びっくり館の殺人

びっくり館の殺人 びっくり館の殺人

綾辻行人

判型:B6判上製函入

レーベル:MYSTERY LAND

版元:講談社

発行:2006年3月17日

isbn:4062705796

本体価格:2000円

商品ページ:[bk1amazon]

新本格”ムーブメントの先駆けとなった綾辻行人の、デビュー以来継続する“館”シリーズの、約1年半ぶりとなる第八作。

 1994年のクリスマスの夜、兵庫県の屋敷町にある古屋敷邸――通称“びっくり館”で、当主・古屋敷龍平が他殺死体となって発見された。第一発見者のひとりであったぼく、永沢三知也は古本屋で偶然巡り逢った本からその事件の記憶を蘇らせる。未解決のままに終わろうとしているあの事件は、いったい何だったのか? そしてぼくは、十年振りに訪れるあの地で、驚くべきものを目にすることとなる……

 語り手となるのは当時小学六年生の少年、無数に振り仮名が振られ比較的平易な言葉で綴られているが、紛う方なき“館”シリーズである。話の組み立ても動機の構成も。そういう意味では安心して読んでいられる。

 但し、正直なところ、気になる点は色々とある。着実な雰囲気作りは相変わらず巧みなのだが、物語全体の尺からすると雰囲気作りに筆を費やしすぎて、肝心の事件や謎の書き込みが乏しく感じられがちだった。十年後の叙述によって入れ子細工の体を為しているが、結果的にそのことが物語の構造を歪にしている。終盤、解決がすべて一人称人物の地の文によって説明されているのが不格好な印象を齎してしまっていることにも同様の問題を見た。

 何より、肝心のトリックの表現がかなりアンフェアすれすれであるように思った。読み返すと確かにある点で慎重を期しているのだが、この際慎重さもさることながら、読者に対してもっと明確なヒントを提示するべきだったように思う。特に、目眩ましとなる主人公の目撃談のくだりは、更に配慮を要するべきではなかったか。

 しかし、全体を貫くムードや方向性は見事なまでに綾辻行人らしさが横溢しており、その点で不足はない。子供向けを意識してか(というよりは尺の制約もあったのだろうが)事件の構造は大人の目には解りやすく意外性は乏しいが、しかしこの“相変わらず”を、子供が読むことも念頭にした『MYSTERY LAND』という叢書でやってしまった意欲は評価したい。大人の目には分かり易くとも、この決着は間違いなく子供達のトラウマになり、光に照らされた部分だけでは語りきれない人の世の厄介さを伝えるはずだ。

 そしてやや不格好ではあるが、結末に主人公が見ることとなる光景の迫力はやはり著者ならではの味わいとおぞましさに満ちあふれている。本格ミステリ以上に、『囁き』シリーズなどに見られるダリオ・アルジェントのような様式美に富んだスリラーへの敬意が色濃い著者ならではのクライマックスと感じられる。

 決して完成度は高くないが、著者一流の矜持が存分に味わえる一冊である。

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