『コンフィデンスマンJP 英雄編』

TOHOシネマズ上野、スクリーン3入口脇に掲示された『コンフィデンスマンJP 英雄編』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン3入口脇に掲示された『コンフィデンスマンJP 英雄編』チラシ。

監督:田中亮 / 脚本:古沢良太 / 製作:石原隆、市川南 / 企画&プロデュース:成河広明 / 撮影:板倉陽子 / 照明:緑川雅範 / 美術:あべ木陽次 / 美術プロデューサー:三竹寬典 / 装飾:近藤美緒 / 編集:河村信二 / 衣裳:朝羽美佳 / VFXプロデューサー:赤羽智史 / 録音:高須賀健吾 / 音楽:fox capture plan / 主題歌:Official髭男dism『Anarchy』 / 出演:長澤まさみ、東出昌大、小日向文世、小手伸也、織田梨沙、関水渚、赤ペン瀧川(瀨川英次)、Michael Keida、広末涼子、石黒賢、角野卓造、瀬戸康史、松重豊、城田優、生田絵梨花、厚切りジェイソン、ダンテ・カーヴァー、高嶋政宏、徳永えり、梶原善、山田孝之、阿部寛、柴田恭兵、真木よう子、ジャッキーちゃん、生瀬勝久、江口洋介 / 制作プロダクション:FILM / 配給:東宝
2022年日本作品 / 上映時間:2時間7分
2022年1月14日日本公開
公式サイト : https://confidenceman-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/1/18)


[粗筋]
 信用詐欺師として、国境を越えて得物=《おサカナちゃん》を求めているダー子(長澤まさみ)だが、この2年ほど、ろくに仕事をしていなかった。折しも、警察がダー子や彼女とゆかりのある信用詐欺師たちに目をつけている、という情報があり、長年の協力者であるボクちゃん(東出昌大)はこれを機に現役を退くべきだ、と提案する。しかしダー子は自分以外の者に進退を迫られることを嫌い、ボクちゃん、リチャード(小日向文世)に勝負を申し出る。特定の土地、特定の期間にどれだけの稼ぎを得られるか、で競う。負けた者は、買った者の決断に身を委ねねばならない。ボクちゃんとリチャードはこの条件を呑んだ。
 2ヶ月後、3人の姿は地中海のマルタ共和国にあった。この地で7日間、それぞれに《おサカナちゃん》を狙い、稼いだ額がいちばん大きい者が勝者となる。そうして3人は、異国の地で散らばった。
 ダー子は金魚の糞のごとくつきまとう五十嵐(小手伸也)に、愛弟子のモナコ(織田梨沙)、ちょび髭(赤ペン瀧川)といういつもの仲間を率い、さっそく予め目をつけていた《おサカナちゃん》への接触を図る。ダー子の標的は、ジェラール・ゴンザレス(城田優)――かつてはマフィアだったが、危険な仕事で稼いだ金をもとに足を洗った男である。莫大な資産をもとに豪勢な生活を送る彼は、ひそかに《踊るヴィーナス》像を入手しており、ダー子たちはそこに狙いを定めた。
 しかし、ジェラールにはボクちゃんも目をつけていた。当初、古物商として接近を図る計画だったダー子は、海上自衛官・佃麻衣という身分を装ってジェラールの屋敷に乗り込む。だがそこには既に、インターポールの捜査官・マルセル真梨邑(瀬戸康史)らが詰めていた。真梨邑いわく、このところ《ツチノコ》を名乗る賊が高価な美術品を立て続けに奪っており、《踊るヴィーナス》も狙う可能性が高い、という。
《ツチノコ》は100年前の日本で活動し、裕福な者から財宝を奪って貧しい者に分け与えた“英雄”として崇められた存在である。その後、《ツチノコ》の名跡は凄腕の詐欺師に引き継がれたが、2年前に三代目(角野卓造)が逝去したことで途絶えたはずだった。
 いったい誰が《ツチノコ》を名乗っているのか? 様々な思惑が入り乱れるなか、ダー子たちの勝負はどのような決着に至るのか――?


[感想]
 地上波でワンクールながら毎週放送、しかも毎回新たなケースを採り上げる、というかなり勇気の要る構成で制作された、ダー子、ボクちゃん、リチャードという3人の《信用詐欺師》を軸としたシリーズの、劇場版第3作である。
 いわゆる《コン・ゲーム》ものは、騙し合いの構図を作るのが厄介なので、魅力的なジャンルながら決して作品数は多くなく、傑作と呼ばれるのも難しい。このシリーズは――文句なしの傑作、とまでは呼ばないまでも、きっちりと水準をクリアしてきただけ優秀だ。そして何より、キャラクターや世界観の完成度が高いので、見事に愛されるシリーズに育った。テレビシリーズそのものの視聴率も決していいわけではなかったが、劇場版は好評を以て迎えられ、テレビシリーズからわずか4年のうちに劇場版3作にまで辿り着いてしまった。仕掛けとキャラの確立に優れた脚本家・古沢良太と、長澤まさみを座長とする、名優・クセ者揃いの役者たちの見事な相乗効果と言えよう。
 テレビシリーズはすべて日本を舞台にしていたが、劇場版は豪華さを意識してすべて海外を舞台にしており、撮影がコロナ禍に突入していた本篇もマルタ共和国でダー子たちが所狭しと駆け回る――後日出た情報によれば、やはり渡航しての撮影は不可能だったそうで、遠景や街中のシーンを現地のスタッフに委託し、本筋は日本で撮影、それをセットや編集の妙でごまかしているらしい。しかし、本篇の場合、そういう“騙し”も趣向のひとつとして快く感じられるから不思議だ。
 率直に言えば、本篇は《コン・ゲーム》としての緻密さには欠く。かなり派手な趣向が施されているが、さすがに仕掛けとして過剰だ。仕込みにも手間がかかるし、ある程度は臨機応変に出来る、とは言い条、不確定要素が多すぎてリスクが高い。あまりの壮大さと派手さに幻惑されてしまうが、冷静に考えると知性よりも大胆すぎる粗さが際立つのだ。
 ただ、この点を指摘するのはもはや今更だろう。それが許せない、と感じるのは、たぶん本篇からいきなりシリーズに接しているひとだ。テレビシリーズ、或いは先行する劇場版2作や、前後して発表されたスペシャル版を観ていれば、合わないひとはその時点で切っている。翻って、旧作のどれであれ、楽しめたのならば本篇も満足出来るはずだ。
 しばしば悪ふざけが過ぎるが底知れない魅力を見せるダー子、詐欺師にしてはいささか真っ正直すぎるが仕事はきちんとこなすボクちゃん、しばしばダー子以上に腹を探らせない老獪さと洒脱さを併せ持つリチャード。ダー子にベタ惚れの五十嵐や愛弟子扱いのモナコ、更にはテレビシリーズ、劇場版それぞれから再登場するキャラクターが随所で物語を彩り、それだけで退屈させない。
 大枠を見抜くのはさほど難しくないが、細かな展開は波乱に富んでいて、終始ヤキモキさせる。かなり大掛かりすぎて非現実的とは言い条、クライマックスで釣瓶撃ちに繰り出される逆転の爽快感は絶品だ。仕掛けそのものに籠められた遊び心も、展開の巧さと相俟ってやたらと楽しい。
 犯罪者ばかりの作品ながら、ちょっと教訓めいた要素に、目頭が少し熱くなるような場面もあって、ドラマとしての起伏にも優れている――それでいて、安易にいい話で終わらせないあたりも潔い。
 きっちりと特定のファンを掴んでいればこそ、そのツボを的確に突いた作品。エンタテイメントとしていい仕事ぶりである。


関連作品:
コンフィデンスマンJP ロマンス編』/『コンフィデンスマンJP プリンセス編
ALWAYS 三丁目の夕日』/『ALWAYS 続・三丁目の夕日』/『ALWAYS 三丁目の夕日’64』/『釣りキチ三平』/『探偵はBARにいる』/『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』/『寄生獣』/『寄生獣 完結編
マスカレード・ナイト』/『スパイの妻〈劇場版〉』/『事故物件 恐い間取り』/『カイジ ファイナルゲーム』/『鍵泥棒のメソッド』/『HERO [劇場版](2007)』/『罪の声』/『新解釈・三國志』/『超能力研究部の3人』/『魔女見習いをさがして』/『感染列島』/『マスカレード・ホテル』/『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』/『のみとり侍』/『風に立つライオン』/『天外者(てんがらもん)』/『るろうに剣心 最終章 The Beginning』 『スティング』/『コンフィデンス』/『フィリップ、きみを愛してる!』/『アメリカン・ハッスル』/『オーシャンズ8

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