『アイアンマン3(3D・字幕)』

TOHOシネマズ日劇、外壁の看板。 TOHOシネマズ日劇3、ホール内に展示されたアイアンマン・スーツ。

原題:“Iron Man 3” / 監督:シェーン・ブラック / 脚本:ドリュー・ピアース、シェーン・ブラック / 製作:ケヴィン・フェイグ / 製作総指揮:ジョン・ファヴロー、ルイス・デスポジート、チャールズ・ニューワース、ヴィクトリア・アロンソ、スティーヴン・ブルサード、アラン・ファイン、スタン・リー、ダン・ミンツ / 撮影監督:ジョン・トール,ASC / プロダクション・デザイナー:ビル・プルゼスキー / 視覚効果監修:クリストファー・タウンゼント / 編集:ジェフリー・フォード.A.C.E.、ピーター・S・エリオット / 衣装:ルイーズ・フログリー / キャスティング:サラ・ハリー・フィン,C.S.A. / 音楽:ブライアン・タイラー / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:ロバート・ダウニーJr.、グウィネス・パルトロウドン・チードルガイ・ピアースレベッカ・ホール、ステファニー・ショスタク、ジェームズ・バッジ・デールジョン・ファヴロー、タイ・シンプキンズ、ベン・キングスレー / 声の出演:ポール・ベタニー / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Walt Disney Studios Japan

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:林完治

2013年4月26日日本公開

公式サイト : http://www.ironman3.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2013/04/26)



[粗筋]

 異星からの襲来者との壮絶な戦いから1年が過ぎた。アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)は近ごろ、眠れずにいる。戦いの中で味わった“恐怖”が彼をパニック障害に追いやっていた。眠れるかと思うと、あの悪夢のようなひとコマが脳裏に蘇る。妻であり、いまはトニーに代わってスターク社の経営に携わっているペッパー(グウィネス・パルトロウ)は彼の健康を心配するが、トニーは何でもないふりを装っていた。

 そんななか、スターク社に珍しい訪問者が現れる。かつてトニーをMIAという組織に勧誘した科学者アルドリッチ・キリアン(ガイ・ピアース)である。かつてトニーの運転手で、いまはスターク社の警備責任者を務めるハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)はすぐに彼の顔を思い出し、同行する男の振る舞いを不審に思って、密かに尾行する。だが、その過程でハッピーは爆破テロに巻き込まれ、瀕死の重傷を負ってしまった。

 間もなく、マンダリン(ベン・キングスレー)という男が犯行声明を出した。かねてから世界各地で爆破物の正体が特定できない巧妙なテロを仕掛けていたというこの男は、声明のなかで現在アメリカを標的にしている、と宣言する。そして同時に、爆発に巻き込まれたハッピーのもともとの雇い主であるトニーに対しても、挑発的な言動をした。

 トニーは臆することなく、受けて立つと明言するばかりか、自らの私邸の住所まで公表してしまう。やがて、スターク邸にマヤ・ハンセン(レベッカ・ホール)が現れた。植物学者であり、かつてトニーとひと晩のアヴァンチュールを楽しんだ仲だが、それ以来ご無沙汰になっている。どうやらトニーを心配してきたらしい彼女の訪れと、まるでタイミングを合わせたのかのように、それはやって来た。武装ヘリによる砲撃――断崖に建つスターク邸は崩落、トニーはどうにかペッパーとマヤを救うものの、まだ開発途上の新型スーツでは戦いきれず、いちどは海に没し、なかば意識を失いながら辛うじて脱出する。

 気づいたとき、トニーは我が家から数千キロ離れた土地にいた。爆撃のまえ、ハッピーの倒れていた現場をシミュレーションして発見した手懸かりが指し示していた場所に赴くよう、無意識のうちに命じていたらしい。バッテリー切れでスーツを司る人工知能ジャーヴィス(ポール・ベタニー)も沈黙するなか、トニーは調査に臨む……

[感想]

 アメコミ原作の映画は、基本“悩めるヒーロー”に焦点を当てている感がある。マイノリティの苦悩を題材にした『X−MEN』、古典的な青春映画のフォーマットのうえで描かれた『スパイダーマン』、そしてヒーロー論の極北を行くかのような『ダークナイト』トリロジー、いずれも憧れのヒーローの“闇”を織りこんで、大人の鑑賞にも耐えうる、というより大人だからこそ楽しめる作品に仕立ててきた。

 そんななかにあって、この『アイアンマン』は少し毛色が違っていた。主人公がプレイボーイで、やや世知辛いシチュエーションを組み込みながらもタッチは軽快で洒脱。映像的に派手なアクションで彩りながら、中心人物が大人であるが故の成熟したムードがあり、どこか迷いがあったり、一種のモラトリアムのなかで繰り広げられている感のあった他の作品とは異なる魅力を備えていた。こと、ロバート・ダウニーJr.の巧みな弁舌で強調されるトニー・スタークというキャラクターの魅力は、同じマーヴェル・コミック原作のヒーローたちが一堂に会した大作『アベンジャーズ』において、当初は加わることを拒絶していたのに、気づけばスポークスマンのような立ち位置になっていた点でも、その特異さが解るはずだ。

 だが、『アベンジャーズ』を挟んでのシリーズ第3作である本篇は、従来と違った雰囲気がある。トニーの振る舞いが序盤からやや重い。『アベンジャーズ』の事件で遭遇した敵の強大さ、そしてそのなかで経験した、これまでにない恐怖のためにパニック障害となり、睡眠不足に陥っている。過去の回想から始まり、現在に戻るとやけに熱心にスーツの開発に勤しむ姿が描かれるが、腕にセンサーを埋め込み、遠隔操作で呼び出し自動的に装着できるようにする、というのはちょっと、というよりかなり趣味的で実用性に乏しい機能だ――ご覧になれば解るように、最終的にそれはちゃんと活きてくるのだが、見覚えのないスーツが無数にある点からも、他にすることがなくひたすら開発に没頭するしかないトニーの“狂気”が確かに感じられる。その後も、元部下で親友でもあるハッピーの災難や、ホームグラウンドから遠く離れた場所での孤軍奮闘ぶりなど、いささか深刻な状況が相次いで描かれるので、さしもの『アイアンマン』シリーズも、マーヴェル・ユニヴァースという重みに膝を屈したかのようだ。

 が、こうして要素を抽出して採り上げてみた印象ほどに、本篇のムードは暗くない。多分に体裁を繕っているだけに過ぎないが、トニーの振る舞いにそうした影が決して色濃くないこともそうだが、全篇を通してテンポが良く、ユーモアが途切れないことも奏功している。矢継ぎ早に危機が訪れるが、そのためにトニー自身が悩み続けるよりまず動く、という心意気になっているので、序盤の暗さがいい意味で作品を支配しすぎない。相変わらず弁の立つトニーもそうだが、最初の事件を前にしたハッピーとのやり取りや、トニーと人工知能ジャーヴィスのまるで古女房めいた会話、それに舞台を移ったあと、しばらく彼をサポートすることになる少年ハーレイ(タイ・シンプキンズ)との会話も楽しい。特にハーレイは不幸な境遇にあるが、トニーがそれには無頓着なふうを装って、随所で気遣っているのが快い。途中、パニック障害で動揺しかけたトニーを、少年の言葉が落ち着かせる過程が、優しくも説得力があり、緊迫したさなかにも関わらず観ていて穏やかな気分になる。

 そして、過程の鬱憤がぶっ飛ぶほどに、アクション描写が逸品だ。スーツの特性を活かし、縦横無尽に飛びまわり、新たに開発した遠隔操作技術でよりトリッキーなアクションも盛り込んでいる。特に後者は、スーツが飛んでくるタイミングを利用して、アクションシーンに緊迫感を与えるばかりでなく、ユーモアも追加しているのが絶妙だ。一連の趣向を徹底したど派手なクライマックス・シーンの迫力、爽快感は、大スクリーンで映画を鑑賞する醍醐味に満ちあふれている。

 実はこの作品、敵の設定という点でも特異な趣向を用いている。詳述はしないが、その発想を掘り下げていくと、『ダークナイト』にも相通じるものがある。だが本篇はそれさえも、決して本質を歪めることなく、柔らかく、エンタテインメントの文脈に溶け込むように描いている。最終的にほんのりと苦みを残すが、それもまた優れたワインの苦みのようで、程良い酩酊を感じさせるのだ。

 前々から本篇がシリーズ最終作と噂され、宣伝でも大きく触れられているので、幾分シリアスな内容になっているのでは、と予測したひともいるだろう。確かに、全般にそういう趣向が採り入れられているのは事実だが、しかしそのうえで基本的なテイストを変えていない。恐らく本篇で一区切りとなるのは嘘ではないと思われるが、軽快さを最後まで損なわない締め括りになっており、そういう意味でもこのシリーズらしい。

 2015年に予定される『アベンジャーズ2』を想定しているのだろう、エンドロールではトニー・スタークの再登場を約束しているし、単独でも素知らぬ顔で帰ってきても不思議ではない。だが、そんなのはどちらでも構わない。シリーズのひとつのピリオドとして、最高の仕上がりを示した傑作である。個人的には、これまでに発表されたマーヴェル・コミック関連作品のなかでも最高の1本だと思う。

 ちなみに本篇は、1作目・2作目と好評を博したジョン・ファヴローが監督から退いている。どんな事情があったのかは不明だが、決して不本意な降板でなかったことは、製作総指揮に名前を連ねているのみならず、第1作から通して兼任してきた、トニー・スタークの運転手兼ボディガード、ハッピー・ホーガン役を本篇でも続けていることから察せられる。

 いやむしろ、俳優としてはこれまで以上に厚遇されている、という気さえする。前作まではちょっとしたスパイス程度の存在だったが、今回はトニーの長年の友人として、結果的に彼の原動力になる重要な立ち位置になっている。或いは、今回はこの役柄に集中するために監督を退いたのでは……というのはさすがにないだろうが、彼のこの“活躍”ぶりからも、前作までのファンが心配する必要はない、ということはご理解いただけるのではなかろうか。

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