スコセッシ版『ゴッドファーザー』あるいは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、もしくは『仁義なき戦い』。

 月水金と午後からの用事がある都合上、映画はなるべく火木土に観に行くようにしてます。今日も何かしら観ようと思ってた、のですが――出かけるのが面倒くさくなってしまった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う営業縮小や規模の縮小なんてのが重なっていて、映画業界でも先行販売の中止や席間隔を空けての販売、公開延期なんてのも出て来ている。私自身は、警戒すべきは免疫力や体力の乏しいひとへの感染であって、健康なひとは消毒などに配慮しつつ出来る範囲で普通に生活した方がいい、と考えているので、映画館詣では続ける気ではいるのですが、こうも世間がピリピリしているとやっぱり多少は億劫になってくる。現実的に、公開延期が増えているいま、あんまし慌てて拾っていっても、最終的に観るものがなくなりそうですし。
 で、出かけるのはけっきょく取りやめましたが、それでも映画は観たい。結果、自宅にて朝からパソコンを起動、前々から観たかったNETFLIX作品を鑑賞することに。
 選んだのは、先だってのアカデミー賞でも最多ノミネートとなった作品、マーティン・スコセッシ監督が1950年代から70年代頃までのアメリカ裏社会を牛耳ったマフィアの姿を、ひとりの幹部にして暗殺者だった男の証言をベースに描き出した大作アイリッシュマン』(Netflix配給)。昨年、『アースクエイク・バード』なんかと共に短期間、劇場でかかってたのは知ってたんですが、3時間半という尺が私のスケジュールにうまくハマらなくて見送っていたのです。どーせ家にいるなら、なかなか通して観るのが難しい大作にしよう、とこれを選んだ次第。
 ざっくり言ってしまえば見出しのとおりの作品。『ゴッドファーザー』や『ワンス~』に『仁義なき戦い』を並べたのは、戦後に組織に加わった人物の実話がベースになっている、というあたりが大きい。気骨で組織に加わった男が気づけば暗殺者の役割を担い、のし上がっていく一方で、複雑化する力関係のなかでかつての仲間や友人さえも手にかけていく。新たな登場人物が顔を見せたときのテロップでその死にざまを突きつけてしまう残酷なユーモアを交えながらも、出来事を淡々と織り込んでいくので、語られる事実があまり暴力的な印象を受けません――そしてそれがちょっと恐ろしい。従来のギャングものの傑作と大きく異なるのはその終幕です。暴力の世界で生き延びた男の結末が、決して幸福とは限らない。救いを求めながらもまだ、気を許すことの出来ない世界に身を置いていた習慣の残る主人公の姿が悲哀を醸している。どーしても先行作の影響は感じてしまいますが、それらを意識しつつもきちんと新たな光を当てた、間違いなくギャング映画の名作。アカデミー賞で無冠に終わったのは――まあたぶん巡り合わせだと思う。
 ちなみに昼食は、本篇1時間半くらい残した段階でいちど止めて、自宅近くのラーメン店で摂りました。拘束されてるわけじゃないので、こういう融通が効くのは楽……ただ、お腹が満たされてしまったせいで、終盤は眠くて仕方なかった。

コメント

  1. […] 原題:“The Irishman” / 原作:チャールズ・ブラント(早川書房・刊) / 監督:マーティン・スコセッシ / 脚本:スティーヴン・ザイリアン […]

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