『シェルター(2026)』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン4入口脇に掲示された『シェルター(2026)』ポスター。
ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン4入口脇に掲示された『シェルター(2026)』ポスター。

原題:“Shelter” / 監督&製作総指揮:リック・ローマン・ウォー / 脚本:ウォード・パリー / 製作:ジェイソン・ステイサム、ジョン・フリードバーグ、ブレンドン・ボイア、グレッグ・シルヴァーマン、ジョン・バーグ / 撮影監督:マーティン・アルグレン / プロダクション・デザイナー:ティム・ブレイク / 視覚効果スーパーヴァイザー:マシュー・マシコット / 編集:マシュー・ニューマン / 衣装:スージー・ハーマン / キャスティング:ディクシー・シャセイ / 音楽:デヴィッド・バックリー / 出演:ジェイソン・ステイサム、ボディ・レイ・ブレスナック、ビル・ナイ、ナオミ・アッキー、ダニエル・メイズ、ハリエット・ウォルター、ブライアン・ヴィジエ / イースタン・フィルム・インヴェスティメンツ/ブラック・ベアー/パンチ・パレス製作 / 配給:kino films
2026年イギリス、アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:平井かおり / PG12
2026年8月28日日本公開
公式サイト : https://shelter-movie.jp/
ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2026/8/28)


[粗筋]
 スコットランド沖に浮かぶ孤島には、今はもう使われなくなった灯台がある。かつて灯台守が暮らしていた部屋に、男(ジェイソン・ステイサム)は暮らしていた。同居人は犬1匹だけ、物資は週にいちど、旧知の人物がボートで運んでくるだけで過ごしている。
 ある日、孤島の付近の諸島を激しい嵐が襲った。折悪しく、物資の輸送の日に重なっており、ボートを停泊させた配達人から荷物を預かり、島まで小さな船で運んでいた配達人の姪・ジェシー(ボディ・レイ・ブレスナック)が海に転落する。孤島の男は躊躇なく船を出し、ジェシーは辛うじて救出したものの、配達人は巻き添えで転覆した船に閉じ込められ、男が助けるのは不可能だった。
 男はやむなくジェシーを介抱した。彼女は足首を痛めているうえ、身寄りは海に沈んだ叔父ひとりしかいない。男はジェシーを島に留め、治療を施した。当初は頑なだったジェシーだったが、寡黙だが男が自分に心を配っていることに気づき、信頼を寄せるようになる。
 ジェシーの怪我は思いのほか治りが悪く、島にある医療品では間に合わなかった。やむなく男は島を出、街で必要物資を仕入れて、すぐさま島に戻る。
 その晩、男が島内に仕掛けていた警報装置が作動した。特殊部隊が島に潜入したことを知ると、男は容赦なく全員を始末する。自分が島に潜んでいたことを勘づかれた、と悟った男はジェシーを連れて島を発った。
 事実、訳あって潜伏していた男の存在は、かつて所属していた組織――MI6によって捕捉されていた。しかしその背後には、男が関係していた計画《トンビ》を隠蔽するための、策動が絡んでいたのである……。


[感想]
 つくづく、ジェイソン・ステイサムという人は、俳優としての自分の魅力、価値をよく理解していると思う。映画界での存在感を増し、製作にも踏み込んで、作品のコントロールが出来るようになってからも、安易に新境地にばかり挑んで方向性を見失ったりせず、彼がこれまでの出演作で育てた魅力、存在感を活かせる作品を意識して選んでいる。
 本篇もまた、ファンやアクション映画を好む人々が“これぞジェイソン・ステイサム”と納得ざせられるタイプの作品である。
 序盤、ジェイソン・ステイサムが演じているのがどういう人物なのかは解らない。孤島で、犬だけを同居人として、これといった娯楽もなく、ひたすら静かに息を潜めて暮らしている。何かワケありであることは察しがつくが、詳細は語られないまま、最初のトラブルが発生し、主人公は遭難した少女・ジェシーを島に置くことになる。
 明らかに、子供の扱いに慣れていないのも窺えるが、しかし接し方には節度があり、思慮も窺える。そんな男が、思っていたよりも重いジェシーの怪我を医者に見せず、自力で治そうとするあたりにも、どうしても身を隠さねばならない事情がちらつくが、実際に、この配慮によって男は捕捉され、苛烈な追撃を受ける。 
 もしステイサム演じる主人公が冷酷な男であれば、ジェシーをもっと淡々と扱うことも出来ただろう。しかし、男は危機を脱するために動く一方で、ジェシーの安全を考慮する。そこには、ジェシーが囚われた場合、追っ手が自身の手懸かりを求めて、彼女を残酷に扱う可能性もある。だが恐らくはそれ以上に、天涯孤独となったジェシーを更に苦しめることが出来ない、無骨な優しさもあった。
 必要なときは危険と背中合わせの手段を取るが、その場合はジェシーに対し、必ず自分の指示に従うよう言い聞かせ、彼女にとってのリスクを最小限に留めようとする。序盤は彼女のことを“荷物”と表現し、心を通わせるようになってから更に本気で彼女を守ろうとする。
 実のところ、ステイサムが演じる主人公は、最初からこの線引きが明確だ。冒頭、上陸してきた特殊部隊についてはかなり容赦のない対応をしているが、それ以降の主人公は、明確な殺意を向けてこない相手には、決して命を奪うような真似はしていない。闇雲に命を奪うことがのちのち、別の脅威を作り出す可能性を考慮しているのかも知れないか、本格的な逃亡が始まったあたりで、明らかに巻き添えで死んだ人物の関係者にかけた言葉は、決してそうした利害のみで動いていない、主人公の本質的な優しさを滲ませている。
 アクションは相変わらず、いたずらに強い。刺客の側にも、なかなか排除できない強敵がいるが、大抵の追っ手や刺客は簡単に打ち倒してしまう。その鮮やかな手際や、趣向を凝らしたカーチェイス、そうしたアクションを臨場感豊かに捉えるカメラワークも間違いなく本篇の魅力であり、それもまたステイサム映画の醍醐味だが、本篇の場合、前述のようなまさしく“ステイサム流ハードボイルド”と言えるキャラクターと世界観、それらが醸し出す雰囲気こそが最大の魅力だ。
 良質なハードボイルドは脇役も味がある。黒幕や、並行して主人公を追うMI6の幹部、主人公が協力を請うかつての同僚など、それぞれ人物像にしっかりとした背景を感じさせて物語に厚みを添えているが、やはり特筆すべきは、主人公と共に逃避行に赴くジェシーだろう。
 そもそも恵まれていない境遇にいるジェシーは、海難事故で叔父を喪ったことで天涯孤独となった。およそ頼るものがなく、導く主人公に従う以外に手立てはないのだが、その中で見せる意志の強さと利発さが印象的だ。すぐに主人公の意図を汲んで従うばかりでなく、それでもあえて自発的に行動する場面がある。そうして気づけば、ただ守られているだけではなく、主人公の精神的な支柱にもなっていく姿に、幼くも主人公に劣らない逞しさを感じる。
 人物像がしっかりしていればこそ、アクションの派手さに頼らず物語が構築され、結末にカタルシスが生まれている。エピローグにあたる場面の粋さと清々しさは、忘れがたい余韻を齎す。
 物語の構想にそこまで際立ったところはないし、アクションも決して独創的だったり、ド派手なものではない。しかし、ただB級と切って捨てることの出来ない魅力が本篇には備わっている。そしてそれが、“ステイサムの映画”という文脈の中で成立しているのが素晴らしい。


関連作品:
『ワーキングマン』/『MINAMATA ミナマタ』/『1917 命をかけた伝令』/『最後の決闘裁判』
『SAFE/セイフ』/『ハミングバード』/『レオン 完全版』/『ガンパウダー・ミルクシェイク』

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