原題:“杏林醫院” / 監督、撮影&製作総指揮:ブロディ・チュー / 脚本:ブロディ・チュー、チャン・ヤオシェン / 製作:フランク・ウー / 照明:エデュケーション、ホアン・ウェイゲン / 特殊効果:ウディ・イェー、フー・ワンティン / プロダクション・デザイナー:ジン・シーウェイ、ヨー・チーウェイ / 編集:リン・チャオジン、リー・タンチュエン、ブロディ・チュー / 衣装:シュー・リーチー、ブロディ・チュー / 音響設計:アグネス・リウ、ニン・ツェン / 音楽:シン・ウー / 出演:リン・ボーホン、タイ・パオ、チュウ・チーイン、レイ・ホン、シュー・リーチー、ヨーコ・ヤン、サミュエル・クー、リン・イエンチュイン / 配給:Netflix
2020年台湾作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:廣瀬光沙 / R15+
日本劇場未公開
2021年3月20日全世界同時配信
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/81341307
Netflixにて初見(2021/3/20)
[粗筋]
台南にあった杏林医院は、1991年、ひとりの男の子が心臓発作で亡くなったことを契機に、不審な死が相次いだ。世間から激しく糾弾された末に病院は閉鎖され、廃墟となって残っている。
ある日、この杏林医院の廃墟で、交霊術が行われた。道士(タイ・バオ)とその息子アーホン(リン・ボーホン)はスー・シャオリン(シュー・リーチー)とモン・ミャオルー(チュウ・チーイン)というふたりの女性の依頼を受け、彼女らの望む人物の霊を下ろすことになっている。かねてから台北に出たがっていたアーホンはしばしば道士に反発しながら、しかし儀式は着実に進められた。
だが、廃病院のなかに溢れる《陰》の気は、道士の推測よりも強烈だった。このままでは命の危険もある、とアーホンは言うが、スーもモンも故人の魂に会うことを熱望し、恐ろしい儀式に参加を続ける。
遂には道士もこれ以上の儀式は危険だ、と判断するが、依頼人たちは止めることを認めなかった。そんな彼らに、悪霊の魔手はゆっくりと迫りつつあった――
[感想]
廃墟はホラー映画に頻出する要素のひとつだが、怪奇現象を追うジャーナリストや、物見遊山の一般人、或いは現地で起きた事件に関わりのある人物、と登場人物の設定が硬直しがちだ。
その点、本篇は人智の及ばない領域を専門とする道士を用意し、様々な事件の現場となった廃墟で交霊術を施す、という趣向にしたことで、作品全体に動きを出した。儀式というかたちでこの世ならざるものに接触を図るため、序盤から怪奇現象が発生するので、こういう作品にままある「観終わってみれば雰囲気だけ」とはならず、見せ場はふんだんにある。
ただ残念ながら、そうして盛り込んだギミックや展開のほとんどに、いまひとつ説得力がない。道士によるアイテムや儀式には真実味を感じさせるのだが、何故このタイミングでこんな現象が起きるのか? としっくり来ない展開が頻発する。また、それぞれの出来事に相対したときの登場人物の行動も全般に不自然だ。いくら再会を望んでいたとしても、唐突に死者が目の前に戻ってくれば、感情はもっと激しく揺らぐ。目の前の出来事に対し、登場人物が本来あるべき動揺や混乱を示さないので、彼らが味わっているはずの恐怖に観客が同調できない。結果として、観る側が驚いたり恐怖したりするのはほぼほぼ《猫騙し》のような技を駆使している場面なので、どうしても安っぽく感じられてしまう。
やもすると映画版《お化け屋敷》に留まりかねないところに、辛うじてドラマとしての面白さを味わわせる趣向も本篇にはある。詳しくは書けないが、観終わってから展開を振り返ると、腑に落ちる部分も少なくない。ただ、それにしても奔放に話を広げすぎてしまった点は否めない。大きなアイディアについては肯定したいが、それをより効果的に、衝撃的に見せたいのならば、やはりエピソードや見せ場を整理し、芯を通すべきだった。
アイディアは豊かだし、作り手の意欲は感じる。だが全体の仕上がりはかなり拙く歪だ。スタッフロールを追っていくと、監督のブロディ・チューは脚本、撮影、衣裳、編集と、まるでロバート・ロドリゲスのような八面六臂ぶりで、全力を挙げて作品に取り組んでいるのは察せられるが、もうひとつクッションを置くなり、第三者のフィルターを通して整頓すべきだったように思う。なまじ、熱意や創意を感じるだけに惜しいのだ。
関連作品:
『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳』/『ラスト、コーション』
『藍色夏恋 BLUE GATE CROSSING』/『天空からの招待状』/『共犯』
コメント