“TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口に掲示された『アントマン&ワスプ』チラシ。
原題:“Ant-Man and The Wasp” / 監督:ペイトン・リード / 脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ、ポール・ラッド、アンドリュー・バレル&ガブリエル・フェラーリ / 製作:ケヴィン・ファイギ、スティーヴン・ブルサール / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、チャールズ・ニューワース、スタン・リー / 共同製作:ミッチ・ベル / 撮影監督:ダンテ・スピノッティ / プロダクション・デザイナー:シェパード・フランケル / 編集:ダン・レーベンタール、クレイグ・ウッド / 衣装:ルイーズ・フログリー / 視覚効果監修:ステファン・セレッティ / ヴィジュアル開発主任:アンディ・パーク / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:クリストフ・ベック / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ペーニャ、ウォルトン・ゴギンズ、ボビー・カナヴェイル、ジュディ・グリア、ティップ・“T.I.”・ハリス、デヴィッド・ダストマルチャン、ハンナ・ジョン・カメン、ランダール・パーク、アビー・ライダー・フォートソン、ローレンス・フィッシュバーン、ミシェル・ファイファー、マイケル・ダグラス / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:林完治
2018年8月31日日本公開
2019年9月4日映像ソフト日本最新盤発売 [MovieNEX|4K UHD MovieNEX]
公式サイト : http://marvel-japan.jp/antman-wasp
TOHOシネマズ上野にて初見(2018/09/27)
[粗筋]
かつては泥棒稼業をしていたスコット・ラング(ポール・ラッド)は、縁あってハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)とその娘ホープ・ヴァン・ダイン(エヴァンジェリン・リリー)のもと、身体のサイズを自在に変えることの出来るスーツの扱いを学び、“アントマン”として事件の解決に貢献した。しかし、ヒーローたちの同盟“アベンジャーズ”で内部抗争が発生した際、ヒーローが各地で繰り広げる戦闘による災害を抑えるために制定された“ソコヴィア協定”に違反したかどで逮捕されてしまった。投獄こそ免れたものの、2年に及ぶ自宅軟禁と3年の保護観察期間を命じられ、愛娘キャシー(アビー・ライダー・フォートソン)との大切な面会日にも家で遊ぶ以外の選択肢がない有様だった。
刑期も残すところ3日になったその晩、スコットは奇妙な夢を見る。前にいちどだけ突入した量子レベルの極小世界で目撃した光景と、そして、何故か母親として、娘と隠れんぼをしている光景だった。この奇妙な体験に、スコットは隠し持っていた携帯電話で、ピム博士に連絡を取ろうとするが、応答はなかった。
だがそのあと、スコットは突如、眠らされ、気づけばホープの運転する車の中にいた。アベンジャーズ内紛の際、スコットが勝手にスーツを持ち出した巻き添えで追われる身となっていたホープとピム博士は、伸縮自在の携帯式ラボで転々としながら、ある希望に託して研究を続けていたのだ。
ピム博士の妻ジャネット(ミシェル・ファイファー)はかつて優れた研究者であり、ピム博士とともにスーツをまとい“ワスプ”として極秘任務に就いていた。だが、大陸間弾道ミサイルを破壊する任務を帯びた際、内部に潜入するため量子のレベルにまで縮小し、戻れなくなってしまった。生存を絶望視していたピム博士だったが、スコットが娘への想いを頼りに量子世界から帰還した事実に希望を抱き、かつて開発を進めていた、ポッドを用いて量子世界に突入するためのトンネルの開発に着手していたのだ。いよいよ完成間近となって、スコットが電話で語った内容を知り、それが量子世界にいるジャネットからのメッセージだ、と直感して、彼を連れ出したのだ。
トンネルの完成には極めて貴重なパーツが必要となる。その取引のために、ホープは闇の商人ソニー・バーチ(ウォルトン・ゴギンズ)との取引に赴く。どうにか部品の調達に成功しかけたそのとき、謎の人物が壁をすり抜けて現場に突入してきた――
[感想]
《アベンジャーズ》シリーズを要とする《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》はどんどん話が重たくなっている。マーヴェル・スタジオが発足して10年、毎年2~3作のハイペースでリリースを続け、シリーズごとに異なった事件が展開しつつもそれらが次々に積み重なっていくのだから、どうしても必要な予備知識は増えていくし、過去に重たい事実を背負わざるを得なくなる。まして本篇は、あまりにも衝撃的だった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の直後のリリースである。知りながらでは、先が気になりつつも、観る者としても気が重くなるのは当然だ。
ただ、このタイミングでの『アントマン』続篇、というチョイスは絶妙、と言えるかも知れない。現在、映画版として発表されたマーヴェル作品のなかで、“アントマン”というのは特殊な位置づけにあるからだ。
そもそも、数多いマーヴェル作品のヒーローのなかでも、アントマンとなるスコット・ラングは格別に人間くさい。キャプテン・アメリカのような驚異的身体能力もなければスパイダーマンやドクター・ストレンジのような特殊能力もない。そういう意味ではアイアンマンがいちばん近いが、あちらは超のつく大金持ちで、しかも自らパワードスーツを制作する頭脳も持ち合わせている。出自は泥棒、それも捕まって刑務所帰り、一時は別れた妻にも見放されていたほどだから、歴代のヒーローのなかでも飛び抜けて惨めな来歴だ。
だがそれ故に、日常感覚は他のどのヒーローよりも豊かだ。それが観る者にとっては親しみやすさに繋がるとともに、作品にも独特のリズムをもたらしている。
前作において、いちおうヒーローとしての職務を果たしたことで、泥棒稼業からは正式に足を洗い、かつての仲間とともに警備会社を創業したが、しかし『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の事件が原因で、2年間の自宅軟禁を余儀なくされている。劇中では残り3日で軟禁が解かれる段階だが、お約束のようにここでトラブルが舞い込んでくるわけだ。娘の笑顔を生きがいとするパパとしては、どうにかFBIに違反行為を悟られぬようにして、無事解放されたいのだが、もちろんそうは問屋が卸さない。次々に新たなトラブルが発生するので、スコットとしては如何にFBIに悟られぬよう、この事態を決着させるか、に苦心する。
面白いことに、この一連のくだりにおいて、本篇では明確な“悪役”というものが登場しない。それぞれに目的があって、スコットやピム博士らの行動を阻害する者が現れ、それらは“敵役”としての役割を果たすことになるが、初期のロキや“アベンジャーズ”にとっての宿敵サノスのような、明確に対峙する敵、人類そのものを破滅に導きかねない悪意は顕れない。ぶっちゃけ、観ていると「この人いったい何と闘ってるんだ?」という疑問にさえ襲われるくらいだ。
だが、闘っているのがなんであろうと、本篇には有無を言わさぬ勢いがある。予想外のところで行動を邪魔され、新たな困難に出来しては異なる方向へと動かざるを得なくなる。その行く手で、先ほどとはまた違った関係性に陥ったライヴァルたちが立ちはだかり、駆け引きや小競り合いが生じる。終始この繰り返しで、まったく勢いが衰えない。
ヒーローらしい活躍や戦いがない一方で、アントマンとワスプの伸縮自在という特性、そしてライヴァルのなかに存在する、壁を易々と通過してくるキャラクターを活かした、本篇でしか味わえないアクション・シーンがふんだんに盛り込まれている。前作はその特殊な世界観にアントマン自身が困惑しているような状況が多く、その面白さも魅力だったが、その後別の現場も経験して洗練されたアントマンの戦いぶりはスマートだ。やもすると見落としてしまいそうなタイミングで小さくなることで攻撃を躱し、すぐさまサイズを戻して反撃する、であるとか、身近な持ち物を拡大して奇襲に用いるとか、その趣向の多彩さに魅せられっぱなしだ。
他方で、シナリオのクオリティ・コントロールの高さでも定評のあるマーヴェルらしく、奔放に展開しているようでいて、テーマ性もある。本篇における鍵は親子関係だ。前作で和解し、消えた母を探すために手を携えたピム博士とホープ。上に掲げた粗筋のあとくらいで登場する人物を巡る関係性にしても、そこにはある種の“親子像”が覗く。映画におけるマーヴェル作品の歴史はまだようやく10年だが、コミック版には長い歴史があり、アントマンとワスプも代替わりを経験している。他の作品ではおおむね、一代の物語としてそれぞれのヒーローを描いているが、アントマンとワスプに限っては、物語のなかに先代が存在している。だからこそ描きうるテーマであることを自覚して掘り下げた結果がこの作品なのだろう。
ヒーローものとしてはテーマも、物語の転がし方も特異。しかしそれが、このアントマン、そしてワスプのシリーズがマーヴェル・シネティック・ユニヴァースのなかで一風変わった存在感を発揮している所以でもある。『アントマン』がそうだったように、このあたりのマーヴェル作品の展開がしっくり来ていないひとでも、この作品だけは楽しめる可能性のある作品だと思う。
……それでも、『アントマン』と本篇のあいだにおける推移は、あいまに発表された別シリーズを鑑賞していたほうが理解しやすいし、エピローグ部分で描かれる出来事に至っては、『インフィニティ・ウォー』を観ていないと意味不明、そしてその結果、MCUとりあえずの一区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで観ないわけにはいかなくなる、罪作りな展開をしているのには変わりない。観るならその辺は心して、解らないものは解らない、と割り切るしかない。
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コメント
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