリアズの持つリーダーとしての資質が、俘虜収容所の管理を円滑にする、と考えたのである。
 だが、セリアズはヨノイの想像通りにはならなかった。カネモトはヨノイの温情により切腹での決着を認められたが、その現場に立ち会わせた“被害者”デ・ヨンは、カネモトの絶命と共に舌を噛み切り自害した。立ち会った俘虜長たちの態度に憤り、48時間に及ぶ“行”を命じたヨノイに対し、セリアズはデ・ヨンの葬儀という名目で反抗を試みる――


TOHOシネマズ日本橋、スクリーン1入口前に展示された『戦場のメリークリスマス』上映期の『午前十時の映画祭8』案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン1入口前に展示された『戦場のメリークリスマス』上映期の『午前十時の映画祭8』案内ポスター。


[感想]
 公開から数年後に実施されたリヴァイヴァル上映の際に初めて鑑賞し、2017年の『午前十時の映画祭8』、そして2021年の4K修復版公開の際にもういちど鑑賞した。観れば観るほどに、本篇は味わいを増していく気がする。
 大島渚監督は従来から挑戦的な映画作りをしてきたというが、そのなかでも本篇のキャスティングはかなり攻めたものだったようだ。なにせメインキャストのセリアズ少佐、ヨノイ大尉、そしてハラ軍曹、いずれも本業は俳優ではない。
 特殊な役だったようだが演技経験はあったデヴィッド・ボウイ、本業ではないが芸人として芝居は可能だったビートたけしはともかく、坂本龍一の喋り方は率直に言って聞き取りづらい。自然な演技と解釈するにしても無理があり、序盤は台詞を把握しづらい。
 ただ、序盤はともかく、物語が展開していくにつれて、この聞き取りづらさは関しづらくなる。観客側がある程度慣れてくるのもあるだろうが、聞き取りにくいが故に、意識的に会話を丁寧に聞こうとするのも功を奏しているのかも知れない。しかしそれ以上に、作品全体に滲む不条理感、この頃の日本軍と西欧社会の価値観の掛け違いが、ひとつひとつの場面を際立たせている。
 本篇で注目すべきは、日本軍の軍人たちの振る舞いも、捕虜となった外国の兵士たちの言動も、当人たちの価値観においては常識の埒内に収まっている点だろう。いまとなっては全体の思慮の乏しさ、同調圧力の強さが批判的に語られる日本軍の動向だが、しかしそんな中にもルールはあり、個人の信条に基づく正義がある。攻撃、投稿の事情を鑑みず犯罪者としてセリアズを裁こうとした審判長に対し、冷静に判断し、そのリーダーシップを俘虜たちの統率に用いようとしたヨノイ大尉の発想も、暴力的だが随所でルールの適用に柔軟さを見せるハラ軍曹も、彼らなりの正しさを追い求めている。処罰として実施される切腹を見届けさせようとしたヨノイに反発する俘虜長も、そして周囲を翻弄し続けるセリアズにしても、彼らの育ってきた社会、培ってきた価値観に明白に従っている。
 実質的な視点人物であり、語り手の役を果たすローレンスは、二・二六事件当時に日本にいた、と劇中で触れているくらいで、日本文化はもちろん、日本が戦争という選択に至った内幕まである程度把握している、と窺える。だからこそ彼は、その暴力性に眉をひそめつつもハラと親しく接し、通訳という立ち位置で日本軍と捕虜との橋渡しをしている。双方の価値観や信条に理解があればこそ、ローレンスはどちらにもつくことが出来ない。そして、そんな彼だからこそ、本篇を象徴するクライマックスの台詞が出てくる。
 広告でも触れているように、本篇は“戦争映画”に分類できるが、戦闘シーンは一切ない。にも拘わらず、本篇には戦争という特殊な状況がもたらす歪みがはっきりと感じられる。セリアズの裁判には“戦争犯罪”と呼ばれるものの定義の曖昧さが象徴され、ヨノイ大尉やハラ軍曹、また他の軍人たちとそれぞれに異なる捕虜との接し方にも、同じ目的に殉じているようでまったく異なるそれぞれの倫理が透け見える。そして、クライマックスに及んで、立ち位置がねじれていくのもまた象徴的だ。
 だが、そうした極限の中でも、人間関係は確かに形作られる。それは序盤で描かれる不祥事にも覗き、印象深いクライマックスでのヨノイ大尉の行動にも繋がっていく。何より、深い余韻を残す最後のひと幕が象徴的だ。終戦を迎え、立場が変わってしまったローレンスとハラとのあいだに流れる、苦くも優しい空気。戦争がなければ出会うことがなかったかも知れないふたりの友情と、避けようのない別れがもたらす余韻は、ハラの最後の笑顔と共に深く胸に響く。
 ヨノイ役で出演もしている坂本龍一の、シンセサイザーを多用した繊細で透明感のある音楽とも相俟って、本篇は過酷な環境、むくつけき男共ばかりの絵面にも拘わらず、まるで全篇が映像詩のようだ。キャスティングの話題性によって日本ではブームにもなった作品だが、そのブームの記憶が消え去ってもきっと映画史にその存在を留める名作だと思う。


関連作品:
プレステージ』/『王立宇宙軍 オネアミスの翼』/『夜叉(1985)』/『コミック雑誌なんかいらない!』/『女優霊』/『この子の七つのお祝いに』/『コクリコ坂から』/『予言
大脱走』/『戦場にかける橋』/『日本のいちばん長い日<4Kデジタルリマスター版>(1967)』/『ダンス・ウィズ・ウルブズ』/『ライフ・イズ・ビューティフル』/『戦火の馬』/『ロープ/戦場の生命線』/『30年後の同窓会』/『海辺の映画館-キネマの玉手箱』/『ミックマック

ヒューマントラストシネマ有楽町、ロビー奥に展示されたに掲示された『戦場のメリークリスマス』初公開当時の海外版ポスターのレプリカ。
ヒューマントラストシネマ有楽町、ロビー奥に展示されたに掲示された『戦場のメリークリスマス』初公開当時の海外版ポスターのレプリカ。

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