『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2地下の共用通路部分で柱に掲示されたポスター。
原題:“Knives Out” / 監督&脚本:ライアン・ジョンソン / 製作:ラム・バーグマン、ライアン・ジョンソン / 製作総指揮:トム・カーノウスキ / 撮影監督:スティーヴ・イェドリン / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・クランク / 編集:ボブ・ダクセイ / 衣装:ジェニー・イーガン / キャスティング:メアリー・ヴェルニュー / 音楽:ネイサン・ジョンソン / 出演:ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン、ドン・ジョンソン、トニ・コレット、リキ・リンドホーム、キャサリン・ラングフォード、ジェイデン・マーデル、K・カラン、エディ・パターソン、キース・スタンフィールド、ノア・セガン、フランク・オズ、クリストファー・プラマー / Tストリート製作 / 配給:Longride
2019年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12
2020年1月31日日本公開
公式サイト : http://longride.jp/knivesout-movie
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2020/02/08)


[粗筋]
 85歳の誕生日パーティーを済ませた翌朝、ミステリ小説の大家ハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)は屍体となって発見された。死因は首を鋭利なナイフで切り裂いたことによる失血死。大量の出血は辺りじゅうに飛びちり、第三者がいた痕跡がなかったために、その死は自殺として処理される。
 しかしそれから1週間後、警察からの要請で、関係者たちはハーランの邸宅に集められた。事情聴取のために訪れたのは、事件を担当するエリオット警部補(キース・スタンフィールド)とワグナー巡査(ノア・セガン)、そして“名探偵”ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)。依頼を受けて捜査に乗り出した、というブランは、家族たちに鋭く切り込んでいく。
 誕生日パーティーの夜、居合わせたのは長女リンダ・ドライズデール(ジェイミー・リー・カーティス)とその夫リチャード(ドン・ジョンソン)に、家族からは厄介者扱いされるその息子ランサム(クリス・エヴァンス)。亡き長男ニールの妻ジョニ(トニ・コレット)にその娘メグ(キャサリン・ラングフォード)。次男のウォルト(マイケル・シャノン)と妻ドナ(リキ・リンドホーム)にその息子ジェイコブ(ジェイデン・マーデル)。ハーランの母親グレート・ナナ・ワレッタ(K・カラン)。屍体の第一発見者である家政婦のフラン(エディ・パターソン)に、ハーランの健康管理をしていた看護師マルタ・カブレラ(アナ・デ・アルマス)。
 みなが隠そうとするが、彼らの多くはハーランと確執があり、秘密を抱えている。しかしハーランが死んでいた寝室はルートが限られ、出入りの難しい密室に近い状態にあった。ブランは、嘘をつくと嘔吐の反応が出てしまう持病を抱えたマルタを助手に指定し、ハーランの死の謎に迫ろうと試みる――


[感想]
 映画なら手当たり次第観ているように思われるかも知れないが、もともとはミステリ小説の愛読者であり、謎解き要素の強い映画数本を立て続けに鑑賞したあたりから劇場通いが増えた、という経緯がある。今では基本、面白そうなら観に行く、というスタンスになっているが、それでも好きなタイプの作品は緻密な伏線に支えられた衝撃を用意したストーリーであり、謎の多い殺人にたくさんの容疑者、それを解き明かす名探偵、なんてのが揃ったらワクワクしてしまうたちだ。
 だから、本篇みたいな作品こそ、何よりも心待ちにしていたのだ。
 謎の死を遂げた裕福なミステリ作家、その真実の調査に乗り出した探偵。死の現場は第三者の立ち入りが困難としか考えられない所謂“密室”で、関係者の多くに殺害の動機がある。まさしくミステリの王道を行く要素が目白押しだ。
 しかしそれでいてこの作品、決してオーソドックスな語り方をしていない。謎の死から1週間、葬儀も片付いたハーラン邸に突如事情聴取に現れた刑事達のなかにしれっと探偵が混ざっており、家族とは直接縁のない看護師マルタを助手に指名して捜査に乗り出す。ちょうど粗筋で記したこの辺りまでなら“王道”と言えるが、ここから物語は思わぬ展開を見せていく。
 未見の方の興を削がぬよう、どう展開していくのか、は敢えて触れないようにしたいが、恐らく「これ、ミステリ映画じゃなかったっけ?」と首を傾げるひともあるはずだ。奇妙な緊張は漲っているが、たぶん観客が求めていた種類のものではなく、戸惑いを覚えるかも知れない。
 ただ、これがべらぼうに面白いのも確かだ。意外なところで語られる登場人物たちの人間性、隠された関係性。常道を逸れているとはいえ、容喙する探偵も風変わりな振る舞いを見せて観客の気持ちをくすぐらずにおかない。
 そして、一風変わった展開ながら、そのなかに伏線や手懸かりが仕込まれており、クライマックスは見事な解決が待ち受ける。何気ない描写までが意味を持っていくさまに、いっそ感動を覚えるほどだ。アイディアも謎解きの約束を踏まえたうえでヒネリが加えられており、ミステリ映画としての質が高い。
 監督自身がアガサ・クリスティへのオマージュを籠めた、と言い切る本篇だが、決してクリスティが現役で活躍していたような時代へのノスタルジーで作らず、現代的なモチーフも鏤めているのにまた唸らされる。とりわけ、物語の中で核となっていく人物の設定が絶妙だ。劇中には昔と異なる、現代ならではの感覚で行われる差別が絡められており、それがユーモアや諷刺ばかりでなく、結末にある、どこか空虚だが不思議な爽快感のある後味にまで繋がっている。
 キャストにはジェイミー・リー・カーティスにトニ・コレット、ドン・ジョンソンにマイケル・シャノンと大物、クセ者を揃えているが、それぞれ演じるキャラクターも立っており、事件の中で演じる役割の大きさに拘わらず存在感を醸している。多くの容疑者を揃える、というのはミステリのお約束だが、ここまでキャラクターが粒立っているのは珍しい。だからこそ見応えがあるし、解決篇からラストシーンに至る衝撃が増している。
 これほど創意のある、そして映像ならではの趣向を用意したミステリ映画を仕上げてくれた監督に拍手を贈りたい。そして、世界的にヒットを遂げたことで、早くも続篇の製作が確定したことを、ミステリ愛好家として心から喜びたい。


関連作品:
LOOPER/ルーパー
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情婦(1957)』/『オリエント急行殺人事件(1974)』/『華麗なるアリバイ』/『アガサ・クリスティー ねじれた家』/『“アイデンティティー”』/『サボタージュ(2014)』/『search/サーチ』/『THE GUILTY/ギルティ

コメント

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