映像だけで読み解く狂気。

 緊急事態宣言、東京は延長になってしまいました。意見は多々あれど、基本的に従うスタンスではあるんですが、映画館への休業要請が続いたことだけはどーしても納得がいかない。
 私にとって唯一、外出も含めた気分転換の手段だから、というのももちろんありますが、そもそも映画館でクラスターが発生した、という事例は寡聞にして覚えがない。もともと高水準だった換気能力に加え、時間短縮を要請された多くの飲食店と同様、上映終了を午後8時にしたり飲食にあたってのルールを明確にしたり、多々工夫を重ねてきている。イベントごとにスタッフが変わり、その都度対策の指導・徹底が必要になる劇場などよりも遙かに、安定した安全対策が実施されている、と捉えていいはず。
 そもそも、緊急事態宣言による休業要請で人の流れを減らすことには限界がある、というのは昨年、今年はじめと繰り返してきてけっこう明確になっている。日常的な買い物で出かけることを完全に止めることは出来ないし、根本的にずっと籠もっていられる人間は少数で、危険が少ない、と感じてしまえばひとは出てきてしまう。そうして出てきたひとたちは、営業している商店などへ足を運ぶことをレジャーにしてしまうので、結果的に商店街や、小規模な飲食店が並ぶ観光スポットに集まってしまう。そういうところは店舗の面積も、道幅そのものも狭いですから、結果的に《密》が生じるのです――なんで断言できるかといえば、私が暮らしてるところがまさにそういう地域だから。買い物に行くたびに母は「きょうもひとが多い」とこぼしてる始末です。
 どうしても完全にはひとの流れをシャットダウンできないのは明白なのに、一時は鉄道を減便して車内の密度を上げてしまってましたし、都市近郊の観光スポットにひとが集中する構造を生むかたちにしかなっていない今年の緊急事態宣言はほぼ悪手だと思ってます。闇雲に「外出するな」と言うのではなく、適度にガス抜きできる領域を残しつつ、マスクなしの会話や換気の不徹底など、感染拡大に繋がる行為を避けるよう促す策を講じるべきだと思うのです。本篇上映前にマナームービーなどのかたちでそういう啓蒙も実施していた映画館は、もういい加減解放してくれてもいいのではなかろうか。

 ……と、思わずこぼしてしまいましたが、きょうの本題はこれではない。
 私がどう感じていようと、きょう時点で営業している映画館は少ない。ミニシアターなんかは客席を間引いたりして営業しているところもあるにはありますが、あいにく私にはピンと来る作品はなかったし、そもそもきょうは天候不良で、こういう時期だからこそバイクで出かけたい私には厳しい。
 となれば、けっきょくは自宅にて観るしかない。月額レンタルのもありますが、最近ちょっと消化するペースが速すぎて前倒しになっているためもうちょっとお預けにし、配信サーヴィスで漁ることに。予めリストに入れてあるなかからあれでもないこれでもない、としばし悩み、最終的にしっくり来たのは、自分でも意外な1本でした。
 鑑賞したのは1926年の作品、精神病院を舞台に、患者の幻覚とひとりの男の妄想が入り乱れていく『狂った一頁』
 音楽はついてますが恐らくもともとは無声映画。当時は弁士がついていたのか、字幕があったのか、も解りません。日本初のアヴァンギャルド映画、と言われているほどの実験作で、公開当時は赤字になり、フィルムも行方不明になった。のちに監督である衣笠貞之助の家で発見されたことで、いまこうやって観ることが出来るらしい。
 説明が一切ないので、口許や表情などから成り行きを推測しながら観ねばならず、1時間ちょっとの尺ですがなかなかに胃にもたれる。しかし、太正時代に撮られたとは思えないほど多彩な趣向を凝らした映像は思いのほか見応えがあります。そしてしばしば、慄然とする一瞬が混ざり込むさまは、後年の日本産ホラーの味わいを先取りする趣がある。
 観やすいとは言えませんが、これはなかなか興味深い作品でした。映像ソフトが出ている形跡はないので、気になる方はAmazon Prime Videoでどうぞ。

コメント

  1. […] 英題:“A Page of Madness” / 原作:川端康成 / 監督:衣笠貞之助 /  […]

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