フランス映画祭2009・ホラーナイト……に2本足して、合計5本の狂気のハシゴ。

 30時間どころではありませんでしたが、以下その後の出来事。

 現在、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて、毎年恒例となっているフランス映画祭が開催されています。折しもフランスではアレクサンドル・アジャの登場を契機にホラーの良品が立て続けに発表されており、ちょうど開催期間に13日の金曜日が挟まったこともあって、フランス映画祭では珍しいホラー限定のオールナイト上映がスケジュールに組み込まれたようです。上映作品すべてちょっと耳目を惹かれるものでしたし、注目作品の監督・主演女優のトークイベントに日本のホラー監督3名も特別に参加する、と知って、久々に哲弥での映画鑑賞に踏み切ったのです。

 ……で、どうせ夜遅く出かけるなら、ついでに心残りになりそうな作品も観てきてしまえ、と早めに家を出ました。当初は13時30分に1本目を観て、ホラーナイト上映作品含めて7本観る計画も立ててましたが、少し冷静になって18時頃に出発。

 まずは渋谷に降りたって、この地区で鑑賞する2本のチケットを押さえてから、ひとまず腹ごしらえ。渋谷で映画を観たときに良く立ち寄る蕎麦屋に赴いたのですが、金曜日の夜だけあってかなりの混雑ぶり。一人客というのも幸いしてわりと早く座らせてもらえましたけれど、レジの真横だったのでちと人の流れが鬱陶しかった。

 食後訪れたのは、文化村の目の前にあるヒューマントラストシネマ文化村通り。以前はシネアミューズという名称だったのが、命名権の売却により昨年暮れからこの名前になったのです。……渋谷ではけっこう古参の劇場なのに、わたし、旧名称のときにはけっきょく1回しか来ることが出来なかったな。

 ともあれ怒濤の5本立て、最初の作品は日本産の格闘ゲームの草分け的作品を、人気キャラクター・春麗を主人公として実写映画化したストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』(GAGA Communications・配給)。監督が『ロミオ・マスト・ダイ』などを手懸けたアンジェイ・バートコウィアクなので、さすがにアクションシーンの表現はいいんですが、ちと話のほうがグズグズ。もうちょっとキャラクターに原作ゲームを彷彿とさせる衣裳を着せるとかのサービスも欲しかったところですが、まあアクションが力強かったので私は納得。しかし個人的には、作品終了後におまけとして上映された、さくらを主人公とした短篇のほうをもっと観たかった気がする。

 エンドロールの途中で上着に袖を通し、終了とともに劇場を飛び出して、すぐさま次の作品が上映されるシネクイントへ。何せあいだが10分しかなく、どこかで手間取ると冒頭を見落としかねなかったのです。

 2本目は、フランス映画祭だから……というわけではなく、単純にスケジュールに当て嵌まる作品のなかから気になるものをチョイスした結果、偶然にもフランス映画が引っ掛かってきました。“記憶のデジタル化”を実現したデバイスを軸にして描かれる近未来SFサスペンス・アクション、インストーラー』(KLOCKWORX・配給)。配給元のホームページにある予告編の印象から、『ザ・セル』のようなSFタッチのサイコ・サスペンスを想像していたら、意外にも見せ場の中心はアクションでした。しかし、スタイリッシュな映像に、基本的なアイディアをうまく練り活かしたプロット、苦くも快い余韻を残す結末と、作りは安っぽいのですがかなり質の高い娯楽作品に仕上がってます。どうもDVD上映らしく画質が粗いのが残念ですが、これはお薦め。

 次はいよいよメイン・イベントの開催される六本木へ。渋谷から六本木は距離的にそんな離れていないんですが、電車だと乗り継ぎがあるのでちと面倒……普段なら絶対にハシゴする位置関係ではありませんが、まあ今日はやむなし。移動中、あまりの強風に折りたたみ傘が駄目になったのが哀しい。

 24時より、まずはトーク・イベントです。ホラーナイトの目玉作品『マーターズ』の監督パスカル・ロジエと主演女優のマルジャーナ・アラウィ、それに日本からホラー映画を多く撮っている井口昇清水崇、山口雄大という3人の監督も参加するという贅沢な布陣……だが山口雄大はどっちかというとコメディ寄りのような。それについては当人も認めていたのでいーんですが。司会はキングレコードの山口幸彦プロデューサー。

 ロジエ監督は、映画の内容とは正反対ににこやかでフレンドリーな印象、質問をされるとあとで通訳の方が大変じゃないかと思うくらいたっぷりと話してくれる。主演女優のマルジャーナ・アラウィは、これもあとで作中の薄汚れた装いとは正反対の美貌。前から2列目なんてのを確保していたもので、じっくりと堪能できました。

 しかし残念なのはこの『マーターズ』という映画、予備知識のないほうが衝撃が強いうえ、途中にちょっとしたヒネリやサプライズがあるため、上映前では多く語ることが出来ない。45分というトークショーの尺を、その状態で支えるために日本人監督3名がついでに召集されたとのことでしたが、その3人も非常にもどかしそうでした。しかしホラー映画を作るのが色んな意味で大変なのはフランスも日本も同様のようで、気づけば監督4人はすっかり意気投合している様子だったのが印象的。

 たっぷりトークを披露していただいたあと、いよいよ本番。ホラーナイトの1本目、私にとってはこの日3本目となる作品は、フランスにおいて一般映画では前代未聞のR-18指定を受けかかって物議を醸したという、衝撃のスプラッタ・ホラーマーターズ』(KING RECORDS・配給)。これ、私にとっては大当たりでした。事前に「気絶する観客もいた」とかさんざっぱら脅かされたわりには、暴力描写自体はそれほどショックでもなかったのですが、まったく先読みできないストーリーに、根本を支えるアイディアの素晴らしさ、そして結末がとにかく強烈。暴力がではなく、趣向としてやり過ぎだったりいまいち納得のいかない部分もあるにはあるのですが、しかしこのパワーと我が身に響くほどの痛々しさ、観終わったあとの異様な余韻は出色です。あまりの残酷な表現の数々に嫌悪感を示す人も多いでしょうから、お薦めするときは慎重を要しますが、でも私はこれは傑作だと思う。このあとの2作品はまだ日本での配給が決まっていませんが、本篇はDVDスルーであってもリリースされることは確実のようなので、気になる方は覚悟のうえご覧ください。これは凄いぞ。

 休憩のあと、続くホラーナイト2本目、私にとって4本目は、『パリ、恋人たちの2日間』のジュリー・デルピー監督・主演最新作、『吸血鬼ドラキュラ』の原型の一つとも言われている実在の人物エリザベート・バートリを描いた歴史ドラマ『伯爵夫人』(日本配給未定)。ホラーというより、猟奇的な要素の色濃い歴史ロマンスといった趣でしたが、こちらもなかなか。エリザベート・バートリが若返りのために処女の血を利用するようになった経緯を、そもそもは若い伯爵との恋愛がきっかけだった、という仮定のもとに綴っているのですが、かなり説得力があります。『パリ〜』のような会話の巧さは抑えめながら、雰囲気のあるドラマに仕上がっている。残酷なシーンを直接描いていないので、その手のシーンが苦手でも大丈夫でしょう。

 そしてこの日の締め括りは、ゾンビ映画である『ミュータント』(日本配給未定)。世界中に人間が変貌する奇病が蔓延し、安全な場所を目指して逃亡中に襲われ事件に巻き込まれ、といったゾンビ映画のお約束を踏襲している作品ですが、本篇はたったひとつ、「感染から発症まで異常に時間がかかる」というヒネリを加えたことで、かなり違った雰囲気の作品に仕立てています。クライマックスの展開に一部雑なところがありますが、人間の変化を丁寧に描写し、そこにきちんとドラマを付与しているので、かなり見応えのある出来になってます。さすがに5本立てでは最後のほうで寝てしまうかも、という恐れを抱いていたのですが、そんな暇もありませんでした。

 ――といった具合に、存分に堪能し尽くしたのですが、アクション系2本のあと、途中でドラマ主体のものが挟まったとはいえホラー3本という組み合わせはさすがにしんどかった。既にカレンダー上は15日に入ってますが、未だへろへろです……。

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