『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(字幕・Dolby Cinema)』

丸の内ピカデリーのドルビーシネマフロア、エレベーター前に掲示された『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』ポスター。
丸の内ピカデリーのドルビーシネマフロア、エレベーター前に掲示された『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』ポスター。

原題:“The Suicide Squad” / 監督&脚本:ジェームズ・ガン / 製作:チャールズ・ローヴェン、ピーター・サフラン / 製作総指揮:ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー、ウォルター・ハマダ、シャンタル・ノン・ヴォ、ニコラス・コルダ、リチャード・ブラハム / 撮影監督:ヘンリー・ブラハム / プロダクション・デザイナー:ベス・ミックル / 編集:フレッド・ラスキン、クリスチャン・ワグナー / 衣装:ジュディアナ・マコフスキー / 音楽:ジョン・マーフィ / 出演:ヴィオラ・デイヴィス、ジョエル・キナマン、ジェイ・コートニー、ピート・デヴィッドソン、メイリン・ン、フルーラ・ボルク、ショーン・ガン、ネイサン・フィリオン、マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ダニエラ・メルシオール、シルヴェスター・スタローン、デヴィッド・ダストマルチャン、マイケル・ルーカー、ピーター・カパルディ、アリシー・ブラガ、ファン・ディエゴ・ボト、ホアキン・コシオ、フリオ・カサール・ルイス、タイカ・ワイティティ / アトラス・エンタテインメント/ピーター・サフラン製作 / 配給:Warner Bros.
2021年アメリカ作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:アンゼたかし / R15+
2021年8月13日日本公開
公式サイト : https://wwws.warnerbros.co.jp/thesuicidesquad/
丸の内ピカデリーにて初見(2021/8/19)


[粗筋]
 アマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)がベル・レーヴ刑務所に収容された極悪人たちによって組織する《タスクフォースX》、通称《スーサイド・スクワッド》が、新たに編成された。
 目的は、南米の島国コルト・マルテーゼ島にある研究施設《ヨトゥンヘイム》内部で行われている生物兵器の研究成果をすべて抹消すること。少し前までコルト・マルテーゼ島は独裁者一族によって支配されており、アメリカ政府も公認こそしないものの、その支配を黙認していたが、ルナ将軍(ファン・ディエゴ・ボト)率いる軍部によるクーデターが成功したことで事情は一変した。ルナ将軍は徹底した反米派で、これを機に生物兵器をアメリカへの切札として用いる危険がある。世界の軍事バランスのためにも、生物兵器を巡る研究成果は早急に潰す必要があった。
 チーム1はメンバーの裏切りにより、上陸早々に壊滅状態に陥ったが、敵の兵力がそちらに集中したこともあって、 ブラッドスポート(イドリス・エルバ)が隊長を任されたチーム2は難なく上陸に成功する。
 ブラッドスポートは当初、《スーサイド・スクワッド》への参加には頷かなかった。だが、万引で逮捕されたひとり娘をベル・レーヴ刑務所に収容する、とウォラーに脅され、渋々引き受ける羽目に陥ってしまう。自分と似たような経歴に、平和のためなら老人も女子供も殺す、と公言するピースメーカー(ジョン・シナ)、油断するとすぐに眠りこけてしまうゆとり世代のネズミ使いラットキャッチャー2(ダニエラ・メルシオール)、ひとりだけ本気で死にたがっているポルカドット・マン(デヴィッド・ダストマルチャン)、知能が低く仲間でさえ捕食しかねないサメ男キング・シャーク(シルヴェスター・スタローン)という、異様にクセの強い仲間に振り回されながらも、チーム2は進撃を重ねる。
 チーム1の生き残りであり、ブラッドスポートの戦友でもあるリック・フラッグ(ジョエル・キナマン)を救出、反政府軍のリーダーであるソル・ソリア(アリシー・ブラガ)の協力を得ると、街への潜入にも成功する。
《ヨトゥンヘイム》潜入のためには、生物兵器の開発に携わっていたマッド・サイエンティストのシンカー(ピーター・カパルディ)を捕らえる必要があった。だが、軍はその動きを察知し、兵を送りこんでいた――
 一方その頃、チーム1のもうひとりの生き残りハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)は意外な場所にいた。ルナ将軍の宮殿で、盛大な歓迎を受けていたのである――


丸の内ピカデリーのドルビーシネマスクリーン入口の廊下壁面に表示される『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』キーヴィジュアルの1コマ。
丸の内ピカデリーのドルビーシネマスクリーン入口の廊下壁面に表示される『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』キーヴィジュアルの1コマ。


[感想]
 マーヴェルとDC、アメコミ界の2大レーベルが競うように映画版をリリースするようになって久しいが、両シリーズを横断して監督を担当したのはジェームズ・ガンが初めてだろう――実際には、ザック・スナイダーが製作途中に私的な事情で降板した『ジャスティス・リーグ』を、《アベンジャーズ》初期2作を監督したジョス・ウェドンが引き継いで仕上げた、という経緯はあるが、正規に監督としてクレジットされた人物としては初、と言っていいだろう。トラブルがあったにも拘わらず、ライヴァルから招聘される、というのは、それだけ実力が認められている証だろう。しかも製作サイドからは、DCコミックスのどの作品を採り上げてもいあ、と許されていたそうなのだから驚く。
 そこで敢えて、比較的最近いちど映画化された『スーサイド・スクワッド』を選んだのは、これこそが自身の作風にいちばんマッチしている、という確信があったのだろう。事実、本篇は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』2作以上に弾けた作品となっている。
 この『スーサイド・スクワッド』の最大の特徴は、主役がヒーロー映画におけるヴィラン=悪役であり、事実上、“使い捨て”を意図して編成された部隊だ、ということだろう。ヒーロー映画は、大きな理由がなければタイトルロールたる主役を殺すことは難しいが、本篇は展開に応じて容赦なく殺せる。その容赦のなさが残酷描写ばかりでなく、通常のヒーローものではなかなか演出しにくい意外性を実現しているのだ。
 前述した通り、このフォーマットにはデヴィッド・エアー監督による先行作がある。ガン監督はそちらにも敬意を表し、再登場となるキャラクターには同じ俳優を起用、人物像なども踏襲しているが、だからと言って優遇しているするとは限らない。本篇冒頭の、極めてスタイリッシュでやばい予感プンプンの導入から、戦闘シーンに入っての展開で、その無慈悲さを観客に叩きつけるから、本篇は終始、危険な緊張感を孕んだまま進む。なにが予測ができない物語、というのはそれだけで充分な見応えがある。
 その一方で本篇は残酷なだけでなく、そこにユーモアを欠かさない。たとえ無為に死んでいく場面でも、言動や間の取り方で細かな笑いを誘う。あまりにも人間の命を軽んじている、という意味で不快になるひともあるかも知れないが、人死にが決して重くならない表現は物語のポップな味わいを生み出し、それと同時に、けっきょく人の命など本当の有事には儚いものだ、というシニカルな視線をも作り出す。テンポよく軽快なのに、本篇が奥底から湧き上がるような毒々しさを感じさせるのは、芯の通った組み立てのなかにそういう硬質の思考が見え隠れするからだろう。
 ――と、堅苦しいことを書いては観るが、鑑賞中はほぼほぼそんなことを考えている余裕はない。ジェットコースターの如く訪れる変化と窮地、似たような出自を持つブラッドスポートとピースメーカーが任務の合間に殺人スキルを競い合ったかと思えば、ハーレイ・クインはロマンスに戯れた直後に流血沙汰を起こしたり、と笑いや見せ場にも事欠かない。一種、道化めいた人物造型でしっかりと笑いを誘うポルカドット・マンやキング・シャークにも、その言動の端々に自らの強すぎる個性が引き起こす軋轢や孤独がこぼれてきて、人間性を感じさせる。
 邦題に《“極”悪党》とあるが、ここに登場するキャラクターの多くは、決して自分を悪人と思っていない、という点でも一貫している。ハーレイは元カレ・ジョーカーの影響もあってイかれており、気性は荒く殺人のスキルも驚異的(たぶん殺した人数は劇中最多だと思う)だが、彼女なりのルールも窺わせている。ブラッドスポートは育ち故に“暗殺しか能がなかった”男だし、ピースメーカーは人を殺すことを微塵も厭わないが、その背景には“平和を守る”という信念も確かにある。ポルカドット・マンやキング・シャークは特殊能力故にどうしても廻りに人死にを出してしまうし、劇中の表現を信じる限り、ラットキャッチャーに至ってはほぼ濡れ衣と言っていい状況で囚われている。犯罪者扱いされ、実際に罪を犯している者が大半ではあるが、彼らなりに世界と渡り合っていくための信義がある。これはDCでもマーヴェルでも、丁寧に作られたヒーロー映画では一貫している点だが、本篇はそこも満遍なく押さえ、作品に社会批判的な含みすら持たせている。
 そして、そうして丹念にキャラクター像を組み立てていればこそ、予想は困難でも観ていて不自然に感じる展開がない。ブラッドスポートとピースメーカーの対立も、クライマックスで起きる混戦も、そしてそこで生き残った主要キャラたちが下す決断も筋が通っている。だからこそ凄まじい昂揚感があるし、決着時のカタルシスも極上だ。
 観客側のキャラクターに対する思い入れにも、逸脱できない善良さにもまったく忖度しない描写は、やはり抵抗を覚えるひともあるだろう。しかし、そこを割り切って観ることが出来るなら、これほどまでにワクワクさせられ笑わされ、そしてほんのりとした苦みと極上の爽快感が味わえる映画もなかなかない。少なくとも、2000年代に入ってハリウッドの主流に成長したアメコミ・ヒーローのなかでは最高、と言い切りたい――『ダークナイト』や『ジョーカー』とは違うベクトルで、ヒーローとヴィランというものの曖昧さをエンタテインメントとして描ききった傑作である。絶大な支持を集める『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』すら超えてジェームズ・ガン監督の最高傑作、と呼ばれるのも宜なるかな。


関連作品:
マン・オブ・スティール』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』/『スーサイド・スクワッド』/『ワンダーウーマン』/『ジャスティス・リーグ』/『アクアマン』/『シャザム!』/『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』/『ワンダーウーマン1984
スクービー・ドゥー』/『ドーン・オブ・ザ・デッド』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス
マ・レイニーのブラックボトム』/『ロボコップ(2014)』/『ダイ・ハード/ラスト・デイ』/『シュガー・ラッシュ:オンライン』/『ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』/『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『アントマン』/『ジャンパー』/『ワールド・ウォーZ』/『エリジウム』/『ローン・レンジャー』/『ジョジョ・ラビット
サイコ(1960)』/『SUPER8/スーパーエイト』/『ゴジラvsコング』/『戦場にかける橋』/『地獄の黙示録 ファイナル・カット』/『プラトーン』/『ブラックホーク・ダウン

コメント

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