神坂一『スレイヤーズすまっしゅ。3 ねちゃねちゃの季節』

神坂一『スレイヤーズすまっしゅ。3 ねちゃねちゃの季節』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『スレイヤーズすまっしゅ。3 ねちゃねちゃの季節』
神坂一
判型:文庫判
レーベル:富士見ファンタジア文庫
版元:KADOKAWA
発行:2010年10月20日
isbn:978-4829135778
価格:638円
商品ページ:[amazon楽天(電子書籍)BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2025年3月24日読了

 人気ライトノベル・シリーズの短篇集。スポーツを振興する村に現れた、競技を妨げる怪人の明確すぎる謎《正体明確 アンスポカイザー》、リナ=インバースの金魚のうんち・白蛇のナーガの正体を探る《魔性の証》、常軌を逸した遭難のドラマ《雑然の迷宮》、長年、村を悩ませる怪事にリナが挑む表題作およびその続篇の5篇を収録。

 2025年3月に、13年ぶりとなる短篇集『スレイヤーズすぴりっと。 『王子と王女とドラゴンと』』が刊行された際、調べてみたところ、どうも読んでない巻が何冊かある、と気づき、新刊を読む前に1冊、手をつけてみた。
 ひたすらに、安定して面白い。
 この作家の強みは、しばしば世相を反映したようなネタを取り入れつつも、その時期にしか通用しない固有名詞をそのまま用いるのではなく、巧みに本篇の世界観に馴染ませて用いているため、読んだときの印象にさほど時代を感じさせない。しかも、多くはユーモアとして活用しているので、何年経とうが笑えてしまうのです。
 そして、自然な常識感覚が備わっていることも強い。どう考えても行きすぎたスポーツ振興に励む村の人々に引き、とある魔導士協会の常軌を逸した習慣にツッコミを入れ、読者の理解と共感を得て笑いに昇華する。かと思うと表題作では、ファンタジーそのものの背景に、現実の世界でも通用するロジックを用いて推論を積み重ね対抗する知性も見せる。《魔性の証》だって、やってることはとんでもないけど、結論の出し方はちゃんと筋が通っているのです。題材が非常識なだけだ。
 時は経ち、ファンタジー、ライトノベルの主流は異世界転生、チートもの、と変化球が全盛になっているが、このシリーズにはかつての王道を封じ込めながら、近年の主流にも通じるツイストがある。まだまだ新しい読者を掴む力は備わっている――というより、簡単には古びないような気がする。

 なお、この感想を書き始めるときにもういちど調べてみた結果、単行本としては手許にない代わり、約10年前に購入した、短篇集の電子合本版に収録されていて、そっちでちゃんと読んでいたことが判明しました。
 ……読み終わってからもだいぶ経つからね。良くも悪くも読みやすいし、ず~っとノリが変わらないから、間が空いてから読み直しても、すぐに解んないんだよね。
 それにしたって、あまりにも新鮮に楽しめてしまったのには驚いてます。もうこの際なので、そのまんま次の巻にも手をつけちゃってたりする。読み終わったら、たぶんそっちの感想も書きます。


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