近くて遠い父の面影。

 そんなつもりはなかったんですが、実に2週間ぶりの映画鑑賞です。作業が詰まっていた、というのもあるけれど、その手前までで観たい作品はあらかた押さえるか、或いはスパート虚しく最寄りでの上映が終了してしまい、多忙を押して観に行く気にならなかったのです……いや、ヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』とか観たいものはちらほらありましたよ。しかし、作業中には重たかったり、スケジュール的にありがたくない事情があったりして、二の足を踏んでいたのです。昨日、どうにか作業が一段落したので、本日は満を持して出かけてきました。
 行き先は渋谷。しばらく行ってないな、いつぶりだろう、と調べたら、どうやら2018年3月2日にユーロスペースで高橋洋監督『霊的ボリシェヴィキ』を観て以来でした……何ときっちり5年11ヶ月ぶり。
 何でこんなに足が遠のいていたのか、はけっこう複合的な理由かも知れません。ミニシアターの減少もあるし、進む再開発で街の全体像がだんだんよく解らなくなっていった、というのもある。いちばん大きいのは、そうした変化によって、バイク駐車場の所在と混雑状況が見えなくなったことかも知れない。なにせバイクは、駐車場が空いてなければ、遠くまで探しに行かねばならないから……基本、映画鑑賞のために外出している私は、上映時間までの移動距離も考慮に入れてスケジュールを組んでいるので、想定していた駐車場が使えなければ計画が破綻しかねないのでは脚を運びにくい。最近もバイクで映画鑑賞に訪れているところは、ほぼ確実に駐められる自信があるか、抑えも含め2、3箇所の駐車場を考慮してあるところなので、その意味での不安が少ないのに対し、渋谷は思い浮かぶのが1箇所だけ、しかも劇場によっては遠く、抑えの駐車場も見つけられていない。そりゃあ行かなくもなるわ。
 劇場はヒューマントラストシネマ渋谷。上映時間がやたらと限られていて、きょうは19時30分の1階だけ。透析を休むのはもちろん、せっかくなので早めに現地入りして夕食を摂ることにしました。
 この地域ではラーメン店の開拓がぜんっぜん出来てないので、どこか……とは思ったものの、久々の来訪、しかも映画鑑賞前のタイトな時間割では、混んでいた場合にパニックに陥る。なので、いちおう候補を考えたうえで、以前は渋谷に来るたび利用していた蕎麦屋へ。ここでカレー南蛮うどんを食べるのが好きでした。会食らしき大勢の客で賑わっていたものの、一人客の席はあったので無事入店。
 鑑賞したのは、超寡作の名匠ビクトル・エリセ監督の長篇第2作、幼い娘が謎めいた父親の振る舞いを静かに観察する物語『エル・スール』(フランス映画社初公開時配給)
 もっっっのすごーく、観たかった作品の代表格です。一時好きで追っていた漫画家、須藤真澄がコミックエッセイのなかで、確か“心の師”くらいの強めの表現で押していた作品で、実は監督の第1作『ミツバチのささやき』とともにDVD化されたとき、BOXセットで買っている。が、悪いクセで、自宅ではなかなか観る機会が作れない。そのうち、「やっぱり初見は大きなスクリーンがいいわ」という思想が形成されてしまって、再上映されるのをひたすら待っていたのです。来週より、実に30年振りくらいのビクトル・エリセ監督最新作『瞳をとじて』が日本公開されるのに併せて『ミツバチのささやき』とともに再上映する企画が出てきて、初日に鑑賞する気満々でいたのです。……作業が終わっててよかった……。
 手法としては『ミツバチのささやき』と同様と言える。超自然の要素を秘めつつ、描かれるのは娘の目から見つめる父親のドラマ。何せ娘はけっきょく全体像を知らないままで、本質はずっとぼかされているのですが、静かなのに異様に緊迫感のある画面から静かに浮かび上がってくる。この情緒の豊かさが凄い。
 恐らくはこちらにもスペイン内戦と言論弾圧へのメッセージがあると思しく、私にはそこは深く読み解けないのですが、その片鱗から滲む情感が見事なのです。果たして、父が生まれ育った南で何があったのか。結末に至る決定的なものはなんだったのか。あえて描かれない、こうした本質が匂い立つようです。
 実はこの作品、3時間に及ぶ長尺だったらしいのですが、プロデューサーは後半部分の公開を許さなかった、とある。んじゃあ、本編ではカメラが捉えていない“エル・スール”の部分があるんかい、とちょっと驚きますが、公開をやめたのも理解は出来る。その90分で充分に完成されてるのです。むしろ、そこが描かれていないことで、先品としてはより昇華されているのかも知れない。
 確かにこれは凄い作品。エリセという人がなんでここまで寡作なのか、それなのに何故支持されているのか、が長年の謎でしたが、納得してます。そして、長年の沈黙を破る最新作『瞳をとじて』がますます楽しみになってきた。

 ちなみに今回、蕎麦屋から映画館への移動中、MIYASHITA PARKの下あたりを通ってきたのですが、そこに駐車場がある。バイク用のスペースもある、というのは事前の下調べで解っていたのですが、問題は、混雑ぶりが解らない。仮にここを狙って訪れて、埋まっていたとしたら、ちょっと離れたところまで移動せねばならない。そのロスタイムが怖くて今回は利用しなかったのですが、次回以降、バイクで訪れたときに利用できるかどうか確認するため、入口の警備員に軽く訊ねてみた。
 収容台数が多いので、埋まることはないらしいです。
 あくまで入口の警備員の方の話で、実際に中を見たら意外と埋まってる、という可能性はなきにしもあらず。しかし、その確認も含めて、次の機会にはバイクで来てみようと思います。今日訪れたヒューマントラストシネマ渋谷では毎年この時期に、通常のロードショーでは拾われないマイナーな作品を採り上げる《未体験ゾーンの映画たち》という企画をやっていたり、未だに健在なユーロスペースやシアター・イメージフォーラムなど、映画を観に来る理由はあるのだ。

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