英題:“Tom Yum Goong 2” / 監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ / 脚本:エカシット・タイラータナ / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ、パンナー・リットグライ、スカンヤー・ウォンサターバット / 製作総指揮:ソムサック・テーチャラタナプラスート / アクション監督:パンナー・リットグライ / 出演:トニー・ジャー、ジージャー・ヤーニン、RZA、ペットターイ・ウォンカムラオ、マレセ・クランプ、ラータ・ポーガム、カズ=パトリック・タン、ティーラーダ・キットシリプラサート / サハモンコンフィルム提供 / 配給&映像ソフト発売元:KLOCKWORX
2013年タイ作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:濱野恵津子
2015年2月14日日本公開
2015年9月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://mach-infinite.com/ ※閉鎖済
ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2015/02/17)
[粗筋]
密輸業者によって象を奪われる事件から5年が過ぎた。
象遣いにして古式ムエタイの継承者カーム(トニー・ジャー)は、いまや唯一遺された家族となった象のコーンと静かに暮らしている。実の父と、もう一人の父であった象を喪った経験から、コーンだけは決して奪われまいと、森の中での暮らしを守ろうとしていた。
だがある日、スチャート(アディナン・ブンタンナポーン)という男が、コーンを大金で買い取る、と提案してきた。無論カームは断ったが、彼が農作業に赴いているあいだに、コーンは攫われてしまった。
すぐさまスチャートの屋敷を強襲したカームだったが、部屋に踏み込んだときには既にスチャートは何者かによって殺害されていた。現場に駆けつけたスチャートのふたりの孫娘ピンピン(ジージャー・ヤーニン)とスースー(ティーラーダ・キットシリプラサート)に襲われ、更にいつの間にか駆けつけてきた警察にも負われ、カームは命からがら屋敷から脱出する。
そんなカームを救ったのは、かつてオーストラリアでも彼を救ったインターポールの刑事マーク(ペットターイ・ウォンカムラオ)だった。折しもタイでは、東西に分裂していた小国カタナの和平交渉が行われる運びとなり、平和を望まない人間によるテロが計画されている、という情報があったために、マークが派遣されてきたのだ。
成り行き上、やむなくカームを手助けしたマークだが、そこへまたしてもピンピンとスースーが登場、更にはオートバイの集団が出没し、カームを襲う。
いったいコーンは誰によって攫われたのか、そしてその目的とは何なのか。カームは自分でも知らぬ間に、大きな陰謀に巻き込まれていた――
ユナイテッド・シネマ豊洲が入っているららぽーと豊洲入口に掲示された『マッハ!無限大』ポスター。
[感想]
いちどヒット作が出ると、関係のない作品でも同じ俳優が主演してればシリーズっぽいタイトルで売り出す、というやり口は、そろそろ考え直した方がいいと思う。
そういう意味では本篇はある意味、好例だろう。タイトルに“マッハ”がついているが、トニー・ジャーの出世作『マッハ!!!!!!!!』と繋がりはない。ややこしいことに、本篇はそのトニー・ジャーのもうひとつの代表作『トム・ヤム・クン!』の続篇という位置づけなのだ。
まあ実のところこれは、タイのスタッフも良くない、とは言える。そもそもこの『マッハ』と『トム・ヤム・クン』は作りが似ていて紛らわしいし、正式に続篇と銘打たれた『マッハ!弐』や『マッハ!参』も、1作目と話の上で繋がりはない。そうして微妙に首尾が一貫していないが故に、売る上で“マッハ!”の名のもとにくくってしまおう、と考えるのは致し方のない面もある。また、前作である『トム・ヤム・クン!』では配給に加わっていたGAGAが本篇では抜けているので、そういうところも同一シリーズの作品として売り込めない事情があるのかも知れない。
他方で、本篇は主人公カームや協力者であるマークが再登場、事件の背景に前作の存在が関わっているのも事実だが、完全に繋がっている訳ではない。そのため、前作を観ていなくとも、単品で楽しむことは可能だ。
むしろ、変に旧作のイメージを持っていない方が、受け入れやすいかも知れない。『トム・ヤム・クン!』は『マッハ』の方向性を敷衍し、CGなし、スタントも本人が行う、というスタンスで、『マッハ』以上に過激なアクションを見せることに特化していたが、本篇はアクションの趣向、多彩さを演出することに照準を合わせ、ノースタント・ノーCGには拘っていない。それ故に、『トム・ヤム・クン!』のような生身ゆえの迫力に常人離れしたスピード、技のインパクトを期待すると、随所に見える作り物っぽさに不満を覚える可能性もある。
個人的に、スタントマンや映像加工を用いるか否か、はあくまでスタンスや見せ方へのこだわりに過ぎず、映画としての面白さがある、魅力が演出出来るのなら、どんな技術を使っても構わないと考えているので、そういう意味で本篇の選択に異を唱える気はない――のだけど、ただ、やるにしても匙加減は考えた方がいいと思う。
なにせ世界的に成功を収めた監督と主演俳優の最新作ということもあってか、やり口がいちいち派手なのはいいのだが、全般にいささかくどい。特にやり過ぎ感が強かったのが、スチャートの屋敷を脱出したあと、いちどマークと合流してから始まる、多数のバイクとの格闘と追跡劇だ。
密集した建物の屋上、という悪条件のうえで、アクロバティックな走行で襲いかかるバイクを驚異的身体能力で躱し、着実に倒していくカームの動きは超人的だが、ちょっとしつこすぎる。この状況で次から次へと新手が現れ、なかなか終わらないので、ひとつひとつのアクションが超人的でも倦んでくる。
どうにか屋上から脱すると、こんどはまた異常な数のバイクが追ってくるのだが、正直、多すぎてギャグにしか見えない。襲撃と考えても追跡と考えても非効率的だし、上空からの構図はインパクト大だが、印象的なのは最初だけで、けっきょくは数台しかカームに対して脅威にならないので、表現としても空回りしている。
このくだりがいちばん顕著なので特に論ったが、本篇は全般に“行きすぎ・やり過ぎ”になりがちなのだ。同じ相手との戦いをやたらと引っ張るし、ひとつ得意な趣向に着眼するとそれをやたらと引っ張ってしまう。ひとつひとつの趣向はユニークで映画的な彩りとして見事なのだが、全般に引っ張りすぎて、せっかくの技や工夫を、闇雲な物量に埋没させているのがもったいない。
ただ、翻って、ほとんどのシーンがおなかいっぱいになるくらい盛り沢山なのも事実だ。バイク相手の格闘をこれでもか、とばかりに繰り出すこともそうだが、強い敵は簡単に引き下がらせず何度も再登場して壮絶な戦闘を繰り返す。執拗で粘り強い敵だからこそ、倒した瞬間のカタルシスも爽快だ。
先ほど触れた大量のバイクによる追跡劇もそうだが、インパクトのある映像を幾つも用意しているのは、映画として間違っていない。トラックの上から片足を釣ってのスイングや、火に包まれる室内で、わざわざ足に火をつけての攻撃など、非現実的、しかもあまり意味のあるとは思えない趣向でも、絵的なインパクトがあれば意欲的に採用している気配がある。リアルなアクション、という意味からすれば後退なのだが、シンプルな肉弾アクションとしてはひとつの極みに達してしまった『トム・ヤム・クン!』から映画として発展させる、という意識は認められて好感が持てる。
何より、CGやワイヤー、スタントマンも用意したとはいえ、トニー・ジャーやジージャー・ヤーニンの圧倒的な身体能力が繰り出す技のパワー、鮮やかさは堪能できる。スピード感と、柔軟な肉体が繰り出す変化に富んだ動き、そして受けたら本当に身体が壊れてしまいそうな強烈な打撃。ハリウッドでも主流となった実践的な格闘術とはまた違う、ムエタイをベースとした躍動感と力強さに満ちた格闘は見応え充分だ。
もっと脚本を整理して、アクションにメリハリをつければ一気に洗練されていきそうな気配があるのだが、まだまだ雑然としているのもひとつの魅力と言えよう。
関連作品:
『トム・ヤム・クン!』
『マッハ!!!!!!!!』/『マッハ!弐』/『マッハ!参』
『チョコレート・ファイター』/『チョコレート・ガール バッド・アス!!』/『マッハ! ニュー・ジェネレーション』
『ドラゴン×マッハ!』/『トリプルX:再起動』/『スリーデイズ』/『ライジング・ドラゴン』
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