一昨日観るべきはこっちだった。

 毎年8月8日は、特に仕事が詰まってでもいない限り出かけて、最低でも映画くらいは観てくるのが習慣です。
 ただ、例によって作品を絞りかねていました。いちばん観たいのは、思いのほか評判のいい竜巻映画なんですが、既に上映時間が偏っていて、出来れば午前中に鑑賞してしまいたい、という心積もりには合わない。他にもあれこれと観たい作品があって、時間割を調べ、どちらを優先するべきか苦慮しながら、念のために、網にかかってなかった作品もちょこちょこ眺めていたら――見つけてしまった。
 正直、なんでこの日は出歩いているか、という理由にはそぐわない。ただ、社会的なことを考えると、まさに「いま観ろ」という作品なのです。出来れば他の日、それも、気づいてたら一昨日に観るべきだった――何ならこれと『マッドマックス』入れ換えるべきだったな、と後悔しているくらいですが、もう遅い。腹を括って見に行く――と決めてからも、上映されているうちの2つの劇場どちらで観るか、に悩んで、チケット確保までは更に時間を費やすのでした。

 さんざん悩んだ挙句、訪れることにしたのは、角川シネマ有楽町。調べたら、実に5年振りでした。単独スクリーンのミニシアター、しかも他の劇場とラインナップが被りがち。たまに、来てみたい企画はかかってますが、何せスクリーン1つですから、複数の作品をかけようとすると変な時間割になってしまう。で、5年も訪れる機会を逸していたわけです。
 しかし今日のお目当ては、私にはいちばん利用しやすい朝一番の枠にかかっている。新宿武蔵野館でもほぼ同じ時間に上映してましたが、この機会を逃すと更にご無沙汰になる、と思い、有楽町を選んだ次第。
 何せここは駅から近い。駅隣接のビックカメラ有楽町店の入っているビル8階です。移動に時間がかからないのを幸い、ちょこっと早めに有楽町に到着して、開店と同時に入店して買い物……予定していた片方が見つからずに右往左往し、結局見つからず諦めて1冊だけ買って離脱。危うく、肝心の映画に遅れるところでした。
 鑑賞したのは、1987年に発表され世界的に衝撃をもたらしたアニメーション、核戦争の恐怖を、ひと組の老夫婦に焦点を当てて描いた風が吹くとき【日本語(吹替)版】』(チャイルド・フィルム配給)
 これも前々から「観なければ」と思っていた作品です。公開当時、既にジブリ作品に接していて、何なら『アニメージュ』も読んでいた私は、ず~っと気になっていましたが、内容が恐ろしい、という噂も聞いていて、当時は尻込みしていました。映画をやたらと観るようになってからも、頭の片隅にありましたが、これまで劇場上映のタイミングに遭遇することがなかった。それもあって、今日しかねえ、と出かけてきた次第。
 噂通り重かった……けれど、想像していた種類の怖さではなかった。ただ、核戦争というものに、何も知らず晒される怖さは確かに伝わる。大国間の戦争が始まることを報道で知って、核兵器の使用もシェルターの必要性も知っているけれど、理解も対策も行き届いていない。少なくともあんな扉を重ねたシェルターで間に合うはずがないし、核兵器がそれほど遠くない場所に投下されたとき、老夫婦が信じている社会のセーフティが機能する保証もない。それを簡単に信じてしまう怖さ、そして何も知らないまま、ひたひたと死が迫ってくる怖さを感じずにいられない。
 しかもこれらを、どちらかといえば愛らしいキャラクターと描線で表現しているのが生々しい。ときおり、昔のアニメーションとは思えないカメラの回り込みを行うのですが、そういう場面はミニチュアを多用しているようで、やたらと生々しい質感がその場面のおぞましさを強調する。
 核戦争の恐怖にスポットを当てた作品ですが、ただ私はこの作品を観て、大規模な災厄に遭ったとき、孤立していく怖さも考えずにはいられませんでした。誤解と思い込みから、被災後も情報のアップデートが行われず、ただただ死に瀕していく恐ろしさ、哀しさ。この歴史から忘れ去られていくようなラストは、戦争に限らず、他の災害でも似たようなことは起こるのではなかろうか。
 ……なんてことを考えてたら、夕方に宮﨑・日向灘の震災から南海トラフ地震への警戒を強める流れがあって、余計にちょっとピリッとしております。個人的には、今日観たことで余計に強いインパクトを刻まれた気がします。何にせよ、歴史を超える傑作に違いない。

 鑑賞後は、近くで昼食を摂る……のが映画鑑賞の基本ルートですが、何せ時間はお昼時そのもの。周辺のビジネスマンがあちこちのお店に集まってきて、どこも混雑しがちです。いちおう丸亀製麺は覗きましたが、ここも座席がかなり埋まっているのを外から確認して、捜し回るより家で食おう、とすぐに気持ちを切り替えた。電車で自宅最寄り駅まで戻り、駅の構内でちょこっと買い物をしたあと、自覚近くのコンビニであんかけ焼きそばとみそ汁を買って、家でいただきました。

角川シネマ有楽町のロビー入り口に掲示された『風が吹くとき』2024年公開時のポスター。
角川シネマ有楽町のロビー入り口に掲示された『風が吹くとき』2024年公開時のポスター。

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