
TOHOシネマズ日本橋、5階の通路に掲示された『五十年目の俺たちの旅』大型タペストリー。
原作&脚本:鎌田敏夫 / 監督:中村雅俊 / プロデューサー:松岡周作 / アソシエイトプロデューサー:鎌田雄介 / 撮影監督:上野彰吾 / 照明:浅川周 / 美術&装飾:前田巴那子 / 衣裳:宮本茉莉、江頭三絵 / 編集:鈴木真一 / 整音:渡辺丈彦 / 録音:郡弘道 / 音楽:小林祥平 / 出演:中村雅俊、秋野太作、田中健、岡田奈々、左時枝、前田亜季、水谷果穂、福士誠治、小林博、中村准之、三田村伶子、福田温子 / アーカイヴ出演:金沢碧、森川正太 / 制作プロダクション:GENERATION EIGHT、suku / 配給:NAKACHIKA PICTURES
2025年日本作品 / 上映時間:1時間49分
2026年1月9日日本公開
公式サイト : https://oretabi50th-movie.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2026/1/)
[粗筋]
故あって町工場の経営を引き継いだカースケこと津村浩介(中村雅俊)のもとに、昔からの友人であるオメダこと神崎隆夫(田中健)が訪ねてきた。
妻・小枝子(左時枝)の父親が築いた地盤を守るべく、鳥取県米子市の市長に就任し堅実に働いてきたオメダには、県知事選出馬への期待も寄せられていた。カースケは工場を訪ねてきたオメダを誇りに思い、いずれ県知事になる人物として紹介するが、何故かオメダは激昂し立ち去ってしまう。
カースケの営む町工場では、会田紗矢(水谷果穂)が開発したポットが大ヒットとなり、発注が相次いで多忙を極めていた。性能は優れているが、繊細な工程を要するため量産の出来ない彼女の製品を批判する従業員もいたが、多くの従業員は活気づいている。
しかしそんな中、完成間際の製品を並べた棚が倒され、大量に壊れる事件が起きる。紗矢は自身を批判した従業員の仕業を疑うが、カースケは倒された棚の傍に落ちていた砂時計に、心をざわつかせる。
そこへ、オメダと共にカースケにとって大切な友人であるグズ六こと熊沢伸六(秋野太作)から奇妙な連絡が届いた。洋子が生きている、というのである。
山下洋子(金沢碧)はカースケたちにとって忘れられない女性だった。既に病によってこの世を去ったはずだが、カースケはグズ六とともに、話のあった温泉地へと赴く。洋子を名乗る人物は、現地で女将として働いていたが、やたらと昔の話をしていたという。精神的に不安定な様子を見せる彼女、地元の人々は放置出来ず、山中の小屋に住まわせた。
カースケたちがその小屋を訪ねたとき、くだんの人物は不在だったが、中には洋子を偲ばせるものが幾つも置いてあった。グズ六が外の様子を見に行っているあいだ、小屋の中を探ったカースケは、工場で見付けたのと同じ砂時計を発見する。
追憶にカースケが囚われていたとき、小屋に住人が戻ってくる。彼女を見て、カースケは驚いた。それはオメダの妹、中谷真弓(岡田奈々)であった――
[感想]
1975年10月に日本テレビ系列で放送されたテレビドラマ『俺たちの旅』は、当初2クール予定だったものが半年延長され、1年に亘って放送される大ヒットとなった。物語はそこで一区切りとなったが、その後も十年おきにスペシャルドラマが製作されている。
しかし、2012年に、テレビシリーズから演出に携わり、スペシャル版でも一貫してメガフォンを取った斎藤光正監督が2012年に亡くなったことで、10年ごとに製作されたスペシャル版の4作目は頓挫した。だが、50周年の節目に新作を発表する構想を抱えた原作・脚本の鎌田敏夫が、「いちばん近くで監督の演出を見ていたから」という理由で、主演の中村雅俊に演出を委ねたという。そういう経緯で、本篇は中村雅俊の初監督作品となった。
……と、賢しらに語ったが、すべてパンフレットや各種媒体で発表された情報である。なにせ私もさすがにリアルタイムの世代ではなく、その後も機会がなかったため、オリジナルのドラマに接したことはないし、スペシャルドラマにも、その時点では興味を抱かなかった。ただし、中村雅俊や、本篇の主題歌を手懸けた小椋佳の楽曲を親が好きだったために、主題歌・挿入歌にはやたらと馴染みがあり、関心はあった。一方で、映画に限らず様々なフィクションに接してきたので、シリーズの途中から入っても、ある程度は前提を察して読み取る能力がついてきており、先行作にきちんと接していなくても鑑賞のしようはある、
そういったわけで、オリジナルドラマについては最小限の知識のまま、本篇を鑑賞した次第である――ドラマシリーズ自体は配信で鑑賞は可能なので、何話かは予習しておこうとも思っていたが、タイミングが見つからなかった。
結論から言ってしまえば、恐らくドラマシリーズを程度は鑑賞しておいた方が楽しめるとは思う。過去にリアルタイムで観ていた人も、おさらいして記憶を新たにした方がいいのではなかろうか。
しかしそれでも、読解力があればさほど問題はない。これはいったい過去に何があったのか、と思わせる場面も勿論多いが、随所で過去のドラマの映像を引用し、漠然とながら背景が窺えるように表現しているので、長い人生のひと幕を切り取って観ている、という感覚は味わえる。
むしろ、知らないなら知らないなりに、リアルタイムを知っている人とは異なる感想を抱く作品であると思う。
なにせ本篇に挿入される過去の回想は、決して最近にまとめて撮られたものではなく、短くとも20年、最長で50年前に撮影された映像が使われている。現代に、それっぽいセットや衣裳を用いて撮影しても出し得ない、往年のドラマや映画の続篇が長い空白を経て製作されることはそこまで珍しくないが、半世紀というのはさすがに希有だろう。映像の扱いだけでも滲み出る、歴史の厚みだけでも、本篇には充分に価値がある。
一方で本篇は、いまひとつ映画らしくない趣がある。
過去映像との手触りの差を無くしたい、という意向もあって、現代の映像を往年のテレビドラマと同じ4:3のアスペクト比にしていることもさりながら、派手な見せ場はおろか、大スクリーンであることを活かしたロングショットを用いるようなこともしていない。地上波で流せば、劇場版としてではなく、普通にテレビ用として撮影した作品のように見えるはずだ。
撮影のための行動半径は広い。オメダが市長を務める鳥取県米子では実物の空港を用いた場面もあるし、お隣の島根県、日間賀島や篠島もロケ地に上がっており、景色は多彩だ。しかしそれでも、イメージ的に景色を捉えることはあっても、遠景を意識した構図は少なく、やはり映画的なスケール感は乏しい。
しかしそれも、登場人物が年齢を重ね、各地に散らばり、それぞれの人生を歩んでいることを表現するためであり、本篇はあくまでも、ドラマシリーズで描かれた彼らの人生のその後を辿ることを表現するため、と捉えるべきだろう。カースケは様々な仕事に就いた末に、以前の生活圏から遠くない場所で仕事をしていると映るが、以前のシリーズで既にオメダは代議士として米子市の市長を務め、グズ六は特別養護老人ホームを経営していて、たまに会うことはあっても日常は遠くなっていた。そう考えれば、舞台の広がりもまた、映画的な彩り以上にドラマとしての必然だったのだろう。
中村監督はドラマから一貫して携わった斎藤光正監督の手法を終始意識してなぞっていたという。だからこそ、まさしくドラマの手触りになったのだろうが、ストーリー自体も、現代を舞台にしながら不思議と昭和が匂い立つようだ。
随所に、勢い任せだった若い頃の(恐らくは先行するドラマで描かれていた行為の)影響が留まっているのもそうだが、本篇はカースケたちがかつて思い描いていた未来や、それぞれが望んでいた生き方と、現実とのあいだでもがき続けてきた、その延長上で構築されている。だから、かつて複雑な関係を築き合った山下洋子の存在がいつまでもちらつき、そこで翻弄された中谷真弓があのような形で登場する。オメダは、かつて放り出してきたものを確かめる旅をして、振り捨てかかっていた現在にふたたび惑わされる。普通に生きる人も、当然のように自らの過去の行いに囚われることがあるように、この作品の中には確かに、過去のドラマが息づき、尾を引いている。
クライマックスにしても恐らく、そうなのだ。
恐らく、現代のスタッフがいまの価値観、倫理観を優先して描いたら、行き着きにくい成り行きであり結末だろう。オリジナルのドラマを知らずに、何となく本篇を観てみただけ、という人の中には、この幕引きは受け入れがたい、と感じる可能性は充分にある。
だが間違いなく、カースケたちらしい選択であるし、このドラマの本質は外していない――途中に挿入される過去の出来事や、そのなかでの言動を踏まえる限りでは、そう捉えられる。クライマックス手前と、いちばん重要なところでユニークな表現があることも、かつてのドラマで描かれた人物像、雰囲気との連続性を保つためだろう。絶対に、とまでは断言出来ないが、旧作に接してきた人ほど腑に落ちる幕引きなのではなかろうか。
決して誰もが幸せになっているとは言えない。どうしようもない苦みを残してしまった部分もある。ただ、すべてのことが全員の望み通りになるわけではない。妥協点を見出し、もどかしさを覚えながらも、また旅の続きを生きていく。年相応の悩み、苦しみを抱えながらも、そのスタンスはあくまでも青春ドラマ、昭和の青春ドラマのままなのだ。
当時を知らない、当時に対する理解が薄い人には、やはり最後まで嵌まらないかも知れない。だが、当時を知る人、そこで描かれる青春像に少しでも憧れを抱いていた人は、その先にあるドラマを、当時の空気を受け止めて描いた本篇に心惹かれるはずだ。そして、エピローグ部分の大人たちの姿が、みっともなくも羨ましく思えてくる。
なお、普段はエンドロールに入ると席を立つ、という方も、場内が明るくなるまで席を立たないように願いたい。最後のショットこそ、ある意味、この作品の主題の集大成なので。
関連作品:
『HINOKIO』/『武士の家計簿』/『終戦のエンペラー』
『男はつらいよ』/『科捜研の女-劇場版-』/『サバイバルファミリー』/『一度も撃ってません』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『30年後の同窓会』/『トップガン マーヴェリック』
『劇映画 孤独のグルメ』/『恐怖のメロディ』/『ドラゴンロード』/『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』/『大いなる陰謀』/『マッハ!弐』/『アルゴ』/『オリエント急行殺人事件(2017)』


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