『アイアンマン』

『アイアンマン』

原題:“Iron Man” / 監督:ジョン・ファヴロー / 脚本:マーク・ファーガス、ホーク・オストビー、アート・マーカム、マット・ホロウェイ / 製作:アヴィ・アラドケヴィン・フェイグ / 製作総指揮:ジョン・ファヴロー、ルイス・デスポジート、ピーター・ビリングスリー、アリ・アラド、スタン・リー、デヴィッド・メイゼル / 撮影監督:マシュー・リバティーク,ASC / 美術:J・マイケル・リーヴァ / 編集:ダン・レーベンタール,A.C.E. / 視覚効果:ジョン・ネルソン / 音楽:ラミン・ジャワディ / 音楽スーパーヴァイザー:デイヴ・ジョーダン / 出演:ロバート・ダウニーJr.、テレンス・ハワードジェフ・ブリッジスグウィネス・パルトロウ、ショーン・トーブ、ファラン・タヒール、レスリー・ビブ / 配給:Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc.

2008年アメリカ作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:松崎広

2008年09月27日日本公開

公式サイト : http://ironman-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/09/27)



[粗筋]

 アメリカ屈指の兵器製造会社スターク・インダストリーズの社長トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の人生は、順風満帆のはずだった、その日までは。

 トニーは新開発の兵器“ジェリコ”のデモンストレーションのために自らアフガニスタンを訪問、現地の米軍から芳しい評価を得るが、帰途、米軍の兵器開発担当責任者でトニーにとって友人でもあるジェームズ・“ローディ”・ローズ(テレンス・ハワード)の車ではなく、若い兵士たちの車を選んだところ、現地のゲリラ集団に襲撃を受けた。護衛は全滅し、直撃はしなかったものの破片を受けて、心臓付近に深刻なダメージを負ったトニーは、そのままゲリラ集団に拉致されてしまう。

 トニーを監禁したゲリラ集団は、彼に“ジェリコ”を自分たちのために販売するか、その場で試作品を製造するよう命令する。期限は一週間――恐らくその一週間が過ぎれば命はない、と悟りながらも、協力せざるを得なかった。

 彼にとって幸運だったのは、別のかたちで拉致監禁されていたインセン(ショーン・トーブ)という人物に工学的な才能があり、語学にも堪能であったことだった。トニーの心臓を保護するべくインセンが植え付けた装置を、まずトニーはかねてから研究していた高出力のエネルギー機関“アーク・リアクター”の小型版を手作りして換装すると、“ジェリコ”を製造しているふうを装って、まったく別のものを開発する。それは、ギリギリで調達したガラクタを寄せ集め、“アーク・リアクター”の出力を応用して駆動するように設計した、パワード・スーツであった。

 運命の日、恩人であるインセンという犠牲を払いながらもトニーはゲリラのアジトを破壊したうえ、脱出に成功する。3ヶ月を経て祖国に帰還したトニーは、女性執事の“ペッパー”・ポッツ(グウィネス・パルトロウ)に命じて記者会見を催させ、その場でいきなり爆弾発言を投じた。これ以降、スターク・インダストリーズは兵器産業から一切手を引く。新しい事業内容については、未定。

 父の代からの共同経営者であるオバディア・ステイン(ジェフ・ブリッジス)に、しばらく表舞台に出ないよう請われたのをいいことに、トニーは自宅の開発室に籠もるようになった。彼の頭にあったのは、自らを護衛していた若い兵士たちの命を奪った兵器に刻まれていた、“スターク・インダストリーズ”の文字。自らの兵器がもたらした悲劇には、自らが責任を負わなければならない。脱出の際、最後に大破したパワード・スーツを雛形に、トニーは改良を重ねていく……

[感想]

 近年、すっかりアメコミは最も確実に興収を稼げる題材としてハリウッドに持て囃されるようになった。今年だけでも、『インクレディブル・ハルク』、『ダークナイト』、『ウォンテッド』に、オリジナルながらアメコミの影響が色濃い『ハンコック』と立て続けに公開されていることからも解る通り、今後も企画が目白押しとなっているようだ。

 だがこのうち、定番の逆をつくことで構築された『ハンコック』を除いて、すべての作品に共通する点として、本質的に成長物語であり、ヒーロー物でありながら青春映画のヴァリエーションの意味合いが強い、ということが挙げられる。望まずしてもたらされた力との戦いを強いられながら恋人への想いを募らせる『インクレディブル・ハルク』、ヒーローというもののあり方に苦しめられるバットマンの『ダークナイト』、やはり開花した才能とそれを巡る戦いのなかで自分の道を見出していく『ウォンテッド』、という具合に、主人公を演じている人物の年齢に拘わらず、そこには青春ものの要素がちりばめられている。現在のアメコミ映画隆盛を決定づけた『スパイダーマン』シリーズからしてその典型であることは言うまでもあるまい。しかし本篇は、ヒーローとなる主人公がそもそも“大人”であり、自らの生活基盤を完成させている。この時点でだいぶ毛色が異なっている。

 そしてもうひとつ重要な点は、主人公であるトニー・スタークが、まあある程度の身体的トレーニングは行っているであろう肉体を備えていても、基本的に“普通の人間”であることだ。頭脳こそ常人離れしているが、少なくとも肉体的、運動能力的に一般人と違っているわけではない。そういう人物が、パワード・スーツを身に着けて危険や巨悪に立ち向かっていく、いわば誰でも行き着くことの出来そうな立ち位置にあることが、本篇の最も特徴的な部分だろう。バットマンも生身で特殊能力なし、機械的な補助によって超人的な活躍を実現している、という点では共通しているものの、あちらは日本の忍者をモチーフにした特訓を受けて、生身でもかなり強い人物であることはやはり大きな差違と捉えるべきだろう。

 何より、ストイックなバットマンと較べて、本篇の主人公トニー・スタークは実に生々しい。巨万の富を得た天才開発者、という憧れの部分に、女好きで享楽主義者、自分の開発した兵器が世界に悪い影響を齎していることを知り改心しながらも、悟りきっておらず相変わらず根っこは楽天的。『ダークナイト』で自己犠牲の頂点にまで達してしまったようなバットマンよりも、遥かに親近感が持てるのである。

 本篇はそういう、極めて一般人に近いキャラクターがヒーローとして完成されていくさまを描くことに重点を置いている。この手法自体は有り体ながら、たいていが困難に遭遇しつつその道を選択していくのに対して、トニー・スタークという男はいちど見定めたあとに迷いがなく、モチベーションとなるアフガニスタンでの拘束を脱してからは、すぐさまパワード・スーツの製作に入っている。本篇の主題、というか面白さの焦点はこのパワード・スーツ作りの試行錯誤そのものにあるとさえ言えるほどだ。物語に必要な展開も、この試行錯誤から派生しているだけに、あながち間違った見方ではないのかも知れない。

 しかしその余波で、全体と分量を比較すると、この手の作品にしてはアクション・シーンが少なく、全般に工夫が乏しいのが残念だ。ニューヨークではなくロサンゼルスを舞台にすることで、飛行中の背後に拡がる風景をアメコミではあまり馴染みのないものにした着眼はいいし、アイアンマンの飛行シーンは素晴らしい完成度ではあるものの、プロットのリアリティ志向故に突飛さ、新奇さには欠く映像が主体となっているのはやはりもったいない。ヒーロー物に必要な最後の敵が登場する流れも自然に確立しているのは見事ながら、それゆえに行動半径が狭められて、クライマックスも拘わらず迫力がやや欠けていた点も指摘せねばなるまい。同様に展開にリアリティを求め、最後に狭い範囲での戦いを余儀なくされながら、不自然でもサービスを盛り込もうとした『インクレディブル・ハルク』とその点では対照的だ。

 とは言い条、リアリティを押さえつつも最後までユーモアを損なわず、他のアメコミものに強い青臭さや辛気臭さよりも洒脱さを色濃くした話作りで、他のヒーロー物とは見事に一線を画しており、存在感もインパクトも強い。如何せん、日本人にとっては軍事産業というものに生々しさが感じられず、その分だけやや受け入れられにくい危険もあるのだが、従来のアメコミ映画を楽しんでいた人にも、逆に食い足りないものを感じていた人にもお薦めできる、ひと味違った好編である。本国アメリカでは大ヒットとなり、既に2010年の第2弾公開が決定しているというが、再会の日を今から楽しみにしておきたい。

 設定が設定だけに、はじめから完成された、優秀な俳優が求められた作品であったが、充実した配役によってキャラクターそれぞれの奥行きも説得力も備わっており、その意味でも見応えがある。

 しかし、本篇で何よりも私の印象に残ったキャラクターは――主人公トニー・スタークの工房で、彼の作業を手伝っている、自律式のロボット・アームであった。トニーの口頭の、若干曖昧な命令にも応える優秀な能力を備えながらも、微妙な位置の狂いや判断ミスを散々罵られて戸惑ったり悄気たように項垂れたりして、それでいて最後にはちゃんと見せ場もある、という具合で、腕だけとは思えない存在感を備えている。むしろ個人的には、これこそ正しい“萌えキャラ”だ、とさえ思った。

 これからご覧になる方は、是非“彼”の挙措にも注目していただきたい。

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