TOHOシネマズ日比谷、スクリーン4入口前にて撮影した『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊〈4Kリマスター版〉』IMAX版入場者特典のポストカード。
原作:士郎正宗 / 監督&絵コンテ:押井守 / 脚本:伊藤和典 / 演出:西久保利彦 / キャラクターデザイン:沖浦啓之 / 作画監督:黄瀬和哉、沖浦啓之 / メカニックデザイン:河森正治、竹内敦志 / 銃器デザイン:磯光雄 / 美術設定:渡部隆 / 美術監督:小倉宏昌 / 色彩設計:遊佐久美子 / 撮影:白井久男 / 編集:掛須秀一 / 音響監督:若林和弘 / 音楽:川井憲次 / 声の出演:田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、仲野裕、大木民夫、玄田哲章、山内雅人、小川真司、宮本充、山路和弘、千葉繁、家中宏、松尾銀三、松山鷹志、小高三良、佐藤政道、林田篤子、上田祐司、亀山俊樹、後藤敦、坂本真綾、家弓家正 / アニメーション制作:Production I.G / 初公開時配給:松竹 / 4Kリマスター版配給:BANDAI NAMCO ARTS
1995年11月18日日本公開
2021年9月17日4Kリマスター版日本公開
2018年6月22日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc|4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組]
攻殻機動隊 Information site : https://v-storage.bnarts.jp/ghost-in-the-shell/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/540533
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2021/9/18) ※公開記念舞台挨拶つき上映
[粗筋]
高度にネットワークが発達し、人間のサイボーグ化が進んでいる近未来。
草薙素子(田中敦子)ら《公安9課》は、表沙汰に出来ない汚れ仕事を任務としている。必要とあれば、国際問題に発展しかねない亡命を、暗殺というかたちで処理することもあった。
そんな彼女たちは、国際的に影響を及ぼすハッカー《人形使い》を追うことになった。《人形使い》は主にヨーロッパ圏に出没、株価操作や情報収集、テロ行為に及んでいる。このハッカーが現地で犯行に及んでいる、という情報があり、素子たちが駆り出されたのである。
公衆電話からの不正アクセスが相次いで確認され、出動したものの、そこには《人形使い》によって記憶から改竄された不幸な男がいるばかり。しかし、《人形使い》は、思わぬかたちで素子たちの前に姿を現した――
[感想]
いまとなっては珍しくない設定のようではあるが、『マトリックス』を筆頭とする、ネットワーク社会の拡張を基底にした実写映画の多くは、本篇の影響を強く受けている。ネットのなかに取り込まれた意識、データベースへのダイブ、といった発想を先取りし、多くのクリエイターを刺激した作品として、観たことのないひとでも本篇のタイトルは知っているはずだ――かくいう私も、きちんと鑑賞したことはなかったが、作品とその影響については繰り返し聞き及んでいたので、ようやくきちんと向き合えたわけである。
先行する『機動警察パトレイバー』の劇場版からも解るように、押井守監督は極めて巧緻に世界観や設定を固めながら、それを説明させるようなくだりはほとんど挿入しない。オリジナルビデオとして既に親しまれていた『パトレイバー』はまだいいにしても、そうした前提のない本篇でも、大前提を深く説明するくだりはないので、漫然と観ていると、あっと言う間に置き去りにされる。観客に決して優しくない。
だがそれゆえに、実に取っ組み甲斐のある作りだ。すぐに理解できないからこそ終始知的好奇心が刺激される。序盤で矢継ぎ早に繰り出される、先進的だが構造の実感・想像しやすいガジェット、ネットワークの高度に進んだ社会だからこその政治的駆け引きとテロリズム。発想そのものはこの時代、既にあったものが多いが、それらが発展した結果を予測し、そのうえで現実を超えたレベルの闘争、葛藤が描かれる。ここまで高度にネットワークや電子機器が発達しながら、モバイル端末の機能が制限されていることや、キーボードという入力機器が重要視され、そのためにわざわざ手をタイピングに特化した義体に改造している、というあたりに、四半世紀を過ぎたいまの眼からは不合理に映るガジェットに少々苦笑いも禁じ得ないが、この当時の技術水準、方向性から想像しうる未来像には思考実験的な面白さもある――翻って、僅か四半世紀のあいだにネットワークの技術や端末の概念が激変している事実にも驚かされるのだが。
本篇には、ネットワークの発展がもたらすかも知れない意識の変革が採り上げられている。恐らく本篇の予測とは異なるかたちで発達を遂げた現代のネットワークの様相は、こうした変革は却って起きにくい――むしろ、本篇で描かれたよりも遥かにどぎついかたちでしか生じ得ないことを示唆しつつあるため、もはやファンタジーめいた印象に結びついてしまっている。クライマックスの、アニメとしては異色なまでに動きに頼らない、抽象的な展開も、当時としては深い思索を感じさせるものだったろうが、ネットワークでのコミュニケーション発達の結果、むしろエゴの肥大と、無自覚な善意・悪意が群体にも似た変異を示すようになって、画期的とも言える素子の選択は、もはや果てしのない幻想じみて映る。
だが、こうした現代の目から見た違和感、不自然さが作品の価値を減じるわけではない。むしろ、実際にネットワークが発展し、想像しうる未来像が変わってしまったいまだからこそ、もはや簡単に達することの出来ない仮想未来の構築美が本篇にはある。しかも、その構造を説明するだけの作品に留まることなく、その世界観のなかでの謎解きやサスペンス、そしてその創造性に相応しい飛躍を遂げるラストの発想と表現は、いま観ても素晴らしい。衝撃的で、奥に秘めたメッセージ性も決して減じていない。
まだまだデジタルでの作画が浸透するよりはるか以前の動画は描線が太い上にコマ数が少なく、ぎこちなさも感じるが、それでも極めて挑戦的な構図、カメラワークが豊富で、アニメーションとしての質が高いことは、25年後の目線で見ても解る。特に、光学迷彩をまとった素子のアクション・シーンは、その動きを伝えるための工夫と見せ方だけ取っても未だ古びていない。そして、深く構築された設定の上を撫でるように構築された物語には、まだまだ知的好奇心を掻き立てる奥行きがある。
今後、更にネットワークが進化し、描かれる未来像がアップデートされていっても、ディープなSF趣向を好むひとびとを惹きつけ、刺激をもたらし続ける作品だろう。
関連作品:
『イノセンス』
『機動警察パトレイバー the Movie 4DX2D』/『機動警察パトレイバー 2 the Movie 4DX2D』
『ハウルの動く城』/『千年女優』/『八甲田山<4Kデジタルリマスター版>』/『friends もののけ島のナキ』/『スイートプリキュア♪ とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪』/『猫の恩返し』/『バケモノの子』/『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』/『もののけ姫』/『ピューと吹く!ジャガー~いま、吹きにゆきます~』/『のんのんびより ばけーしょん』/『王立宇宙軍 オネアミスの翼』/『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/『風の谷のナウシカ』
『ターミネーター』/『ターミネーター2』/『AKIRA アキラ(1988)』/『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』/『マトリックス』/『A. I. [Artificial Intelligence]』/『パプリカ』/『ベイマックス』
コメント