『スパイダーマン:ホームカミング(字幕・2D)』

TOHOシネマズ日劇、外壁にあしらわれた『スパイダーマン:ホームカミング』キーヴィジュアル。 
TOHOシネマズ日劇、外壁にあしらわれた『スパイダーマン:ホームカミング』キーヴィジュアル。&Amazon.co.jp商品ページ。

原題:“Spider-Man : Homecoming” / 監督:ジョン・ワッツ / 脚本:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー、ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード、クリス・マッケンナ、エリック・ソマーズ / 原案:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー / 製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル / 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、アヴィ・アラド、ルイス・デスポジート、ジェレミー・ラッチャム、スタン・リー、マット・トルマック、パトリシア・ウィッチャー / 撮影監督:サルヴァトーレ・トチノ / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・スコール / 編集:デビー・バーマン、ダン・レーベンタール / 衣装:ルイーズ・フログリー / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:トム・ホランド、マイケル・キートン、ロバート・ダウニー・Jr、マリサ・トメイ、ジョン・ファヴロー、グウィネス・パルトロー、ゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロン、ローラ・ハリアー、トニー・レヴォロリ、ボキーム・ウッドバイン、ドナルド・グローヴァー、クリス・エヴァンス / パスカル・ピクチャーズ/マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2017年アメリカ作品 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:林完治
2017年8月11日日本公開
2017年12月20日映像ソフト日本盤発売 [ブルーレイ&DVDセット4K ULTRA HD & ブルーレイセット]
公式サイト : http://www.spiderman-movie.jp/
TOHOシネマズ日劇にて初見(2017/9/27)


[粗筋]
 トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)がスターク・インダストリーズ主導にて、《アベンジャーズ》の拠点となる基地を建築していた頃、ウルトロンの叛乱により宇宙から襲来した勢力の残骸処理にに携わっていたトゥームス(マイケル・キートン)は、突如として仕事を奪われる。他でもない、スターク・インダストリーズが中心となり、政府と共同で設立したダメージ・コントロール局が管理するという。憎悪を抱いたトゥームスは、部下たちが回収した異世界の技術を鏤めた遺物の数々を、あえて隠匿した。
 それから8年。トゥームスと仲間たちは遺物の超科学を駆使して掠奪を重ね、財産を築きつつあった。
 同じ頃、ただの科学オタクだったピーター・パーカー(トム・ホランド)は、《アベンジャーズ》に加わるべく努力を重ねていた。折しも発生した、《アベンジャーズ》同士の内紛ではトニー・スターク=アイアンマンの一派として重要な役割を果たし、スターク謹製のオペレーション・システムを搭載したスパイダー・スーツを提供される。
 だが、2ヶ月待っても、スタークから新たな任務の要請はなかった。いつか本当に認められて《アベンジャーズ》の一員になれる日が来る、と信じて、ピーターは地元ニューヨークでのヒーロー活動に励んでいる。
 ある日、ピーターは近所のATMで、アイアンマンの仮面を被った武装集団と対峙する。どうにか撃退には成功したが、集団は何故か超科学の技術を駆使していた。ピーターは前々から連絡を取っているスタークの警備担当ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)に報告するが、ハッピーは来週に控えた《アベンジャーズ》拠点の移転準備で忙しく、ろくに相手もしてくれない。慌てて帰宅した際に、ピーターは親友ネッド(ジェイコブ・バタロン)に正体を知られる失態まで犯してしまう。
 ネッドは、級友リズ(ローラ・ハリアー)の自宅で催されるパーティにスパイダーマンを登場させ、彼と知り合いであることを宣伝することで校内での地位向上を図ろうと提案した。だがその晩、ピーターはリズの家の屋根から遠くで不可解な光が放たれるのに気づき、駆けつける。そこには、ATM強盗が用いていたものによく似た武器を取引する一団がいた。ピーターは必死の追跡を試みるも、巨大な翼を持った怪人に妨害され、上空から墜落したところを、スタークの放ったアイアンマンスーツに救われる。
 スタークは、本当に危険な相手は専門家に委ね、ピーターには地に足をつけた活動を指示する。だが諦めきれないピーターは、武装集団が落とした武器の一部を回収、学校に持ち込み、研究室で調査しようとした。武器から出ている信号に導かれ、回収に現れた武装集団のメンバーに追尾装置を仕掛け、敵がメリーランド州に向かったことを嗅ぎつけるが、そこは500キロの彼方。ピーターは、いちどは参加を断った全米学力大会のメンバーに加わり、会場であり、ニューヨークよりは確実に近いワシントンD.C.へと向かう――


[感想]
 タイトルにスタッフのみならず、原作から知るファン達の感慨をも籠めた、記念碑的な作品である。
『スパイダーマン』は今日のアメコミ原作映画の隆盛に先鞭を付けた作品にも拘わらず、巨大なサーガとして展開してきた“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”には加われずにいた。それというのも、マーヴェルの諸作の権利がディズニーに集約されていくなか、この作品はソニーが映画化権を握っており、マーヴェルがヒーロー2度目の集結に向かって布石を置くあいだも、2014年時点まで独自にシリーズを構想していた。
 しかし、ちょうどその2度目の集合作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』公開の少し前、ディズニーとソニーはマーヴェル作品におけるパートナーシップを締結、『スパイダーマン』の配給については引き続きソニーが担当しながら、マーヴェルの協力を得てシリーズを製作していくことを決定した。これによってMCUへのスパイダーマンの参加が可能となり、アンドリュー・ガーフィールド主演によるシリーズを完結としたうえで、新たな配役によるシリーズがスタートしたわけである。そうして誕生したトム・ホランドによる新スパイダーマンは、先行する『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でお目見えし、本篇はいよいよ待望だった、MCUの1作としてのスパイダーマン主演作となったわけである。
 そうした経緯による仕切り直しであるために、本篇はふたりの先輩スパイダーマンと大きく異なる点として、力の獲得やヒーローとして覚醒するくだりが省かれている。なにせ『シビル・ウォー』にてヒーロー同士の戦いに不慣れながら参戦できる程度にはもうキャラクターが確立されていたので、“スパイダーマン誕生”を描くとすると過去の出来事になる。また何より、先行するふたりのスパイダーマンによって、誕生の経緯は繰り返し描かれてきた。代替わりしたからと言ってもういちど繰り返すのは、アメコミ映画が活況となってから熱心に追っているひとびとにとっては退屈だろう。
 それでも、これまでの『スパイダーマン』映画が押さえていた、主人公の生意気さやお調子者っぷりが影響した、青春ドラマの要素の色濃いヒーロー、という性質は維持している。いちおうは《アベンジャーズ》の一員として戦う機会はあったがあれはあくまで“内戦”という非常時の仮参加、まだ正式には認められていない、という微妙な立ち位置ゆえの焦りが導く滑稽な言動や失態。その一方で、学生としての悩みも尽きない。他のヒーローたちと比較すると、いい意味で青臭く、親しみが湧く。
 大人の目線で観ると、トニー・スタークやハッピー・ホーガンの言い分も理解は出来るのだ。確かに、まだ判断力の乏しい少年に、重大な事件の舵を取らせるわけには行かない。どうにかヒーローとして認められたいピーターをいいように利用するスタークの姿には、少年目線からは底意地の悪さが色濃いが、青春ドラマで少年が遭遇する社会の理不尽さの象徴めいてもいる。
 しかし本篇の本当に巧妙なのは、のちに《バルチャー》の名で呼ばれる悪役の設定だろう。終盤でちょっとした驚きを演出するため詳細は避けるが、その人物像、立ち位置はピーター・パーカーから決して遠くない。スタークを激しく敵視する《バルチャー》=トゥームスの言動は、スタークの態度とも相俟ってピーターを激しく揺さぶる。
 どこかで、大人に命じられるまま、ヒーローとしての顔を捨てていれば、恐らくピーターは楽に生きられるだろう。だが、自らのミスが原因でスタークに見限られ、衝撃的な事実に身動きが取れなくなってなお、ピーターはスパイダーマンのマスクを被る。それは、彼が偶然に与えられた身体能力と、自身の努力によって鍛えた知性が、彼にヒーローとしての自覚を自然と促したからだ。滑稽な失敗を繰り返し、どうしようもなく立場を悪化させながらも、自分以外に対処できる者がいないのなら、すべてを賭しても立ち上がる――熱いヒーローそのものであり、そしてたまさか超常的な力を得てしまったヒーローのドラマとしても見事な結構だ。
 誕生までの経緯こそ省かれたが、彼が飛び抜けて“未完成”のヒーローである、という性質は変わらない。他のどのヒーローよりも親しみの持てる、“わたしたちの隣人”だからこそ、《スパイディ》は魅力的なのだ。マーヴェルへの復帰を果たしても、馴染んだ彼のままであることがひたすらに喜ばしい、そんな作品である。
《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》の1篇らしく、トニー・スタークに限らず、別シリーズの関係者がちらほらと顔を見せるのが愉しみのひとつだが、見せ場の多さ、派手さもこのラインナップに加わったからこそ、かも知れない。ワシントン記念塔の事件や、スタテン島フェリーでの災厄、そしてクライマックスの、このシリーズならではの先進科学に彩られたスペクタクルは、《スパイダーマン》が唯一のヒーローであった先行2シリーズでは観られなかったものだ。あまりにも規模が大きくなりすぎている、ということを却って惜しむ意見もあるかも知れないが、それこそ旧シリーズで楽しめばいい。是非とも、また権利で争うことなく、《ユニヴァース》の一員であればこその《スパイディ》をもっと堪能させて欲しいところだ。

 ――ちなみに、マーヴェル原作ながらディズニーに映像化の権利がなく、合流出来ずにいたシリーズがもうひとつ存在する。
『X-MEN』である。
 こちらもまた『スパイダーマン』と同時期に映画化され、スピンオフも含め多くの作品が発表されているが、権利を所有しているのが20世紀フォックスだったため、スパイディ同様にMCUへの合流が適わずにいた。
 しかしフォックスは2019年、ディズニーによって買収され傘下に組み入れられた。つまり事実上、映画化権がディズニーに統合することが可能となったわけである。
『デッドプール』や『ローガン』のように、R-15という高いレーティングを受け入れ独自の客層を開拓してきた“X-MEN”の世界観がそのままMCUに統合しうるか、と問われるといささか疑問なのだが、“MCUのなかにだけ存在するX-MEN”の流れを構成し、“X-MEN”にしか登場しなかったキャラクターが“アベンジャーズ”に加わることも決して不可能ではなくなったわけだ。
 リップサーヴィスも多分にあるだろうが、『ローガン』にてウルヴァリン役を退いたヒュー・ジャックマンも、MCUに参加出来るならふたたび演じてもいい、と仄めかしてもいる。また現時点でのメインシリーズ最新作『X-MEN ダーク・フェニックス』は“最後”とも謳っており、それは即ち“X-MEN”のキャラクターたちがシリーズの軛から解放される、という意味とも取れる。
 どこまで実現するのかはさておき、本篇の登場こそ、MCUの更なる可能性の広がりを象徴していることは確かだ。そういう意味でも、重要な転換点となった1作と言えるだろう。


関連作品:
アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス
インポッシブル』/『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』/『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』/『コンテイジョン』/『グレイテスト・ショーマン』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『リディック:ギャラクシー・バトル』/『オデッセイ』/『THE ICEMAN 氷の処刑人
スパイダーマン』/『スパイダーマン2』/『スパイダーマン3』/『アメイジング・スパイダーマン』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『スパイダーマン:スパイダーバース』/『ヴェノム

コメント

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