しじみの出汁でマッグロだ。

 10月4日、松江怪談談義10のあとの話。

 この日、行く店は決めてありました。お昼は、だいぶ前から松江旅のお決まりとなっている麪家ひばり。そちらはいつもと同じメニューをいただいたので、ここでは言及しません。しかし夜に行く店は、多分にネタを仕込みに行く、という目的も兼ねている。
 訪れたのはラーメンゴイケヤ。ちょうど昨年の今ごろに、リニューアルオープンしたカラコロ工房のフードホールに入ったこの店舗を、諸々あって訪ねて以来、ここも松江旅行の定番になりつつあります。私が惚れ込んだメニューは、もつ鍋をつけ汁にして食べるつけ麺・カミモツですが、確認したところ、これはだいたい12月以降の冷え込んだ時期から出しているそうで、この日はまだ会えない。
 目当ては、『ばけばけ』放送開始に合わせ、フードホールの各店舗で提供を始めた、コラボメニューです。このラーメンゴイケヤで提供するものが、またちょっとインパクトのあるものだったので、食べない、という選択肢は私にはない。

ラーメンゴイケヤの期間限定メニュー、食人鬼のマッグロしじみラーメン。

 というわけで注文したのは、食人鬼のマッグロしじみラーメン。小泉八雲の作品『食人鬼』をモチーフにしてる、と言いますが、予め読み直したけど、どう繋がるのかは解らぬ。まあ、見た目のインパクトには合ってるので良し。
 着丼したときの印象は、とにかく“黒い”。写真から想像する以上に黒い。
 まずスープを啜ると、ちょっとしょっぱめではあるけれど、しつこくない。しじみの出汁を使っているそうですが、それだけに限らない魚介の風味を感じます。
 レンゲに多くの黒い粉末が見えるので、海苔を溶いたのかな、と思いましたが、あとで確認したところ、炭なのだそうです……道理で、途中で口許を拭ったら、うっすら黒く汚れるはずだ。
 麺はここの他のメニューでも使われていると思しい細麺。歯応えを留めて、啜るとスープの旨味を引き上げてくれる。柔らかすぎても違うので、バランスが取れてます。
 独特の色味をしたチャーシューは、メニュー名にもあるマグロです。一口噛むと、あっさり解れるくらいトロットロ。一瞬で口の中に、マグロの旨味が拡がります。食感とたっぷり乗った脂はカマの部分と思われますが、そういう風に仕込んだのかも。もしかしたら、スープの風味もここから加算されてるのかも知れません。だからスープとの相性は絶妙。
 薬味として白髪ネギと水菜が添えられている。風味豊かでもクドくない仕上がりですが、これがさっぱりとしたアクセントになる。こと、ちょっとしょっぱめなので、白髪ネギの爽やかな歯応えと苦みは大事。
 そしてアクセントと言えば、しじみがちゃんと殻付きで入っているのもポイント。しかも、見失って取り損なわないように、という配慮なのか、小さな網に乗っている。これで風味を追加出来るし、スープの旨味を吸って更に美味しくなってる。ラーメンを啜り、ネギで歯応えを味わい、その合間にムチムチとした食感と濃い風味を堪能出来る。今回の松江訪問では、宿の朝食バイキングを利用しないことにしていて、しじみを食べる機会がなかったので、その意味でも有り難い。松野家じゃないが、これがないと松江に来た気がしない。
 だいぶ出落ち感のある見た目ですが、味はかなりいい。実際、私の場合は出来るだけ避けなきゃいけない身体なのに、思わずスープを飲み干してました。ドラマに会わせたフェアで提供されているため、現状は12月末で終了すると思われますが、私はレギュラーになってもいいと思う……仕込みが他のラーメンと違うので、厳しい機はしますが。現状でも数量限定のようだし。

 余談。
 基本ひとりで行動するたちなので、ラーメン屋は概ねカウンター席です。しかしこのときは、カウンターに微妙な間隔で客が座っている一方、四人掛けのテーブル席がまるまる空いていたので、そちらを案内されました。
 入口に近いこの席は、真横にショーケースが置いてあって、大量のヒーロー系特撮やアニメのフィギュアなどが陳列してある。その上のテレビはいつも、往年の作品の映像が流れている。このときは『タイガーマスク』でした。
 折角なので、ショーケース側を向いて着席したのですが……前を見てると、とてもここがラーメン屋には思えません。たぶん店主の趣味なんでしょうけど、これ目当てにお客が来てても不思議でない。

座った席の向かい側……ここだけ見るとラーメン屋じゃない。
座った席の向かい側……ここだけ見るとラーメン屋じゃない。

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