色を塗られた鳥は、群れに帰る空を失う。

 存在を知ったときから非常に気になっていた映画が先週封切られました。土曜日は『実りゆく』を優先せざるを得なかったので、先送りにしないためにも、本日さっさと鑑賞してきました――尺が2時間49分とまあエグい長さなので、上映回数を増やすためでしょう、朝の9時スタートなんて凶悪な時間割のため、だいぶ早起きを強いられましたが、まあこれは仕方ない。朝早いと、いつもあっという間に埋まる日比谷界隈最安値の駐車場もおおむね空いているので、そういう意味では助かるんですが。
 訪れたのは日比谷のTOHOシネマズシャンテ、鑑賞したのは、ポーランドでは長らく発禁とされ、著者は激しい毀誉褒貶ののちに自ら命を絶つ、という不穏な背景を持つ小説を、《スラヴィック・エスペラント語》というスラヴ語圏ならなんとなく理解出来るように構築された人工言語にて撮影した労作、ホロコーストから逃れ放浪する少年の受難をモノトーンの映像で壮絶に描き出した異端の鳥》(Transformer配給)
 映画祭では上映途中に退場者も相次いだ一方、上映後は10分間に及ぶスタンディングオベーションが起きた、という話もある本篇ですが……なるほど凄かった。冒頭5分で悲痛な出来事が起き、少年が彷徨い始めると、あとからあとから壮絶な迫害が繰り返される。こちらは予備知識があったからいいんですが、何も知らずに鑑賞したら耐えられないかも知れません。
 しかしひとくちに“迫害”と言っても、状況も描き方も多彩で、その奥行きに打ちのめされます。また、この当時のホロコーストはナチスが主導していましたが、しかし市井では普通のひとびとが恣意的に行っていたことを生々しく織り込んでいる。そして、壮絶な体験の果てに変わっていく少年の姿が更に観る者の心を抉る。
 3時間近い長尺ですが、章立てを細かくしていることや、映像そのもののパワーも強烈で、長さを感じません。しかしその代わり、観終わったあとの消耗が物凄い。間違いなく、今年観たなかでトップレベルの傑作でした。

 ちなみに私、大晦日にアップする1年間の総まとめを、直前になって慌てずに済むよう、観たはしからひとまずランクをつけていくようにしてます。ジャンルもテーマも違う映画を並べるわけですし、そのときの気分もあるので、結局直前にランキングが大きく動くこともしばしばなんですが。
 本篇を観たことにより今年度、現時点で上位3作ぜんぶホロコースト関連の作品が並んでます……自分でもビックリしました。7位くらいまではぜんぶ、どれをトップに推してもいい、と思ってるので、最終的に並びが変わる可能性は充分ありますが、どちらにせよ今年は妙なことになっている。

 劇場を出たのはちょうどお昼時。たぶんどこに行っても並ぶ羽目になるので、きょうもつじ田に電話をしてテイクアウトを予約、途中で引き取って帰りました。平日の12時台はつじ田もいちばん列が伸びる時間帯なんですが、テイクアウトで指定したとおりの時間に行けばすぐに受け取れる。このスムーズさが私には有り難いんですが……あんだけ並んでいるのを飛ばして受け取るのは、さすがに若干の罪悪感も否めませんでした。正当な手段を使ってるんですけどね。

コメント

  1. […] 原題:“Nabarvené ptáče” / 英題:“The Painted Bird” / 原作:イェジー・コシンスキ『ペインテッド・バード』(松籟社・刊) / 監督&脚本:ウァーツラフ・マルホウル /  […]

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