『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期〈4Kデジタルリマスター版〉』

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期〈4Kデジタルリマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭11案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期〈4Kデジタルリマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭11案内ポスター。

原題:“The Godfather Coda : The Death of Micael Corleone” / 原作:マリオ・プーゾ / 監督:フランシス・フォード・コッポラ / 脚本:フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ / 製作:フランシス・フォード・コッポラ / 製作総指揮:デヴィッド・フックス、ニコラス・ケイジ / 撮影監督:ゴードン・ウィリス / プロダクション・デザイナー:ディーン・タヴォラリス / 編集:リサ・ブラックマン、バリー・マルキン、ウォルター・マーチ / 衣装:ミレーナ・カノネロ / キャスティング:ジャネット・ハーシェンソン、ジェーン・ジェンキンス、ロジャー・マッセンデン / 音楽:カーマイン・コッポラ / メインテーマ作曲:ニーノ・ロータ / 出演:アル・パチーノ、アンディ・ガルシア、ダイアン・キートン、タリア・シァイア、ソフィア・コッポラ、イーライ・ウォラック、ジョー・マンテーニャ、ジョージ・ハミルトン、ブリジット・フォンダ、ラフ・ヴァローネ、フランク・ダンダンブルシオ、ドナル・ドネリー、リチャード・ブライト、ジョン・サヴェージ、エンツォ・ロブッティ、ドン・ノヴェロ、ヘルムート・バーガー、フランコ・チッティ、マリオ・ドナトーネ、ヴィットリオ・デューズ、アル・マルティーノ、ジョン・カザール / ゾエトロープ・スタジオ製作 / 初公開時配給:パラマウント映画 / 映像ソフト日本発売元:Paramount Japan
1990年アメリカ作品 / 2020年再編集 / 上映時間:2時間38分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / R15+
1991年3月9日オリジナル版日本公開(『ゴッドファーザー PARTIII』として)
2020年12月23日再編集版日本リリース
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
2022年3月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray DiscBlu-ray Disc トリロジーBOX]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/4/21)


[粗筋]
 1979年、シチリア出身マフィア、コルレオーネ一家の“ドン”として君臨してきたマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)は、組織の合法化を画策していた。
 そのためにマイケルが着目したのは国際企業、インモビリアーレである。歴史あるこの組織は、ヴァチカン市国が不動の大株主として掌握している。しかし、ヴァチカンの寄付の窓口的な役割を負っていたギルディ大司教(ドナル・ドネリー)は、ヴァチカン銀行が金融問題により7億ドルもの負債を抱えたことで窮地に陥っており、早急に穴埋めする必要に駆られていた。マイケルはヴァチカン市国が持つインモビリアーレの株式を6億ドルで購入することを提案、実質的なオーナーとして、事業に携わることを目論んでいた。
 マイケルは、父の名を冠した慈善団体《ヴィトー・コルレオーネ財団》として、凋落する故郷シチリア復興資金、という名目でヴァチカンに1億ドルの寄付を行った。この功績によりマイケルは叙勲を受け、公式にヴァチカンとの関係を築く。
 傍目には盤石に映るマイケルの地位は、しかし内部から揺らぎつつあった。マイケルは合法化した一家を、自らの血筋の男子が引き継ぐことを願っていたが、別れた妻ケイ(ダイアン・キートン)とのあいだに設けた唯一の男子であったアンソニー(フランク・ダンブルシオ)は、父を愛しながらも同じ道を辿ることを拒み、音楽の道に進むことを宣言した。対して、マイケルの亡き兄ソニーの遺児であるヴィンセント(アンディ・ガルシア)は既に暗黒街に足を踏み入れていたが、父親譲りの喧嘩っ早さで、新興ギャングのジョーイ・ザザ(ジョー・マンテーニャ)とのあいだにいざこざを起こしている。晴れの叙勲の席でも流血沙汰を起こすヴィンセントに、自分の事業に興味があるなら、しばらく自身の元で仕事ぶりを見ておくよう、マイケルは命じる。
 しかし、ことはマイケルの思惑通りに運ばなかった。ヴィンセントとジョーイ・ザザの対立は日増しに深刻化し、一触即発の様相を呈する。マイケルはインモビリアーレ買収の目処が立ったことを契機に、ラスヴェガスのカジノ経営からの撤退を決定、同様にカジノ運営に関わる他のファミリーの大物を招いた親睦会で、ザザをはじめとする一同に、これまでの利益を分配して穏便に方を付けようとした。
 だが、状況は、マイケルの予測を超えて悪化していた。未だ納得のいっていないヴィンセントがザザに食ってかかり、ザザが退出して間もなく、会議室の頭上からヘリコプターが襲撃、多くの死傷者を出す。辛うじて難を逃れたマイケルに、ヴィンセントは「ザザの仕業」と決めこみ激昂するが、新興勢力であるザザにそこまでの器量はない。近辺に裏切り者がいる、と看破したその矢先、マイケルは倒れた。持病の糖尿病による発作だった。
 マイケルは病床に伏せりながらも、インモビリアーレ買収への手配を進める。裏稼業からの撤退は、果たして無事に済むのだろうか――?


[感想]
 2作続けてのアカデミー賞受賞、という、2022年現在に至るまでいまなお他に成し遂げたことのない功績を残した『ゴッドファーザー PART II』から大きく間隔を空けた16年後、本作の原型となる『ゴッドファーザー PART III』が製作された。公開時のポスターには“3作連続のアカデミー賞なるか?”といった惹句が掲げられたが、しかし当時の評価は決して芳しくない。監督の実子ソフィア・コッポラの起用に批判が少なからずあり、作品そのもののクオリティについても、先行作から参加するキャストの口からも疑問が呈されるほどだった。
 監督自身も心残りだったのだろう、1作目の公開からまもなく半世紀が訪れる2020年、当時の素材をもとに、タイトル含め当初の構想により近づけたかたちで再編集したのが本篇だという。題名も、こちらが当初想定したものだったらしい。
 北米においても日本においてもメインは配信や映像ソフトの形式であり、劇場公開はごく限定的に行われただけだったため、日本ではこの『午前十時の映画祭12』での上映が初めての全国公開となった。

 2作目まで鑑賞したのだから、いずれは3作目も観たい、と考えながら二の足を踏んでいたのは、いずれ『午前十時の映画祭』で上映されるだろう、という期待を抱いていたこともさりながら、第2作とのあいだに開いた16年ものブランク、そして前述したような芳しくない評判が聞こえていたことによる。どんな不出来な映画でも、観た上で自分が判断する、という信条なのだが、この微妙な評価で、このシリーズならではの2時間半を超える長尺を耐えられるか、と考えると、やはり躊躇はしてしまう。
 未だにオリジナルである『ゴッドファーザー PART III』は未鑑賞のままなので、その出来を判断することは出来ない。しかし、編集を改めた本篇について言えば、およそ18年、劇中時間では先代から続く長いドラマの終焉として、堂々たる出来映えだと思う。
 襲撃された父や暴走する兄に代わって“ファミリー”を守るため、当初は望んでいなかった“ドン”の地位を継承したマイケルは、やがては制御不能となった身内も手にかける冷酷な人物になった。第2作のラストシーンで既に滲んでいた孤独と苦悩は、家族も組織も成長した本篇の時間軸でも彼を苛んでいる。既存の大企業の経営に食い込み、自らのビジネスの合法化を試みるのは、家族や組織を守りながらも決して理解されない境遇を顧みてのこととも受け取れる。
 だが、多くの非合法なビジネスを束ねる立場だった彼を、裏社会は簡単には解放しない。既に牛耳っていたラスヴェガスから手を引く代わりに、利益を分配して反発を和らげようとするが、既に進行していた陰謀によって、ふたたび容赦のない駆け引きを強いられる。
 望む望まざるに拘わらず暴力沙汰に巻き込まれていくプロセスは先行する2作と一致しているし、優雅なシチュエーションに重ねて壮絶な展開を見せるクライマックスの趣向も踏襲しているが、それゆえに渦中にいるマイケルの変化が如実に浮き彫りになっている。惨劇から辛くも生き延び、反撃を誓った直後に病に倒れ、それでも当初の目論見通り組織の合法化に臨みながら、これまでにない心の脆さを晒す。旧作でああも非情な決断をした人物とは思えぬ弱々しさに、その老いを感じずにはいられない。なまじ構成が近しいからこそ、その変化は無慈悲なほどに顕著だ。
 事態が旧作よりも入り組み、かつ登場人物も細かに入れ替わっているため、展開が把握しづらいのは難点だが、謎を伴う混迷ぶりは、構成が共通しているために弱まりかねなかった牽引力を巧みに補っている。誰が誰の指示で動いているのか、どちらが駆け引きに勝つのか、という緊迫した駆け引きが続き、目が離せない。旧作ではマイケルが一方的に事態を制圧していったのに対し、多くのことを予測できずにこの終幕を迎えていることも、旧作とは異なる緊張感と共に無常観を滲ませる。
 締め括りも印象的だ。先行作ともっとも趣を違えるこの決着は、悲愴である一方、あえてふた通りの解釈が出来るようにも描いている。ネット上にある粗筋ではひとつの結論にしか触れていないものも見受けるが、その境を曖昧にしているほうが余韻はより深く苦い。
 このシリーズはどこで切っても重厚な余韻を残すが、半世紀近くにも及ぶ歴史を背負い、その重みさえも孕んで決着をつけた本篇は確かに《最終章》の名に相応しい。もしオリジナルを観て、不満を残したままなら、いちど偏見を捨てて鑑賞してみるべきだと思う。


関連作品:
ゴッドファーザー』/『ゴッドファーザー PART II
地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』/『Virginia/ヴァージニア』/『地獄の黙示録 ファイナル・カット
狼たちの午後』/『ブラック・レイン』/『ロッキー』/『スター・ウォーズ episode I/ファントム・メナス 3D』/『続・夕陽のガンマン』/『キス・オブ・ザ・ドラゴン
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『グッドフェローズ』/『アイリッシュマン』/『ハウス・オブ・グッチ

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