原作:森見登美彦 / 監督:石井祐康 / 脚本:上田誠 / チーフプロデューサー:松崎蓉子、山本幸治 / プロデューサー:尾崎紀子、松尾拓、武井克弘 / キャラクターデザイン:新井陽次郎 / 演出:新井陽次郎、亀井幹太 / 監督助手:渡辺葉 / 作画監督:永江彰浩、加藤ふみ、石館波子、山下祐、藤崎賢二 / 美術監督:竹田悠介、益城貴昌 /色彩設計:広瀬いづみ / CG監督:石井規仁 / 撮影監督:町田啓 / 衣装デザイン:やぼみ / コンセプト・デザイン:久野遥子 / 音響監督:木村絵理子 / 音楽:阿部海太郎 / 主題歌:宇多田ヒカル『Good Night』 / 声の出演:北香那、蒼井優、釘宮理恵、潘めぐみ、福井美樹、能登麻美子、久野美咲、西島秀俊、竹中直人 / 制作:スタジオコロリド / 配給:東宝映像事業部
2018年日本作品 / 上映時間:1時間59分
2018年8月17日日本公開
公式サイト : http://penguin-highway.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2018/08/30)
[粗筋]
アオヤマ君(北香那)はとても頭がいい。関心を持ったことは自分で調べ、解決しないと気が済まない。目下の関心事は、街を流れる川の源泉を見つけ出すことと、歯科医院に勤めるお姉さん(蒼井優)のおっぱいに惹かれる理由だ。
そんなアオヤマ君の暮らす街に騒動が持ち上がった。街のあちこちでたくさんのペンギンが目撃されたのである。極地に棲息するはずのペンギンが何故街中にいるのか。アオヤマ君は一緒に源流探しをしている級友のウチダ君(釘宮理恵)とともに、原因を調べ始める。
ペンギンたちを巡る事態は思っていたより奇怪なものだった。動物園などから逃げた痕跡はなく、どの目撃者もペンギンたちがどこから来たのかは確認していない。しかも、しかるべき施設に運ぶためにペンギンを載せたトラックは、気づけばガラクタでいっぱいになっていて、ペンギンの姿は消えていた。
どうしてもペンギンたちの行方が辿れず、川の源流探しに調査内容を切り替えた矢先、アオヤマ君とウチダ君は、川沿いの森に向かって移動するペンギンの姿を目撃する。あとを追っていったふたりだが、近づくと危険な目に遭う、と噂されている場所の手前で、クラスのガキ大将であるスズキ君(福井美樹)に見つかってしまう。ウチダ君はどうにか逃げることに成功するが、アオヤマ君は捕まり、自動販売機に縛りつけられてしまう。
そこへ現れたのは、あのお姉さんだった。アオヤマ君を解放したあと、お姉さんはアオヤマ君の歯が抜けかかっているのに気づいて、一計を講じる。歯に糸を結びつけ、アオヤマ君が気を取られている隙に抜こうとしたのだ。そのためにお姉さんが放ったコーラの缶は、空中で突如、ペンギンに変身した。
「この謎を解いてごらん。どうだ、君に出来るかな?」
[感想]
題名だけだと、可愛いペンギンが闊歩するファンタジー、のような印象を受ける。だがその実、本篇はむしろ、極めて本格派のSFである。
状況はファンタジーそのものだ。実際に、街中に何故かペンギンたちが溢れ、それが忽然と消えてしまう。そしてその後、更に奇妙なモノが森の中に出没したりする。
しかし、そうした不可解な出来事に臨む姿勢がとことん科学的なのだ。事象を観察し、法則性を見出し、原因を炙り出す。やもすると人は奇妙な出来事に対し、安易な決めつけで臨んでしまいがちだが、本篇は可能な限り思い込みを排し、原因を探ろうとする。この態度はSFと呼ぶに相応しい。
本篇の主人公であるアオヤマ君は、こうした物語の牽引役に相応しく、探究心に満ちている。自分で「僕は賢い」と言い切るあたりは不遜だが、子供らしい言動の同級生達に鷹揚に接するかと思えば、チェスでは自分と互角に渡り合う女の子を正当に評価したりする。それを、モノローグのうえで、とは言え表明してしまうあたりが生意気ではあるが、そのあたりが子供らしく、そして好感が持てる。似たようなタイプの子供にイヤな記憶があるのでもなければ、本篇のアオヤマ君が微笑ましく映るはずだ。
それでいて、この物語のなかで彼が経験するのは、昔ながらの“ひと夏の冒険”そのものなのだ。ありあまる時間を費やして、抱え込んだ疑問に挑み、それまでは足を踏み入れたことのない場所へと赴く。無理解な同級生との悶着があれば、大人達の横槍があり、そして甘酸っぱい恋愛感情も味わうことになる。
「人は初恋の人の面影をずっと追い求め続ける」といった趣旨の発言をしたのは北村薫だったと思う――しかもこれはSFならぬ本格ミステリについての発言であったが、しかし本篇を説明するのにいちばん適当な言葉ではないか、と思う。恐らくは、SFというジャンル、そして“ひと夏の冒険”というものの魅力を、本篇は何よりも素直に体現しているのではなかろうか。きっとアオヤマ君が終生追い続けるであろう“憧れ”の横貌を、印象的に汲み取ったのが本篇なのだ。
本篇の終盤は、アニメーションであることの特権を謳歌するかのように、豊かなイマジネーションで彩られ、映画らしいスペクタクルに満ちている。しかしそれでも、本篇を観終わっていちばん印象に残るのは最後の“別れ”と、冒頭と対比する最後のモノローグだろう。噛みしめるようなひとつひとつの描写が深い余韻を響かせ、いつまでも忘れがたい。
数多の名作に肩を並べるレベルの、優秀なジュヴナイルSFであると思う。
関連作品:
『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』/『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』/『聲の形』/『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪ 奇跡の魔法!』/『風立ちぬ』/『舞妓はレディ』/『イノセンス』
『ある日どこかで』/『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』/『転校生』/『バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『時をかける少女』/『SUPER8/スーパーエイト』/『サマーウォーズ』/『思い出のマーニー』/『寄生獣 完結編』/『君の名は。』
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