中野京子『展覧会の「怖い絵」』

中野京子『展覧会の「怖い絵」』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『展覧会の「怖い絵」』
中野京子
判型:文庫判
レーベル:角川文庫
版元:KADOKAWA
発行:2022年2月22日
isbn:9784041118931
価格:924円
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2024年12月19日読了

 絵に秘められた“恐怖”を、西洋文化の豊かな造詣に基づき紐解く絵画の鑑賞を手ほどきした著者の《怖い本》シリーズ。2019年、これを元にした展覧会が実施されることに伴い、既刊では紹介されていなかった出展絵画の解説をまとめると共に、展覧会開催までの紆余曲折を綴ったエッセイも収録。文庫化にあたって、『もっと知りたい「怖い絵」展』から改題、訂正を施しているとのこと。
 相変わらず、どうしてこんな不気味なモチーフなのか、何故こんなにぼんやりと怖いのか、一見、そこまで特異に映らない絵にどんな隠された背景や意図があるのか、を該博な知識で紐解き、知的好奇心が満たされる内容である。しかも、図版も収録しているので、現物の質感までは伝わらなくとも、色味や意匠は元の絵で確認出来るので、よりしっかりとイメージを頭に焼き付けられる。
 ただ、読んでいて残念な気分になるのは否めない。何故なら、前述の通り、本書の底本は「怖い絵」展にて展示された作品ばかりで、発売当初であれば、現物を目の当たりにしたあとで楽しめたはずだ。こうした怪画は、実際に描かれたキャンバスのサイズまでが作品の一部とも捉えられる。電子書籍なら、収録された図版も拡大してかなり細かく観察できるとは言い条、やはり実物には敵わない。特に、調べてみたところ、展示会は私が電子書籍を購入して間もなく実施されていたので、観に行けないわけではなかったはずなのに。巻末に添えられた、展覧会実施までの紆余曲折はそれ自体が読み応えがあるものの、私としては余計に悔しくなってしまう。
 ……いずれにせよ、何の知識もなく読み解くことも、絵画鑑賞の楽しみ方のひとつでもあるが、知識を得た上での読み解き方を教えてくれる本書含むシリーズは、優れた知的遊戯の指南書である。たとえば『チャールズ一世の幸福だった日々』は、表面には和やかな画面に秘められた闇を読者に示し、『切り裂きジャックの寝室』や『マドンナ』は、画家とそれを取り巻く社会から現れてきた作品であることを教えてくれる。そんなもの知らなくても、何となく影を帯びた作品であることは絵から滲み出ているのだが、その意味を窺い知るのは、知的好奇心ばかりではなく、スキャンダルについつい飛びついてしまう野次馬根性すら刺激してくる。
 そう考えると、本書もまた背徳的喜びを宿した作品、と言えるかも知れない。


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