『マトリックス』

原題:“The Matrix” / 監督&脚本:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー / 製作:ジョエル・シルヴァー / 製作総指揮:ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、アンドリュー・メイソン、バリー・M・オズボーン、アーウィン・ストフ / 撮影監督:ビル・ポープ / プロダクション・デザイナー:オーウェン・パターソン / 編集:ザック・ステンバーグ / 衣装:キム・バレット / VFX:マネックス・ヴィジュアル・エフェクツ / ファイト・コレオグラファー:ユエン・ウーピン / キャスティング:マール・フィン、ショウナ・ウォリフソン / 音楽:ドン・デイヴィス / 出演:キアヌ・リーヴス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン、ヒューゴ・ウィーヴィング、グロリア・フォスター、ジョー・パントリアーノ、マーカス・チョン、ジュリアン・アラハンガ、マット・ドーラン、ベリンダ・マクローリー、レイ・パーカー、ポール・ゴダード、ロバート・テイラー / シルヴァー・ピクチャーズ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Watner Bros.
1999年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:林完治
1999年9月11日日本公開
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
2018年2月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|スペシャル・バリューパック(Blu-ray):amazon]
公式サイト : http://www.thematrix.com/japan ※閉鎖済
初見時期不明(『マトリックス リローデッド』公開時リリースのDVD?)
NETFLIXにて再鑑賞(2019/3/7)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2022/8/5)

[粗筋]
 ソフトウェア企業に勤めるトーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)は裏の顔がある。“ネオ”を名乗り、夜ごとネットワークを徘徊し、ハッカー行為を繰り返している。日常に倦んでいた彼が目下、関心を抱いているのは、“モーフィアス”を名乗る伝説のハッカーであった。
 ある晩、アンダーソンのパソコンに、“白いウサギを追え”という奇妙なメッセージが届く。その言葉に従うと、やはりネットの世界では知られた“トリニティ”を名乗る女(キャリー=アン・モス)に遭遇した。彼女はパソコンに届いたもうひとつのメッセージ“マトリックスが見ている”を口にし、戸惑うアンダーソンに、彼が探しているのは“モーフィアス”ではなく、答そのものだ、と諭す。
 翌る朝、寝坊したアンダーソンが出社すると、小包で携帯電話が届けられる。途端に鳴りだした電話を受けると、回線の向こうにいたのは“モーフィアス”(ローレンス・フィッシュバーン)と名乗る男だった。モーフィアスはアンダーソンに追っ手がかかっていることを知らせ、自分の指示に従えば逃げられる、と言った。
 途中までは従ったものの、あまりにも危険な逃亡ルートに怖じ気づいたアンダーソンは、会社に現れた黒ずくめの男たちに捕らえられる。担ぎ込まれた取調室で、アンダーソンは異様な出来事を経験する。弁護士を呼ぶ、と息巻いたアンダーソンに、黒ずくめの男が「口がなくても話が出来るのか?」と問いかけると、アンダーソンの口が突如としてふさがってしまった。動揺するアンダーソンを取り押さえると、男たちは奇妙な虫のようなものを取り出し、アンダーソンの身体に埋め込む。
 次に気づいたとき、アンダーソンは自分の部屋にいた。悪夢を見たのか、と思った次の瞬間、電話が鳴り、ふたたびモーフィアスが彼に囁いた。お前は“選ばれし者”、もし答を知りたければ、自分のもとへと来い、と。
 いったい何が起きているのか? そして、モーフィアスが語る、“世界の真の姿”とは――

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『マトリックス〈4Kマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『マトリックス〈4Kマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。

[感想]
 この句品の予告篇を劇場で観たとき、それがどこの劇場だったのか、までセットで記憶に残るほど衝撃的だった。生憎、本篇を劇場で観るタイミングは逸してしまったのだが、続篇の公開に間に合わせるように(たぶんDVDで)鑑賞して、改めて衝撃と、猛烈な興奮とを味わった。
 発表から既に20年が経っている。にも拘らず、いま観ても充分鮮烈に感じられることも驚きだが、何より、振り返って鑑賞したとき、本篇がハリウッド映画に与えた影響の大きさに驚かされる。
 この作品と言えば、まずインパクトが大きかったのは、予告篇でも大々的にフィーチャーされていた“バレット・タイム”を駆使したシーンだろう。放たれた銃弾を、身を反らし交わす姿を、周囲を取り巻くように設置したカメラで連続的に撮影することで、さながらカメラが銃弾よりも早く演者の周囲を巡っているような場面を作っている。この技法自体は本篇以前からあったが、こうも強烈な印象を残すかたちで導入したのは間違いなく本篇が最初だろう。更に時を経て、CGの技術が飛躍的に向上したことにより、“パレット・タイム”の映像的趣向がCGのなかに取り込まれていったが、直後数年間にこの手法を利用した作品が幾つか現れたのは、本篇のインパクトゆえだ。
 だが、本篇が革新的だったのはむしろ、アクション表現全般への意識ではなかろうか。本篇以前はシンブルにスピード感や衝撃そのものを見せる表現が多かったように思うが、本篇はその結果や影響を描くことでスピードやパワー、アクション自体の特異性を表現する趣向が多い。たとえばクライマックスで、濡れた床の上を駆けるモーフィアスの描写、ヘリコプターが衝突した瞬間にビルの壁面が大きく波打つ表現、そしてラスト、ネオとエージェント最後の戦いの見せ方だ。いずれも常軌を逸したシチュエーションを表現するためではあるが、そのためにアクションの影響、変化に着目したことが、本篇以前のアクション映画と一線を画している。アクション映画の表現の変化にはアメリカ同時多発テロの影響も大きいのだが、その直前に現れた本篇が布石となったことは確実だろう。
 むろん、SF映画としての完成度の高さも意義が大きい。コンピューターによって支配されるディストピア、という発想、そこに東洋的なものを持ち込む趣向も前例はあるが、それをSFに馴染みのない観客にも解り易く、整理して描いたことは重要だ。本篇の物語のモチーフはいわば神話的英雄譚の援用なのだが、世界の特異性やひとびとが味わう苦難が非常に明瞭に表現されているので、古臭さや違和感を与えない。それどころか、映像的な趣向の数々とも相俟って革新的にすら映る。
 既に人口に膾炙した物語や趣向であっても、解釈の仕方、構成の工夫によって、充分に観客を魅せることが出来る――それをこれ以上ないレベルで立証した、それこそ本篇の凄さなのだと思う。これ以降にアメコミのヒーローを実写化した作品が活発に作られるようになっていったのも、本篇の影響は少なくないはずだ。

関連作品:
マトリックス・リローデッド』/『マトリックス・レボリューションズ
バウンド』/『スピード・レーサー』/『クラウド アトラス』/『Vフォー・ヴェンデッタ』/『ニンジャ・アサシン
スネーキーモンキー/蛇拳』/『ドランクモンキー/酔拳』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー』/『カンフーハッスル』/
スウィート・ノベンバー』/『コンスタンティン』/『メメント』/『理由(1995)』/『ウルフマン』/『MEG ザ・モンスター
リベリオン』/『ウォンテッド』/『ウォッチメン』/『インセプション』/『トロン:レガシー』/『トランセンデンス

コメント

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