原作:北条司 / 監督:佐藤祐市 / 脚本:三嶋龍朗 / 脚本協力:佐向大 / プロデューサー:三瓶慶介、押田興将 / 撮影監督:清久素延 / 照明:浜田研一/ 美術:小坂健太郎 / 装飾:小林宙央 / アクション監修:下村勇二 / アクション監督:谷本峰 / 編集:田口拓也 / VFXプロデューサー:赤羽智史 / 音楽:瀨川英史 / 主題歌:TM NETWORK『Get Wild Continual』 / 出演:鈴木亮平、森田望智、安藤政信、木村文乃、華村あすか、水崎綾女、片山萌美、阿見201、神谷明、ドリアン・ロロブリジーダ、杉本哲太、迫田孝也、橋爪功 / 配給:Netflix
2024年日本作品 / 上映時間:1時間44分 / R16+
2024年4月25日全世界同時配信
公式サイト : https://www.netflix.com/title/81454087
Netflixにて初見(2024/4/25)
[粗筋]
新宿で、どうしようもないトラブルに遭遇したとき、駅にある掲示板に“XYZ”と記せば、あの男に連絡がつく。揉め事を解決する“掃除屋”、シティーハンターこと冴羽獠(鈴木亮平)に。
白いニットから覗く胸の谷間にほだされた冴羽が引き受けたのは、依頼人の妹だというくるみ(華村あすか)の捜索。《みるく》の名で知られたコスプレイヤーだが、何やら危ない連中に目をつけられ、逃げ回っているらしい。冴羽は相棒の槇村秀幸(安藤政信)とともに新宿界隈を広範囲で観測し、ヤクザの事務所に乗り込んでいったところを捕捉する。
現場に突入し、少女を囲んだ連中を伸した獠だが、くるみはなぜか両の手を取らずに逃げ出した。獠は槇原と共を追いかけるが、くるみは常人離れした身体能力を示して逃げおおせてしまった。冴羽は槇村から愛車の鍵を預かると、自分一人で追跡を続けた。
その日、槇村にとっては大事な日だった。唯一の家族である妹・香(森田望智)が20柴を迎えるこの日に、彼女が自分の実の妹ではないことを告げる決意をしていた。だが、いざ真実を告げようとした矢先、槇村達が予約した店にトラックが突っ込んできた。運転席から降りてきた男は、常人離れした力で暴れ回り、槇村に致命傷を負わせる。店の惨状を見て駆けつけてきた冴羽に倒れかかると、槇村は冴羽に「香を頼む」と言って、息を引き取った。
新宿界隈では、凶暴化した人間が暴れ回った末、街中で野垂れ死ぬ事件が頻発していた。元刑事だった槇村のかつての同僚である野上冴子(木村文乃)によれば、槇村を襲った男も間もなく遺体となって見つかったという。冴羽の手には、くるみが落とし、槇村が密かに拾っていた謎の薬品のアンプルが残っていた。
目の前で兄を殺害されながら、何も出来なかった香は、冴羽に復習を依頼してきた。だが冴羽はその他のみを拒絶し、くるみの捜索を継続する。トー横界隈で聞き込みをする冴羽に香が詰め寄っているそのとき、偶然にもくるみが現れた――
[感想]
ここまで完璧な実写化が出来るとは思ってなかった。
原作は1985年から6年間《週刊少年ジャンプ》誌に連載され、複数のシリーズにまたがりアニメ化もされた大ヒット作である。命のやり取りのなかで堅持するプロフェッショナルとしての格好良さに、この当時の少年誌で許容できるギリギリのエロをコメディタッチで採り入れて織り交ぜ、緩急を踏まえた描写で表現し高い人気を博した。
その人気故に実写化も早いうちに企画されたが、最初の完成作は不幸としか言えなかった。主人公の冴羽獠に顔立ちも似ていたことから、当時やはり高い人気を誇ったジャッキー・チェン主演、という国境を越えたキャストで実現したが、残念ながら出来たのはあくまで“ジャッキー映画”だったようだ。権利の問題も絡んでしまったのか、この作品はDVDも奇妙な形でしかリリースされておらず、ジャッキー作品は概ねフォローした私も未だに観られないでいるのだが、それも致し方ない出来だったようだ。
だが、世の中の流れが変わった。原作をただの土台として扱い、安易な改変を施すのが当たり前だった映像業界の風潮は、熱心なファンからの不満と、それに同調する成績不振で、原作尊重へと舵を切った。脚色するにしても、リスペクトが
あって原作ファンからも初見の観客からも評価されることが増え、空気は一変した。
本篇に限って言えば、それに加えて、フランスのフィリップ・ラショーが舞台をフランスに移し、あちら流のユーモアを加味しつつ、日本のファンすら唸らせる実写化を成し遂げた『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』があったことも大きかったのではないか。あれを観て、悔しがった人物は、たぶん本篇のスタッフ、キャストにもいただろう。それもまた、本篇のほぼ原作そのまま、と言いたくなるような完成度に寄与したのだと思う。
とにかく冒頭数分で、ファンのみならず心を掴まれる仕上がりが素晴らしい。今はもう存在しない、しかしこの作品には重要な伝言板に記された“Netflix presents”からの“XYZ”のメッセージ、現代で許されそうなギリギリの、笑いを交えたお色気表現からの、まさに《冴羽獠》そのもの、としか言いようのないアクション。どう見ても新宿そのもののロケーションに、どう見ても《冴羽獠》以外の何物でもない鈴木亮平が鮮やかに躍動するこの行だけで、原作ファンは安心を覚えるだろうし、アクション映画好きでも惹きつけられるはずだ。
実のところ、この冒頭のアクションも、最初の依頼にしても、原作どおりではない。原作における序盤の象徴的なエピソードを下敷きにしつつ、大きく脚色は施している。
しかし、この脚色にもリスペクトが色濃い。重要なモチーフを現代的に、原作より洗練された手管で再配置していることもそうだが、名シーンの応用が見事なのだ。特に、槇村秀幸のあの名場面、舞台もシチュエーションも違うのに、その趣、衝撃は巧みに再現している。しかも、あえて台詞を削除したり、加えたりした要素が絶妙なのだ。興を削がぬよう、これ以上は記さないが、原作どおりでないのにほぼ理想、というこのワンシーンの作りに、作り手の原作に対する敬意と理解が詰まっている。
そこからも、展開はほぼオリジナルなのに、まさに《シティーハンター》としか言えない仕上がりだ。冴羽の香に対する連れない素振りと女性に対するだらしなさ。現代の新宿の光景と雰囲気を採り入れつつ、一種ファンタジー的な裏社会の様子もきちんと新宿の中に溶け込んでいる。冴羽獠の護衛対象との関わり方、そして随所で展開する派手な立ち回りも、実写映画としてハイレベルに実現しながらなおかつ《シティーハンター》そのものなのである。
この、実写映画ならではの冴羽獠のプロフェッショナルを表現する手管が実に素晴らしい。冒頭のアクションシーンだけでも素晴らしいが、衆人環視の中で気づかれずに戦うとか、群衆のなかでの驚異的な射撃とか、現実に冴羽獠がいるならこうなるだろう、というアクションになっている。
原作の序盤、なかなかに派手なキャラクターとの対決はいささか渋い内容に脚色されているが、これも充分にありだろう。なぜなら、この人物配置とドラマの展開があるから、軸である冴羽獠、そして槇村香のドラマが見事に際立っている。この経緯から、原作と同じ構図になるエピローグは極めて自然だし、感動的だ。ファンならば、エンドロールに入っていく演出もしっかり踏襲しているのだけでも嬉しいのだが、この趣向がより一層効くドラマ作りに、もはや恐れ入るほかない。
売れる前に『HK 変態仮面』で壮絶ななりきりっぷりを見せ、その後も作品ごとに体型までコントロールして役になり切った鈴木亮平自身も含め、多くのスタッフに原作への理解、愛情がなければ幸はならない。そして、同時にこれを現代日本に実写で再現し、原作を知らないひとであっても映画として楽しめるクオリティに、作り手のプロフェッショナルを感じずにいられない。Netflixにて全世界同時に配信されるなり、32ヶ国で視聴数トップを飾ったのも至極当然のことである。こうなったら鈴木亮平には、年齢的・肉体的な無理が生じる前に、出来るだけ多く冴羽獠を演じていただきたい。
関連作品:
『シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』/『シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)』1/『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
『ひとよ』/『るろうに剣心 最終章 The Beginning』/『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』/『行きずりの街』/『キネマの神様』/『大河への道』
『新宿インシデント』/『いぬやしき』/『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』
- 5/17時点でアップ出来てません。そのうち補います。[↩]
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