『アンチ・ライフ』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン7入口脇に掲示された『アンチ・ライフ』チラシ。
TOHOシネマズ西新井、スクリーン7入口脇に掲示された『アンチ・ライフ』チラシ。

原題:“Breach” / 監督&編集:ジョン・スーツ / 脚本:エドワード・ドレイク、コーリイ・ラージ / 製作:コーリイ・ラージ、ダニー・ロス / 製作総指揮:メアリー・アロエ、シャナン・ベッカー、ウィリアム・V・ブロムリー、ダニー・チャン、マット・コーエン、マイク・ドノヴァン、ロジャー・ドーマン、エドワード・ドレイク、スティーブン・イアドス、デヴィッド・ファノン、ライアン・チャールズ・グリフィン、アレクサンダー・ケイン、アンドリュー・コトラー、ベンジャミン・クラウス、ジョニー・メスナー、セス・ニードル、ジョナサン・サバ、ネス・サバン、カルロス・ヴェラスケス、エリザベス・ザヴォイスキー / 撮影監督:ウィル・ストーン / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ディーン・エバート、メリッサ・ウッズ / 衣装:キンバリー・マテラ / キャスティング:チャドウィック・ストラック / 音楽:スコット・グラスゴー / 出演:コディ・カースリー、ブルース・ウィリス、レイチェル・ニコルズ、ティモシー・V・マーフィ、トーマス・ジェーン、カサンドラ・クレメンティ、ジョニー・メスナー、コーリイ・ラージ、カラン・マルヴェイ、ヨハン・アーブ / 308エント/オルモスト・ネヴァー・フィルムズ製作 / 配給:Presidio
2020年カナダ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:神田直美 / PG12
2021年1月15日日本公開
公式サイト : https://anti-life.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2021/1/28)


[粗筋]
 西暦2242年、地球は疫病の蔓延によって滅亡の危機に瀕していた。富裕層や、ごく一部の選ばれた5000万人は、量子エネルギーを駆使した宇宙船で半年を要する距離にある《ニュー・アース》へと移住することになった。
 貧困者たちが抗議に殺到するなか発射する宇宙船に、ノア(コディ・カースリー)はどうにか潜り込むことに成功する。搭乗資格はなかったが、宇宙船を取り仕切るアダムス提督(トーマス・ジェーン)の娘・ヘイリー(カサンドラ・クレメンティ)と恋仲になっていたノアは彼女と、彼女のお腹にいる子供のため、離れるわけにはいかなかった。
 密航者は厳しく扱われることになっていたが、ノアは船内の雑務を担当する労働者を装い、どうにか監視をかいくぐる。雑務を担当するクレイ(ブルース・ウィリス)には見抜かれているようだが、洗面所やトイレの清掃など、重労働を積極的にこなすことで、どうにか見逃してくれているようだった。
 3ヶ月が過ぎたころ、船内に異変が起きる。数名の乗員が突如として行方をくらましたのだ。ようやく発見されたのは、部屋一面に飛び散った血と肉片。やがて消えていた乗員のひとりブルー(ジョニー・メスナー)が、冷凍睡眠の機密扉を破ろうとしているところを発見される。実働部隊の責任者であるスタンリー(ティモシー・V・マーフィ)が追い詰めると、ブルーは予想外の行動に出た――


[感想]
 滅亡寸前の地球、宇宙船のなかに突如起きる、未知の災害。こうしたモチーフは、SFというジャンルにおいて、さほど珍しいものではない――というか、手垢がつきまくっている。ただ、だから独創性がない、とか面白みがない、と評するのは短絡的だ。同じモチーであっても切り口や着眼点を変えて独自性を生み出すことはまだまだ出来るだろうし、緻密に掘り下げてドラマとしての奥行きを追求することも可能だ。実際、本篇より先に配信にて日本でも鑑賞出来るようになった『ミッドナイト・スカイ』でも同様のモチーフが認められるが、極地の天文台にひとり残ることを選択する主人公や、通信でしか存在を確認出来ない生存者、といった様々な趣向でドラマ性や詩情を高め、巧みに奥行きを生み出していた。
 しかし本篇は残念ながら、独自性においても物語の奥行きにおいても、先行作品を上回ることはむろん、異なる存在感を示せてもいない。
 地球を襲った疫病がどういった性質のものなのか、とか、多くの人々を取り残していくうえでの選別がどのように行われたのか、などという細部が省略されているのはまだいい。本篇の恐怖や緊張を生み出すべき、宇宙船内に現れた“脅威”の特質、弱点などがあまりにも雑に扱われているため、衝撃にもカタルシスにも繋げることが出来ていない。
 粗筋では、異変が始まったあたりで止めてしまっているが、“脅威”となる存在がどのように影響を広げていくのか、が非常に曖昧に描かれているうえ、物語の中心にいるひとびとがその点をほとんど考慮せずに動くので、尚更に理解が難しい。それどころか、細かな描写を検証していくと、少なからず違和感や矛盾があるように思えてならない。
 また、人物の動きにもいまいち筋が通っていないのも問題だ。大勢を収容しているとはいえ、行動範囲が限られているはずの宇宙船内で、ひとりが粉々に吹き飛ぶような事件が発生してもそれをなかなか把握出来ないこと、看過できない事態にも拘わらず稼働している人員に対する情報共有が実施されない――敢えて「しなかった」にしてもそこに言及がない、等々、こうしたパニックを内包する作品として、思慮の乏しさが随所で目立っている。
 作品全体がこの調子で、あらゆる描写に芯がなく奥行きにも乏しい。いちおう全篇に亘って紆余曲折があり、この設定ならではの展開やアイディアがちりばめられているので、とりあえず観てはいられるのだが、致命的なほどに「面白い」という印象がない。クライマックスに至るまで、予測は出来るけどそれを上回ってくれない、という苛立ちばかりがつきまとう。
 救いは、俳優たちはそれぞれに自分の役割を全うし、それなりの味わいを醸している点くらいだろう。密航が発覚する緊張に終始見舞われながらも、恋人やほかの仲間たちのために奔走する主人公、強面で厳しいが、肝心なところで娘や恋人を気遣い、脅威と果敢に向き合うアダムス提督の姿などはそれなりにドラマを感じさせる。とりわけブルース・ウィリスは、曰くありげな設定に反して、実はそんなに活躍もしていないのだが、そう思わせないほどの存在感とキャラクターとしての色香を醸しているあたり、さすがと言うほかない。純粋にブルース・ウィリスが観たい、というだけなら、案外あまり不満を覚えないかも知れない。
 とはいえ、全体としてはあまりにも作りの甘いSF映画、と言わざるを得ない。セットがごく限られていることや、キャストを兼ねる主要スタッフも見られるあたりから、そもそも予算が乏しかったことは窺えるが、そうだとしてもまだまだやりようはあったはずだ。コロナ禍による上映作品不足がなければ、ひっそりと映像ソフトがリリースされるだけで終わった作品だったと思う。


関連作品:
ミスター・ガラス』/『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』/『ローン・レンジャー』/『ミスト』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティス』/『バイオハザードV:リトリビューション
2001年宇宙の旅』/『ガタカ』/『ノウイング』/『地球、最後の男』/『オブリビオン』/『エリジウム』/『オデッセイ』/『アド・アストラ』/『ミッドナイト・スカイ
ゾンビ [米国劇場公開版]』/『エイリアン』/『プロメテウス』/『復活の日』/『28日後…』/『コンテイジョン』/『デッド・ドント・ダイ

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