TOHOシネマズ新宿、スクリーン6入口脇に掲示された『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(吹替)』チラシ。
原題:“羅小黑戰記” / 英題:“The Legend of Hei” / 原作&監督:MTJJ / 脚本:MTJJ、彭可欣、風息神涙 / プロデューサー:叢芳氷、馬文卓 / 助監督:顧傑 / 作画監督:馮志爽、李根、周達炜、程暁榕、鄭立剛 / 美術監督:潘婧 / 撮影監督:梁爽 / 3D監督:周冠旭 / 音楽:孫玉鏡 / 日本語吹替版音響監督:岩浪美和 / 日本語吹替版声の出演:花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏、松岡禎丞、斉藤壮馬、杉田智和、水瀬いのり、豊崎愛生、チョー、大塚芳忠、宇垣美里 / 制作会社:北京寒木春華動画技術有限公司 / 配給:チームジョイ、Aniplex
2019年中国作品 / 上映時間:1時間41分
2019年9月20日日本公開
2020年11月27日日本語吹替版日本公開
公式サイト : https://luoxiaohei-movie.com/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2020/12/10)
[粗筋]
黒ネコの妖精・シャオヘイ(花澤香菜)は、済んでいた森を、人間たちの開発によって奪われた。
居場所を求め彷徨ううちに、都市に出たシャオヘイは、人間たちに襲われているところをフーシー(櫻井孝宏)という妖精に救われる。フーシーは「棲むところを作ってやる」と言い、秘密の通路を通って辿り着くことの出来る島にシャオヘイを案内した。
フーシーの仲間たちに歓迎され、用意された寝床で久々に静かに眠ったシャオヘイだったが、明くる日、異様な物音に目を覚ますと、フーシーたちが何者かと戦っていた。あまりにも強い襲撃者によって仲間たちはちりぢりになり、シャオヘイも捕らえられてしまう。
ムゲン(宮野真守)というその襲撃者は、街までのルートが塞がってしまったため、金属を操る特殊能力を駆使して筏を組み、シャオヘイを乗せて海を渡り始めた。
ムゲンが言うには、シャオヘイの能力者としての属性はムゲンと同じ金属性なのだという。修行すれば自分同様に力が使える、と言われ、シャオヘイは筏の上で修練を始める。フーシーの敵であるらしいムゲンに、はじめは反発していたシャオヘイだったが、ムゲンは悪い存在ではない、と感じ始めた。
このときシャオヘイは知るよしもなかった。自分が、フーシーのある野望の鍵を握る存在であるということを――
[感想]
私は知らなかったのだが、本篇は2011年から発表されているWebアニメが大元にあるらしい。黒ネコの姿をした妖精・シャオヘイが人間の少女・小白と出会うところから始まるファンタジー作品で、本篇はその前日譚にあたるという。それ故なのだろう、本篇には劇中に登場するキャラには、出て来たもののストーリーにはほとんど貢献することなくいなくなるものが少なくない。たとえば二胡を弾くミン先生とその弟子モモや、クライマックスの戦闘に登場する妖精など、正直みんなどういう立ち位置なのか、本篇のみでは把握出来ない。とりわけ、吹替版では水瀬いのりが声を当てているナタなど、妙に印象が強い割に、展開上は何ら活躍をしてないのがもったいない――ある設定を観客に理解させる程度の役割は果たしているが、正直贅沢すぎる使い方ではある。
だが、その辺の細部を知らずとも楽しめるだけのポテンシャルは充分に備えた作品だ。確実に言えるのは、アクションシーンの躍動感が逸品なのである。
絵のタッチは、昨今の日本産アニメーションと比較するとだいぶシンプルで、塗りは基本的に陰影をつけず、描線も太い。しかし、その動きの表現は実にダイナミックだ。縦横無尽にカメラが動き回り、キャラクター達の多彩な能力が衝突するさまをテンポよく、かつスピーディに見せる。こうしたアクション・シーンが実に魅力的だ。
描線はすっきりしているが、キャラクターが明瞭に描き分けられていて、ヴィジュアルは愛らしい。ネコの姿の時も人間に変化しても可愛いシャオヘイはもちろんだが、前述したミン先生やモモ、ナタから仙人風のキュウ爺、無表情だが茶目っ気のあるムゲンでさえ、細かな所作に愛嬌があって観ていて楽しい。間違いなく、アニメーション本来の魅力を活かした作品と言える。
内容的にはアクション主体ながら、人間による開発の是非、という主題への考察を促す語り口も堂に入っている。開発により住処を逐われ、同様に行き場を失った妖精たちと共鳴するシャオヘイ。しかし、人間世界と折り合いをつけて暮らしている妖精たちや、人間の文化そのものにも触れ、決して破壊を望む人ばかりでないことも知っていく。フーシーとムゲン、どちらの主張にも妥当性があるが故に、シャオヘイ同様に観客も心を揺さぶられる。
それでいて、邦題にもある“選ぶ未来”は少し違うところにある、というのも本篇のミソだ。ある意味自然で、しかしそこに至る道筋をきちんと見せているからこそ、シャオヘイの想いも迫ってくる。
世界観の構築は緻密に行われているようだが、筋立てとしてはやはりシンプルなのだ。その余白の多さ、語りかける行間の豊かさもまた本篇の魅力だろう。それは恐らく、webアニメとして綴られたシリーズがあればこそ、なのだろうが、きちんと積み上げたものがあるからこそ、その前提を抜きにしても楽しめる秀作になったのかも知れない。
実は本篇は、2019年に中国で封切りされて間もなく、日本で字幕版が公開されている。それが、1年近く経って吹替版が公開される、という運びになったのだが、それもこれも、作品の秘めたポテンシャルの豊かさ故だろう。この魅力を他のひとにも伝えたい、と思わせる力があればこそ吹替版の誕生に繋がり、宣伝規模を超えた拡散ぶりを示しているのだろう。
なお、現時点で本篇のオリジナル・シリーズは吹替版が存在していない。日本語字幕を添えたものがYouTubeで鑑賞出来るが、この勢いならいずれ、オリジナル・シリーズの吹替版が制作される可能性もありそうだ。
この劇場版では脇役に水瀬いのりや豊崎愛生、大塚芳忠などなかなか贅沢な布陣を用意しているが、それこそオリジナル・シリーズ吹替版をリリースするための布石なのでは、と勘ぐりたくなる――それは穿ちすぎだとしても、やはり本篇程度の出番でこのキャストはちょっともったいない。また新しいかたちで登場してくれることを期待したい。
関連作品:
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