5月2日の映画鑑賞のあとの話。
この日は、映画を観に行く新宿バルト9から近いところで食事をしたかったのです。どこかで、近くに美味しい店がある、という情報を見た覚えがあったので、検索をかけてみたところ、記憶していたのとはちょっと違う気がするけれど、前々から新宿界隈の有名店としてしばしば名前が挙がってきたお店が出てきた。
それは、新宿御苑から近いところにある、SOBA HOUSE 金色不如帰。4年連続でミシュランガイドの星を獲得している有名店です……って、ただし正直なところ、ちょっと前にあった事件を契機に、私自身はミシュランの審美眼はあんまし信用を置かなくなってるんですけど。しかし、それを差し引いても、出てくる情報が気になるものばかりなので、混雑してて入店出来ないなら別の機会を窺うことにして、ひとまず訪ねてみることに。
情報によれば、このお店は整理券制となっているらしい。場所も曖昧だし、その確認も含めて、早めに現地入りしてお店に向かってみた。
……意外と手間取ってしまった。てっきり、新宿御苑沿いの通りにあるのかと思いこんでましたが、1本裏の通りにあった。しかもそんなに目立つ形で看板を出したりしていないので、捜し回ってしまった。
整理券は店頭に設置されたタブレットで操作して、希望の時間帯を選択すると番号付でプリントされるようになっている。時間帯によって残り枠も記載されており、私が訪れた10時20分頃にはまだどの時間帯もちょっと余裕がありました。なので、映画が終わって到着するのに丁度いい、13時20分までの枠を選びました。
映画鑑賞ののち再訪してみると、店内に待機客はいるけれど、先着がひとりだけなので、ほぼ待ち時間数分ほどで着席出来ました。人気店なのは間違いないですが、この感じなら、私には非常に利用しやすい。整理券配布時間のあとで開映する映画であれば、終わる頃合いを狙って整理券を確保すれば確実に座れるし。
初訪問の今回選んだのは、味玉そば(醤油)。初めてなら塩がいいか、とも思いましたが、自分の趣味で選ぶならまずはこっちなのです。
着丼すると、ひとまずスープをひとくち啜る……異様に多彩な味わいにまず驚きます。シンプルに醤油の味が来るのではなく、いきなり様々な風味が口の中で踊る、みたいな。公式サイトによれば、鶏ガラに鴨、牛肉などを用いた動物系の出汁にハマグリの出汁、更に和風出汁、いずれも別々に火入れしたものを配合したトリプルスープ、らしい。しかし、それぞれの味の面影はあっても、複雑ながら絶妙に調和していて、ひたすらに芳醇で美味しい。いちおうは醤油を活かしてるんですが、もはや私の知っている醤油スープでもない、といった趣。
麺は中細のストレート。これも茹で加減が絶妙で、程よい歯応えとツルツル感を留めながら、それが油をまとっていい具合にスープを引き上げてくる。気づくと夢中で食べ続けてます。
具材はそれぞれに食感の異なるチャーシューが2枚ちょっと――“ちょっと”、というのは、切れ端なのか解らない小さめのが1枚あったから。一瞬ナルトかと思った。1枚はちょっとパサッとしているけれど肉の風味が強く、1枚はしっとりとして脂の風味が強い。特に後者は、ムチムチなので歯応えも楽しい。ナルトに見えた小片は、後者を薄くスライスしたものかも知れません。器の縁寄りに穂先メンマ、それから見えにくいですが、チャーシューのしたにはほうれん草が添えてあります。これ、上にないのがけっこう大事。芳醇なスープと風味豊かなチャーシューはなかなか飽きのこない美味しさながら、それでもちょっと一本調子になりかけたところに、程よい歯応えと柔らかな苦みのアクセントを施す。そういう意味では薬味にしては存在感強めの九条ネギもポイント。味玉はいい具合に色づいていますが、過剰に味付けていない。茹で具合もスープに溶け出しすぎない半熟具合で、玉子自体のコクもスープとの調和も楽しめる。
で、最後までいまいち正体の解らなかったのが、大きめのチャーシューに乗せられたペースト状のものです。ある程度麺を啜ったあとで、ここだけ箸でつまんでみましたが、仄かに甘い。しかし正直、口にしたことのない風味なので、戸惑いながらちょっと混ぜつつラストスパートに入る。そうでなくても美味しいのに、そのまんまスープを最後まで飲み干したのは、これで最後のほんのりとした変化が生まれたからだと思う。
こちらも公式サイトに正体は乗っていた。どうやらモリーユ茸を用いたソースらしい。グラタンやシチューなどに使用され、和食では決して一般的ではない。ただし、中国の排骨麺などのスープには使われている、というから、実はラーメンに採り入れるのは正しいっぽい……もっとも私はほんとーに初めての味、少なくとも単独で、意識して口にしたのは初めてなので、素直に言えばそこまで強く意識はしてませんでした。次の機会にはしっかり溶かして変化を楽しむべきだな。
基本的にミシュランがどうこうはあんまり気にしてなくて、自分に合うか合わないか、で再訪するか否かを決めてますが、ここは間違いなくまた来ます。バルト9に来るのは年に1回か2回くらいのものですけど、そのときは毎回脚を運んでもいい、と思うくらいに美味しい。
ただ、このときは非常にスムーズに着席出来ましたが、食事を堪能しているとき、新たに訪れたお客に対して店員が「もう整理券終わったんですよー」みたいなことを言っているのが聞こえてきたあたり、本当にタイミング勝負のお店のような気がします。この日の私みたいに、整理券をまだ配布しているタイミングで現地を訪れることが出来て、かつ2、3時間後に再訪することが可能、というなら食べられる可能性はあるけれど、そうでないと、ここ目当てで行動を決めるしかないと思う。でも、そこまでする価値は充分あります。
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