『THE GUILTY/ギルティ(2021)』予告篇映像より引用。
原題:“The Guilty” / 監督:アントワーン・フークア / グスタフ・モーラー監督の同題映画に基づく / 脚本:ニック・ピッツォラット / 製作:アントワーン・フークア、ジェイク・ギレンホール、デヴィッド・ハリング、デヴィッド・リトヴァク、マイケル・リトヴァク、リヴァ・マーカー、ステヴァナ・メトキナ、カット・サミック、ゲイリー・マイケル・ウォルターズ / 製作総指揮:ジャスティン・バーシュ、リナ・フリント、エリック・グリーンフェルド、アニー・マーター、クリスティアン・マーキュリ、グスタフ・モーラー、ニック・ピッツォラット / 撮影監督:マッツ・マッカニ / プロダクション・デザイナー:ピーター・ウェンハム / 編集:ジェイソン・バランタイン / 衣装:ダニエル・オーランディ / キャスティング:リンゼイ・グラハム、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:マーセロ・ザーヴォス / 出演:ジェイク・ギレンホール、ライリー・キーオ、ピーター・サースガード、クリスティーナ・ヴィダル、イーライ・ゴリー、イーサン・ホーク、ディヴァイン・ジョイ・ランドルフ、クリスチアナ・モントーヤ / キャプストーン・ピクチャーズ/フークア・フィルム製作 / 配信:Netflix
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:伊藤美和子
2021年10月1日全世界同時配信
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/jp/title/81345983
Netflixにて初見(2021/10/03)
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[粗筋]
ジョー・ベイラー(ジェイク・ギレンホール)にとって通信係として最後の1日になるはずだったその日、カリフォルニアは山火事によって騒然としていた。消防隊のみならず、警察官も各所で起きる火災絡みのトラブルに駆り出され、人員がまったく足りていない。
そんななか、ジョーは奇妙な通報を受ける。まるで自分の子供を相手にするような物言いと、背後から聞こえる、苛立つような男の声。ジョーは、通報者が何らかの理由で、車中に閉じこめられており、同乗者に気取られぬよう助けを求めてきた、と確信した。電話口の女性には、我が子に語りかける芝居を続けるように指示し、同乗者に解らないような受け答えで情報を探り出そうとするが、間もなく通話は切れてしまった。
携帯電話の登録情報から判明した女性の名はエミリー・ライトン(ライリー・キーオ)。ジョーが彼女の自宅に連絡すると、幼い娘アビー(リスチアナ・モントーヤ)が応対した。彼女もまた、どうやら異常な事態に遭遇して動揺しているようで、受け答えは要領を得なかったが、どうやらまだ赤子の弟に異変が起きていると思われた。
アビーが彼女の父で、エミリーの元夫(ヘンリー・フィッシャー(ピーター・サースガード)の電話番号を暗記していたので、ヘンリーにも連絡をつけるが、彼は細かな事情を語ることなく通話を切ってしまう。ジョーは交通係にヘンリーの車を確保するように要請するが、現場の者たちは火災絡みのトラブルで忙殺されて、思うように動員できない。
果たしてジョーは、エミリーを救うことが出来るのか……?
[感想]
本篇は2018年に製作された『THE GUILTY/ギルティ(2018)』のハリウッド・リメイクである。
以前は“リメイク”と銘打っていても、設定が一致しているだけで重要な部分が変更されていることも多く、あまり満足のいく結果を生まないことも多かった。『ディパーテッド』のようにオスカーまで獲得するのは極めて稀な例で、多くは低調に終わりがちだ。本邦でも、Jホラーが国際的に人気を博していた当時、しばしば“ハリウッドリメイク決定!”という惹句を眼にしたはずだが、恐らくその完成作までフォローしているひとは稀だろう。そのくらい評判にならず、なんなら日本にまで届かないことも珍しくないのだ。
そんななかで本篇が鑑賞可能となったのは、オリジナル版から僅か3年で、その話題性がまだ温かさを保っていたことに加え、劇場ではなくNetflixでの配信というかたちで封切られたからだろう。特に後者は、新作映画が日本に届くことなく終わる、というケースを減らすことに貢献している――そのぶん確実に、出来の悪い作品に行き当たってしまう危険も増やした、と考えられるが。
……いささか誤解を招くような書き方になってしまったが、少なくとも本篇は、リメイクとして不出来ではない。オリジナルに対して極めて誠実に作っているし、その面白さも見事に維持している。
舞台はオリジナルのデンマークからアメリカ、サンフランシスコに移されているが、本篇では、そのために生じかねない不自然さを、森林火災のまっただ中に事件を設定することで補っている。デンマークの警察の実情についての知識を持ち合わせていないので断言できないのが歯痒いが、平時に動員できる警察官の数や、そのフォロー態勢は恐らくアメリカの方が整っている。下手をすると、劇中で描かれるクライマックスに至る前に決着しかねない状況を、現在進行中の森林火災に公的機関が忙殺されている、という設定を付与することで、機動力を奪った。
もうひとつ、主人公の設定に“喘息”を加えたこともなかなか効いている。原作に沿っている以上、彼が通信室を出る場面はないのだが、この“喘息”という設定のお陰で、主人公の感じる焦り、動揺が症状のかたちで可視化されている。僅かながら動きも追加されるので、映像的な緊迫感も増してくる。必ずしも要せず、だが演出的には如何にも気の利いた脚色だと思う。
物語は、随所で主人公自身の背負った問題をちらつかせながら、常に緊張を伴って進む。観客は主人公とほぼ同じ視点に立ち、回線の向こう側で起きることを直接見ることは出来ない。音声だけで表現される危機的状況は、映像がないからこそもどかしく、より強い焦燥感を演出する。これに前述した森林火災と喘息の症状、という要素が加わることで、確実にオリジナルよりもサスペンスとしての強度は上がっている。
ただ、換言すると、違いはそうした表現上の工夫や、演技の組み立てのなかで生じた変化くらいのもので、大筋はオリジナルとほぼ同一、と言っていい。表現の工夫や変化に関心がなく、緊張や驚きを味わいたいだけなら、オリジナルを既に鑑賞しているならたぶん楽しみはない。
もしそういうひとが本篇に価値を見出すとすれば、国を変えても通用する普遍性のある面白さを確認出来ることと、大きな制約のかかったシチュエーションで示す演出技術、そして俳優たちの演技力だろう。演出上の工夫は既に記したとおりだが、本篇の見応えは何より、ひとり芝居も同然の露出で、90分近い尺を引っ張り続けるジェイク・ギレンホールにこそある、と言っていい。彼が演じる、短気で自分本位の主人公が、顔を見てもいない女性を救うために奮闘し、苦悩した挙句、意識を変えていく様は、感動的ですらある。これも基本的にオリジナルを踏襲した人物像ではあるが、付加した設定とギレンホールの演技によって、より生命力と説得力を得た。
リメイクとしてはほぼほぼ文句がない。僅かワンシーンだけ、現場に駆けつけるパトカーの映像をイメージ的に挟んでしまったのが少々余計に感じられることを除けば、理想と言っていいだろう。それだけに、ストーリーの肝をこそ重視するひとには守りに入りすぎて楽しみはないが、同じテーマ、物語を与えられたとき、ハリウッドがどんなふうにアレンジするのが正解なのか? という問いへの、模範的回答と言える――辛いことを言い添えれば「それだけ」でもあるのだが。
関連作品:
『THE GUILTY/ギルティ(2018)』
『トレーニング・デイ』/『ライトニング・イン・ア・ボトル ~ラジオシティ・ミュージック・ホール 奇蹟の一夜~』/『キング・アーサー(2004)』/『クロッシング(2009)』
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』/『ナイト&デイ』/『プリデスティネーション』
『荒野の七人』/『恐怖の報酬【オリジナル完全版】(1977)』/『ディパーテッド』/『12人の怒れる男』/『ゲスト』/『モールス』/『サスペリア(2018)』/『最高の人生の見つけ方(2019)』
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