『ドクター・ストレンジ(字幕・3D・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター。 ドクター・ストレンジ MCU ART COLLECTION (Blu-ray)

原題:“Doctor Strange” / 原作:スタン・リー&スティーヴ・ディッコ / 監督:スコット・デリクソン / 脚本:ジョン・スペイツ、スコット・デリクソン&C・ロバート・カーギル / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、スティーヴン・ブルサード、チャールズ・ニューワース、スタン・リー / 共同製作:デヴィッド・J・グラント / 撮影監督:ベン・デイヴィス / プロダクション・デザイナー:チャールズ・ウッド / 編集:ワイアット・スミス、サブリナ・プリスコ / 衣装:アレクサンドラ・バーン / 視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 視覚効果監修:ステファン・セレッティ / ヴィジュアル開発主任:ライアン・メイナーディング / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:ベネディクト・カンバーバッチキウェテル・イジョフォーレイチェル・マクアダムスベネディクト・ウォンマイケル・スタールバーグ、ベンジャミン・ブラット、スコット・アドキンスマッツ・ミケルセンティルダ・スウィントン / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Studios Japan

2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:林完治

2017年1月27日日本公開

2019年9月4日映像ソフト日本最新盤発売 [MOVIE-NEX:amazonMCU ART COLLECTION:amazon]

公式サイト : http://marvel-japan.jp/Dr-strange/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/1/27)



[粗筋]

 スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)は優秀な神経外科医だった。それ故に傲慢で著しい野心家だが、それに見合う才能を確かに備えた男だった――その日までは。

 学会に出席するため山道を走っている途中で事故を起こしたスティーヴンは、よりによって大切な両手を損傷する。神経がズタズタになった両手は、懸命のリハビリににより多少は動かせるようになったものの、かつてのように繊細な手術を施すのはもはや不可能の状態になってしまった。

 様々な方法を探り、高額な治療にも臨んだが恢復に至らず、いつしかスティーヴンは自暴自棄になっていった。ただひとつ残されていた光明は、リハビリの担当医が語っていた、半身不随レベルの障害を乗り越えた患者が存在する、という話だった。

 スティーヴンは縋る思いでその人物、ジョナサン・パングホーン(ベンジャミン・ブラット)を訪ねる。パングホーンは手懸かりとして、“カマー・タージ”という施設の名をスティーヴンに教える。問題は金ではない、しかし高くつく、と謎めいた忠告とともに。

 有り金をはたき、スティーヴンが赴いたのはネパール、カトマンズ。だが誰に訊ねても“カマー・タージ”の所在を知る者はなく、挙句に暴漢に襲われてしまう。しかしそのとき、現れた男が暴漢を薙ぎ倒すと、スティーヴンを“カーマ・タージ”へと導いた。

 知に奢り、栄光に執着するスティーヴンはそこで初めて知ることになる――宇宙の真の広大さを。

[感想]

 マーヴェル・スタジオが『アベンジャーズ』シリーズを軸にヒーロー映画を束ねるようになって早くも14作を数えた。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で遂にその領域は宇宙へと飛び出したが、本篇では更に精神世界、そしてその奥に広がる平行宇宙にまで展開している――普通なら他のシリーズと結びつけづらい世界観のようにも思えるのだが、しかし『アベンジャーズ』には既に並行世界のひとつアスガルドの住人にして神であるソーが存在しているのだから、破綻していないのかも知れない――或いは、本篇のような世界、価値観があることで、『アベンジャーズ』サーガにおいて突出しすぎていたソーという存在がようやく収まるようになった、とも思える。

 しかしこの作品におけるヒーローと悪の戦いは、およそ常軌を逸している。冒頭から、術に合わせて自在に変貌し重力の向きが変化する空間で非現実的な戦いが繰り広げられ、度胆を抜かれる。粗筋では辿り着いていないが、ストレンジが初めてその“未知の世界”を体験するくだりのヴィジュアルなど、CGとは言い条、あまりの奇想天外ぶりに呆気に取られてしまう。高層ビルや道路が縦横無尽に展開する空間で、画面中央に伸びるわずかな空間を“落下”していく絵など、大スクリーンにて3Dで観なければ損だ、と断言したい。あの一連の映像を観るためだけにでも劇場に足を運ぶ価値はある。

 とはいえ、そのぶんストーリー面ではいささかワリを食った感があるのも否めない。新たなヒーロー誕生に至る経緯を綴る格好だが、そのために必要な動機付け、心境の変化についての描写が全般に緩いという印象があるのだ。

 脚本のチェックは怠らないマーヴェル・スタジオ作品ゆえ、そのあたりで手抜きをしているわけではない。スティーヴンが現実を超越した力に縋る経緯も、傲慢で他人を下に見るような男が如何にして“ヒーロー”になる道を選んだか、も動機付けはされているのだが、そのプロセスにキャラクターごとの個性があった別のヒーローたちと比べるとどうも凡庸で起伏に乏しいように思えてしまう。いや、これはこれで特徴的であり個性的なのだが、『スパイダーマン』の養父の死を契機とする心境の変化や、戦争を産業とする罪深さを悟り自らがヒーローとなった『アイアンマン』、職を失った男が実験から特殊なスーツを装着することから始まる『アントマン』といった具合に、それぞれ特徴的かつ、“他人を救う”という目的意識へのスライドがドラマのなかで明確に描かれていた諸作と比べると、本篇はややぼんやりしているのだ。

 もちろん“ドクター・ストレンジ”にもその目的意識はある――というより実は、本質的にこの人物をヒーローに変貌させていく志は、魔術を身につける以前と同じなのだ。医師の使命たる“人の命を救う”こと、それは魔術を学んだあとの彼をストレートにヒーローへの道へと導いていく。その成り行きはしごく自然なのだが、ゆえに平坦な印象をもたらしてしまっているのだろう。

 とは言い条、マーヴェルらしく、作品の質、面白さは確実に水準を超えている。序盤の困難から、意外な経緯を経て手にする力、それが人知を超えたものであるからこその葛藤など、ファンタジーに立脚するヒーロー・ドラマなればこその波乱や問いかけが物語を牽引し、やがては“ドクター・ストレンジ”という、名前通り一風変わったヒーローとして結実する。

 この作品の魅力として特筆すべきは、ドクター・ストレンジ役にベネディクト・カンバーバッチを起用した点だろう。どこか人間離れした容貌に、イギリス出身らしい知性とウィットの効いた振る舞いが、傲岸不遜なキャラクターに愛嬌をうまくプラスしている。適度に若々しさ、未熟さを醸しながら、それらが嫌味になりすぎない匙加減は、癖のあるキャラクターばかり演じているこの俳優ならではだろう。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』といい本編といい、ヒーローものの味わいを残しつつも従来と異なる世界や論理を持ち込もうとしている感がある。宇宙空間を部隊としているぶん、より奔放にしやすい『ガーディアンズ~』と比べて、私たちに馴染みのある世界と並行して特異な世界を織り込まねばならない本篇のほうが、観客にルールを浸透させる難しさがある。それを完璧にクリアした、とは言いにくいが、ユーモアの助けも借りて娯楽映画の枠内で観客に理解させる工夫を凝らした本篇は、質を維持し続けてきたマーヴェルならではの秀作と言える。

 これを書いている現時点、“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”における最大の山場である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が劇場公開されている。間もなく全世界興収の歴代第1位を更新する勢いの大ヒットを遂げているが、本篇は間違いなく、そのための重要な土台の一部を形作っている。もし既に『エンドゲーム』を鑑賞していて、なにかしっくりしないところがある、と感じたなら、もしかしたら本篇を見落としているか、本篇の“論理”をうまく理解し切れていなかった可能性がある。その場合は、本篇をもういちど見返したほうがいいと思う。

関連作品:

アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ

エミリー・ローズ』/『地球が静止する日』/『フッテージ』/『NY心霊捜査官』/『プロメテウス

イミテーション・ゲーム エニグマと天才科学者の秘密』/『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』/『オデッセイ』/『ミッドナイト・イン・パリ』/『シェイプ・オブ・ウォーター』/『キャットウーマン』/『ゼロ・ダーク・サーティ』/『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』/『グランド・ブダペスト・ホテル

マトリックス・リローデッド』/『ウォンテッド』/『インセプション』/『魔法使いの弟子』/『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『メリー・ポピンズ リターンズ

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