『マリグナント 狂暴な悪夢』

ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場、スクリーン11入口脇に掲示された『マリグナント 狂暴な悪夢』チラシ。
ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場、スクリーン11入口脇に掲示された『マリグナント 狂暴な悪夢』チラシ。

原題:“Malignant” / 監督:ジェームズ・ワン / 脚本:アケラ・クーパー / 原案:ジェームズ・ワン、イングリッド・ビス、アケラ・クーパー / 製作:ジェームズ・ワン、マイケル・クリアー / 製作総指揮:エリック・マクレオド、ジャドソン・スコット、イングリッド・ビス、ピーター・ルオ、チェン・ヤン、マンディ・ユウ、レイ・ハン / 撮影監督:マイケル・バージェス / プロダクション・デザイナー:デスマ・マーフィ / 編集&第2班監督:カーク・モッリ / 衣装:リサ・ノルチャ / キャスティング:アン・マッカーシー、ケリー・ロイ / 音楽:ジョセフ・ビシャラ / 出演:アナベル・ウォーリス、マディ・ハッソン、ジョージ・ヤング、ミコレ・ブリアナ・ホワイト、ジャクリーン・マッケンジー、ジェイク・アベル、イングリッド・ビス / アトミック・モンスター製作 / 配給:Warner Bros.
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R18+
2021年11月12日日本公開
公式サイト : https://wwws.warnerbros.co.jp/malignant/
ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて初見(2021/11/25)


[粗筋]
 その日、マディソン・ミッチェル(アナベル・ウォーリス)は夫とお腹のなかの子をいちどに喪った。
 デレク・ミッチェル(ジェイク・アベル)はマディソンにとってはいい夫と言い難かった。この数年のあいだに幾度も竜山を繰り返したマディソンに対し、デレクは日頃暴力的に振る舞っている。その日も、苛立ちを募らせてマディソンを強く壁に叩きつけた。マディソンは寝室に鍵をかけて閉じこもっていたが、深夜、不審な物音に気づいて様子を窺うと、夫は惨たらしく殺されており、マディソンもまたなにかに襲撃され、そのときに胎児を死なせてしまった。
 妹のシドニー・レイク(マディ・ハッソン)には、忌まわしい記憶の残る家を出るよう忠告されるが、マディソンは退院すると、唯一の財産となった家に戻る。だが、帰宅したその日から、ひとりきりのはずの家の中に別の存在の気配を感じ、マディソンは怯える。
 そしてある夜、マディソンはおぞましい夢を見る。年老いた女性の家を何者かが襲撃し、陳列してあったトロフィーで惨殺する場面だった。恐怖に叫んで目覚めたマディソンは、その日のニュース番組に慄然とする――彼女が夢見たのと同じような状況で、医学博士のウィーヴァー博士(ジャクリーン・マッケンジー)が殺害されていたのだ。
 マディソンとシドニーは恐怖から、地元の警察署に駆け込む。ウィーヴァー博士の事件を担当するショウ刑事(ジョージ・ヤング)とレジーナ刑事(ミコレ・ブリアナ・ホワイト)は当然のように真に受けなかったが、マディソンはふたたび殺人の光景を夢で目撃する。殺人現場の背後にある窓の景色が見えるであろうビルを捜索した刑事達は、マディソンが夢で目撃した通りの殺害現場に遭遇する。
 いったい、マディソンの身に何が起きているのか? やがて彼女は、あまりにも忌まわしい“真実”に迫っていく――


[感想]
 ジェームズ・ワン監督は発展意識の強いタイプらしい。リー・ワネルとともに作り上げた『SAW』が世界的にヒットを遂げ、シリーズ化が図られたときも、自身は製作総指揮という立場で助言するのみに留め、異なるジャンルや新しいホラーに挑んできた。近年は、実話を元にした『死霊館』を軸に、その作品世界を拡張する新作を新たな才能とともに発表する傍ら、大ヒットシリーズの1篇『ワイルド・スピード SKY MISSION』や、アメコミを原作とするユニヴァースの1篇『アクアマン』でも実績を残すなどしている。本篇はそんな彼が、考えてみれば『デッド・サイレンス』以来に手懸ける、実話にも頼らない完全なオリジナルのホラー作品である。
 フィルモグラフィを並べてみると察せられるが、この監督は似たような作品をいつまでも自分の手許に置くことはない。ホラー映画としては異例の全年齢対象を実現した『インシディアス』も、前述した『死霊館』も、3本目以降は別のクリエイターに委ねている。そんな彼が自ら乗り出した新作なら、恐らくこれまでとはまた趣の異なった仕上がりになるだろう、と予想はしていたが、ある意味期待通りであり、そして期待以上でもあった。
 粗筋だけ見ると、近年多く手懸けるホラーと同様の超常現象を扱ったもののようにも思えるが、描写はダリオ・アルジェントらが好んで撮った“ジャッロ”に近い。広義では犯罪小説や煽情的な内容のものも含むようだが、映画では凄惨な殺人シーンを織り込んだミステリー、スリラーを指す。凶器の鋭さや鮮血にまみれたさま、犠牲者の恐怖におののく表情をクローズアップにし、テンポのいい編集で見せる手法に特徴がある。アルジェントやマリオ・バーヴァといったイタリアの監督が手懸けるものが多いが、その影響を露骨に示す他国のクリエイターも少なくない。似たような作品を続けて撮ることを避けながらもジャンル映画への愛着と敬意を示すワン監督ならば、確かに挑んでも不思議ではなかった題材と言える。
 だが当然のように一筋縄では行かない。突如として殺害現場を幻視するという謎は、受け入れがたい捜査陣からの疑惑の目、というかたちでマディソンをじわじわと追い込む。観客は、あり得ない状況で現場を目撃するマディソンを見せられているので、彼女に感情移入して鑑賞するのだが、物語はそれを翻弄するように激しいツイストを重ねる。この時点で、ひとつの可能性に薄々気づく人もいるだろうが、なかなか確信には近づかない。
 しかし、マディソンの妹シドニーによる背景の追求と並行して、事態は最高潮を迎える――これが本当に“最高潮”なのである。それなりに色々とホラー映画、スリラーを観てきたが、こういう設定、こういうシチュエーションではすぐに想像出来ない種類の興奮が待っている。
 ただし、この展開が受け入れられるかどうかは、恐らく観客の嗜好によって極端に分かれる。そもそも残虐な描写が苦手な人――は、恐らくもっと早い段階で振り落とされるだろうし、そうした表現に耐性がある、むしろ好き、というひとでも、本篇のクライマックスのような状況には納得できない可能性はある。だが、ハマってしまうと抜け出せないほどに楽しい――このくだりの圧倒的な興奮を味わいたいがために、2度3度とリピートしてしまう人がいても不思議ではない。
 ホラーとして認められるか、楽しめるかは観る人次第だが、本篇がワン監督のジャンル映画に対する敬意と、飽くなき挑戦心の結晶であることを否定出来るひとはいないだろう。やはりこの監督、今後も期待できる。


関連作品:
SAW』/『デッド・サイレンス』/『狼の死刑宣告』/『インシディアス』/『インシディアス 第2章』/『死霊館』/『死霊館 エンフィールド事件』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『アクアマン
アナベル 死霊館の人形』/『ラブリーボーン
キャリー(1976)』/『トータル・リコール(1990・4Kデジタルリマスター)』/『ザ・リング』/『呪怨』/『歓びの毒牙(きば)』/『4匹の蝿』/『サスペリア PART2 <完全版>』/『シャドー』/『スリープレス』/『ハッピー・デス・デイ』/『ハッピー・デス・デイ2U』/『ザ・スイッチ

コメント

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