『ザ・ウォーカー(2010)』


『ザ・ウォーカー(2010)』Blu-ray版のAmazon.co.jp商品ページ。

原題:“The Book of Eli” / 監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ / 脚本:ゲイリー・ウィッター / 製作:ジョエル・シルヴァー、アンドリュー・A・コソーヴ、ブロデリック・ジョンソン、デンゼル・ワシントン、デヴィッド・バルデス / 製作総指揮:エリック・オルセン、スティーヴ・リチャーズ、スーザン・ダウニー / 撮影監督:ドン・バージェス / プロダクション・デザイナー:ガエ・バックリー / 編集:シンディ・モロ / 衣装:シャレン・デイヴィス / キャスティング:ミンディ・マリン / 音楽:アッティカス・ロス / 出演:デンゼル・ワシントン、ゲイリー・オールドマン、ミラ・クニス、ジェニファー・ビールス、レイ・スティーヴンソン、マイケル・ガンボン、フランシス・デ・ラ・トゥーア、トム・ウェイツ、マルコム・マクダウェル / シルヴァー・ピクチャーズ製作 / 配給:角川映画×松竹 / 映像ソフト最新盤発売元:角川書店
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:? / PG12
2010年6月19日日本公開
2011年6月24日映像ソフト最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
Blu-ray Discにて初見(2021/8/26)


[粗筋]
 30年前の核戦争により崩壊した世界を、イーライ(デンゼル・ワシントン)はただひとり、西を目指して歩き続けていた。
 生き延びるための武器の他に携えるのは、1冊の本。イーライはある信念のもと、その本を西の地へと運ぼうとしていた。時として襲いかかる暴徒を容赦なく血祭りに上げながら、イーライはひたすら歩き続ける。
 やがて彼は、ひとつの集落に辿り着く。そこは、カーネギー(ゲイリー・オールドマン)という男が支配しており、暴力によるものではあるが治安を保っていた。
 水を手に入れるために寄った酒場で、イーライはカーネギーの部下たちと戦う羽目になった。過酷な世界を旅し続けてきたイーライの敵ではなかったが、カーネギーはその強さを評価し、イーライを客人として迎え入れる。
 しかしカーネギーは、自分が長年にわたり追い求めている1冊の本を、イーライが携えている可能性を考えていた。自らが囲う盲目の美女クラウディア(ジェニファー・ビールス)の娘ソラーラをイーライに夜伽として差し出し、持ち物を探らせようと企てるが、慎重かつ極めて鋭敏なイーライは、ソラーラを抱くことはおろか、自らが持つ本の中身を見せることもなかった。
 翌る朝、ソラーラの話す両者のやり取りから、カーネギーは間違いなくイーライが問題の本を所持している確信を持つが、そのとき既にイーライはカーネギーの屋敷をあとにしていた。カーネギーは腹心のレッドリッジ(レイ・スティーヴンソン)らを引き連れイーライを追う。
 果たして本当にイーライは、カーネギーの求める本を持っているのか。そしてイーライは何故、西を目指すのか。信念に突き動かされるふたりの戦いが、幕を開けようとしていた……。


『ザ・ウォーカー(2010)』予告篇映像より引用。
『ザ・ウォーカー(2010)』予告篇映像より引用。


[感想]
 戦争により崩壊したあとの世界、という背景はもはや珍しくも何ともない。そういう意味では意外性も新鮮味もない世界観なので、そこから惹かれない、と言ってしまうひとも珍しくだろう。
 だが本篇は、ありがちな設定ながら、設定に踏み込んで考察し、ディテールを更に繊細に組み立てている。文明が崩壊し、水や食料の確保も困難な世界で、どのように人びとは生き延び、共同体を形成していくのか。強盗の横行、路上にいる人びとたちの困窮した生き様など、点綴される崩壊後の命の営みは過酷で、趣向としてはオーソドックスながら胃にこたえるものがある。
 物語は、そんな厳しすぎる世界をただひとり旅する男、イーライを中心に描かれる。異様に強く、明確な目的があって旅を続けているようだが、目的が何なのか、は明示されない。文明の崩壊によって識字率が著しく低下した、と見られるこの世界で、常に携えた1冊の本を、人目を忍ぶように読んでいる。その素性は観客にもほぼ明かされないので、中心人物ながら、本篇の謎、興味はほぼ彼に集約されている。やがて辿り着いた集落で、独裁者として君臨するカーネギーと敵対したことにより、少しずつその全容が明かされていく。サスペンス、アクションの緊張感の狭間から少しずつ露わになっていくので、感情移入しにくい作りにも拘わらず惹き込まれる。ベースとなる発想は決して珍しくないが、プロット、シナリオの作り込みは侮りがたい。
 またこの兄弟での監督コンビはヴィジュアルにこだわりがあるのか、映像がスタイリッシュだ。襲いかかる強盗を撫で斬りにするくだりをシルエットのみで描き、行きずりの夫婦が犠牲になるシーンはあえて高所から俯瞰の映像のみで見せる。イーライとカーネギーの部下たちの対決を躍動感のあるカメラワークで表現するなど、アクション描写も考え抜かれた端整さがある。
 そして本篇はこの内容で、終盤にしっかり驚きと感動がある。いささか無理があるのでは、と感じるひともあるかも知れないが、その無理を押し通しているからこそ、本篇の結末には崇高な輝きが宿る。
 ひとつ引っかかるのは、恐らくイーライが携えている本の“価値”を、彼ほどには認められない人間も世界には少なくないこと、そして本篇の結末がその“価値”を過大評価している印象を与える点だ。ここに共鳴、或いは理解が及ばないひとは、その結末も腑に落ちないか、場合によっては苛立ちさえ覚えるかも知れない。
 ただ、恐らくそうしたことは、スタッフはむろん、物語の中におけるイーライ自身も理解している。そのことは、劇中の台詞で明確に示されている。だがそれでも、文明が崩壊し人心が乱れた世界に、何らかの救いをもたらす、と信じて歩き続けた姿が尊く、そしてそれをちゃんと受け止める者がいた、ということに感動する。
 本篇は、核戦争による世界の崩壊、というもはや物珍しさのない舞台のうえに、作家性と主題を明確に盛り込んだ誠実な作品である。ただ、それ故に話題性やヒットから遠のき、端正さとは裏腹に規模の小さい作品に感じさせてしまうのが惜しい。


関連作品:
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コメント

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