TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル外壁にあしらわれた『トップガン マーヴェリック』キーヴィジュアルと、それを見下ろすゴジラヘッド。
原題:“Top Gun : Marverick” / 監督:ジョセフ・コシンスキー / キャラクター創造:ジム・キャッシュ、ジャック・エップス・Jr. / 原案:ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス / 脚本:アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マックァリー / 製作:ジェリー・ブラッカイマー、クリストファー・マックァリー、トム・クルーズ、デヴィッド・エリソン / 製作総指揮:ダナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、トミー・ハーパー、マイク・ステンソン / 撮影監督:クラウディオ・ミランダ / プロダクション・デザイナー:ジェレミー・ヒンデル / 編集:エディ・ハミルトン / 衣装:マーリーン・スチュワート / キャスティング:デニス・チャミアン / 音楽プロデュース:ローン・バルフ / 音楽:ハンス・ジマー、ハロルド・フォルターメイヤー / メインテーマ:レディー・ガガ / 出演:トム・クルーズ、ヴァル・キルマー、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、バシール・シャラファディン、ジョン・ハム、グレン・パウエル、ルイス・プルマン、モニカ・バルバロ、ジェイ・エリス、ダニー・ラミレス、グレッグ・ターザン・デイヴィス、チャールズ・パーネル、エド・ハリス / 配給:東和ピクチャーズ
2022年ブラジル、フランス合作 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / 吹替翻訳:李静華 / 字幕・吹替監修:岩永俊道(元航空自衛隊空将)
2022年5月27日日本公開
公式サイト : https://topgunmovie.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2022/5/27)
[粗筋]
戦闘機は日々進化を遂げている。主流となった第5世代戦闘機にF-18のノウハウはもはや通用せず、更に無人化までが実用段階に入り、いずれパイロットが不要になる時代も近づいている。
しかし、かつてアメリカ海軍の飛行士訓練学校でエリート中のエリート《トップガン》となったジョン・“マーヴェリック”・ミッチェル大佐(トム・クルーズ)はいまも海軍のパイロットとして空を飛んでいる。超音速戦闘機開発のテストパイロットとして、マッハ9を超えるフライトに挑戦しようとしたその日、開発中止の命令が下ることが判明した。メンバーが落胆するなか、命令を下すチェスター・ケイン少将(エド・ハリス)が到着する前に、マーヴェリックはテスト機を飛ばしてしまう。
機体を失いながらも、計画が目標としていたマッハ10を突破したマーヴェリックだが、無断でテスト機を稼働させたため懲罰は免れ得ない。だが、ケイン少将が命じたのは、海軍訓練学校への帰還だった。
この頃、世界に危険をもたらす某国家が、兵器開発のための核融合プラントを操業する準備に入った、という情報があった。危機の到来を未然に防ぐべく、破壊が喫緊の課題となっているが、経験の豊かなパイロットの減少により、任務にあたるのは訓練学校を卒業したばかりの士官たち。彼らはすべて狭き門を突破した訓練学校のエリートのなかのエリート、通称《トップガン》たちだったが、経験しているのはせいぜい地上爆撃だけ、当事国の砲台の標的となり、配備された第5世代戦闘機とのドッグファイトも想定される任務への適性には不安がある。マーヴェリックに課せられたのは、実働部隊に加わることではなく、タイムリミットと考えられる3週間以内に12人の候補生を指導し、6名の編隊と補充に振り分けること。
マーヴェリックには決して容易な任務ではなかった。戦闘機の操縦には自負があるが、型破りな彼の方法論は他人に教えるには向いていない。しかも、候補生のなかには、ブラッドリー・“ルースター”・ブラッドショー大尉(マイルズ・テラー)がいた。彼は、訓練学校に所属していた当時、マーヴェリックとコンビを組んでいたグースの忘れ形見だった。グースの死後、マーヴェリックはずっと彼を気にかけていたが、ある出来事をきっかけに、大きな溝が生じていたのだ――
TOHOシネマズ新宿、IMAXスクリーン入口向かいの壁に掲示された『トップガン マーヴェリック』IMAX用ポスター。
[感想]
1986年に公開されるや、憧れを誘うライフスタイルに、海軍訓練学校という多くの人に馴染みのない世界での青春ドラマ、そこに実物の映像を多数採り入れた航空アクションの迫力で大ヒットした、主演のトム・クルーズのキャリア初期を代表する作品である。当時はサウンドトラックも驚異的な売上を誇り、未だに戦闘機に絡む映像に添えられるほど定番化した。
主演のトム・クルーズ自身、本篇には強い思い入れがあったらしい。続篇を望む声がファンからもスタジオからも噴出する中、不本意な作品になることを恐れ、自ら続篇の製作権を確保したという。
それでもなお、形になるまで36年を費やしたのは、トム自身のこだわりもあったようだが、前作の監督トニー・スコットの思わぬ早逝も一因だった。その後、紆余曲折を経て『オブリビオン』のジョセフ・コシンスキー監督が就任して本格的な撮影に入った、という情報を耳にしても、作品のカラーを決定づけた演出家を失っていることの影響を危惧したひとは少なくないだろう。あの洒脱でテンポのいい映像、迫力の航空アクションはふたたび観られるのか?
結論から言えば、杞憂だった。
トム・クルーズがわざわざ、他人によって続篇を作られないよう押さえていただけのことはある。本篇には前作の魅力的な要素が明瞭なまでに踏襲され、そこに36年という時間経過の意味を見事に組み込んでいる。
訓練学校を舞台にした前作には、青春ドラマとしての要素が色濃かった。主人公であるマーヴェリックは36年の時を経て、キャリアも人生経験も豊富に積み上げたものの、依然として稚気や無謀さはある。とはいえ、彼ひとりだけでは成立しない青春ドラマとしての要素を、12名の新たなる《トップガン》を登場させたことで、この続篇に受け継いでいる。冒頭から内在する人間関係の摩擦が、シンプルだからこそ伝わりやすい、発展途上の若者たちのドラマを生み出す。任務に参加出来るのは一部だけ、残りは補充として待機する、という設定による競争が、更にこのドラマに奥行きを加える。前作において印象的だったビーチでのひと幕を、あからさまなくらいに継承したことも、懐かしさと共に青春ドラマならではの爽やかさも付与している。
そして、前作に力強さをもたらすもうひとつの要素、実物の戦闘機も用いた航空アクションの醍醐味もふんだんに味わえる。前作でも充分すぎるほどクオリティは高かったが、今回は戦闘機開発の進展や変化に加え、主人公マーヴェリックの豊かな経験を反映して、よりスピーディに、より過激な描写が増えた。いったいどこまでが混じり気のない本物なのか、どの程度CGによって補われているのか、詳細には確認していないが、真偽などいっさい考えさせず、観る者を惹きつけるリアリティと迫力が本篇にはある。
前作の公開時と比べ、より多彩になった上映方式にも、本篇はかなり細やかに対応しているようだ。私はレーザー方式のIMAXを選択したが、音響表現とコントラストに優れたDolby CINEMA、振動や風圧、戦闘による衝撃を疑似体験できる4DXやMX4D、左右にも映像を加えて更なる臨場感に浸れるSCreen Xにも対応している。自分がどの表現にこだわって鑑賞したいのか、を考慮して、こうしたプレミアムな体験を選択する楽しさも本篇にはある。あくまで、基本料金で楽しめるフォーマルな形式で充分、というひとでも、本篇には映画館で観てこそ、の価値を感じるはずだ。
こうした、前作の魅力を引き継ぎ拡張した部分はもちろん、36年もの時間を経過しているからこそのマーヴェリックとその身辺の変化もしっかりと物語に織り込んでいるのが味わい深い。前作において特に強い影響を及ぼした人物グースの息子ルースターを筆頭に、前作にも登場したキャラクターの再登場に、会話のなかで仄めかされただけの人物まで登場させ、それぞれに時の流れを盛り込んで、前作を知っているひとにも楽しみを加えている。とはいえ、決して一見さんお断りの作りにはなっていない。前作について接しないまま鑑賞したとしても、会話や表情の端々に覗く彼らの歴史、年輪は感じられる。
過去の物語、築きあげた魅力を引き継ぎ、当時の良さも採り入れながら現代の楽しみ方にも適応させた。第1作に魅せられた人には待望の、そして第1作を知らないひとには最善のかたちでその魅力を実感できる、完璧すぎる続篇である。トニー・スコット監督の実兄であるリドリー・スコット監督も、本篇に弟が満足するだろう、と太鼓判を捺していたというが、納得の仕上がりだ。
関連作品:
『トップガン』
『トロン:レガシー』/『オブリビオン』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『アメリカン・ハッスル』/『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』/『Virginia/ヴァージニア』/『セッション』/『アリータ:バトル・エンジェル』/『クライム・ゲーム(2021)』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『野性の呼び声(2020)』/『アパルーサの決闘』
『ライトスタッフ』/『ファイヤーフォックス』/『エネミー・ライン』/『ステルス』/『アビエイター』/『レッド・バロン』/『愛と青春の旅だち』
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