『アイリッシュマン』

原題:“The Irishman” / 原作:チャールズ・ブラント(早川書房・刊) / 監督:マーティン・スコセッシ / 脚本:スティーヴン・ザイリアン / 製作:マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ジェラルド・シャーマルズ、ガブリエレ・イスレイロヴィッチ、ガストン・パヴロヴィッチ、ジェーン・ローゼンタール、エマ・ティリンジャー・コスコフ、アーウィン・ウィンクラー / 製作総指揮:リチャード・バラッタ、ジョージ・ファーラ、ニールス・ジュール、ニコラス・ピレッジ、ジェイ・ステファン、チャド・A・ヴェルディ、ベリー・ウェルシュ、リック・ヨーク、タイラー・ザカリア / 共同製作:メラニー・バウアー、デヴィッド・ウェブ / 撮影監督:ロドリゴ・プリエト / プロダクション・デザイナー:ボブ・ショウ / 編集:セルマ・スクーンメイカー / 衣装:クリストファー・ピーターソン、サンディ・パウエル / キャスティング:エレン・ルイス / 音楽:ボビー・ロバートソン / 音楽監修:ランドール・ポスター / 出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、レイ・ロマーノ、ボビー・カナヴェイル、アンナ・パキン、スティーヴン・グレアム、ステファニー・カーツバ、ジャック・ヒューストン、キャスリン・ナルドゥッチ、ジェシー・プレモンス、ドメニク・ランバルドッツィ、ポール・ハーマン、ゲイリー・バサラバ / 配給:NETFLIX
2019年アメリカ作品 / 上映時間:3時間29分 / 日本語字幕:?
2019年11月5日より一部劇場で先行上映
2019年11月15日世界同時配信
公式サイト : https://www.netflix.com/title/80175798
NETFLIXにて初見(2020/03/05)


[粗筋]
 一介の食肉輸送業者だったフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)がマフィアに関わったきっかけは、輸送中にトラックの故障で立ち往生していた際、ラッセル・バファリーノ(ジョー・ペシ)に助けられたことにあった。
 食肉の横流しを図り訴えられたフランクは担当弁護士の尽力で無罪を勝ち取ると、弁護士から従兄弟であるラッセルを改めて紹介され、そのとき初めて彼がペンシルヴァニア州で名の通ったマフィアであることを知る。裏社会の匂いを感じさせない紳士的な振る舞いをするラッセルはフランクを大いに気に入り、見かじめ料の取り立てなどで重用するようになっていく。
 次の転機は、ギャング仲間であるウィスパー・ディトゥリオ(ポール・ハーマン)からの依頼だった。クリーニング店を営むウィスパーは、当時急速に事業を拡大しつつあったユダヤ系のクリーニング店を叩くべく、フランクに相手のクリーニング工場の爆破を頼んできた。報酬のために引き受けたフランクだったが、その直後にラッセルに呼び出され、彼が爆破しようとしているクリーニング店に、フィラデルフィアを拠点とするファミリーのボス、アンジェロ・ブルーノ(ハーヴェイ・カイテル)が出資していることを知る。報酬を返そうとしたフランクに、ラッセルはそのまま懐に入れておくように言った。その代わりにフランクは、人目を忍んでウィスパーを暗殺する。それ以来、フランクはしばしば暗殺の仕事をあてがわれるようになった。
 あるときフランクは、ラッセルからジミー・ホッファ(アル・パチーノ)という男を紹介される。全米トラック運転手組合の委員長であり、この当時、大統領に次ぐ権力者と呼ばれていたジミーは、電話越しでの初めての会話で、フランクにこう訊ねる。
「お前は家のペンキを塗ると聞いた」
“ペンキを塗る”とは、暗殺の際に舞った血飛沫が壁を汚すことから来ている。労働者からの支持が厚いジミーもまた、裏社会と強い繋がりを持っていた――


[感想]
 ロバート・デ・ニーロ主演、アル・パチーノ共演のギャング映画、と聞くだけで、映画好きなら興奮を覚えるはずだ――映画史にその名を残す『ゴッドファーザー PART II』で共演したふたりである。ただし、デ・ニーロはマーロン・ブランドが第1作で演じたヴィト・コルレオーネの若かりし時代を演じており、ヴィトの息子マイケルを演じたパチーノと同時に現れる場面はなかった……はずである。その後、ふたりは2作で共演しているが、やはり双方ともにギャング役である本篇は別格だろう。
 本篇は実際の事件を、実在するフランクが晩年語った事実に沿って映画化したものだ。その真偽、正確さについては疑問が残るようだが、歴史を一切の誤りなく描く、という立場ではなく、あくまでフランクの語に沿って物語を綴っている。
 だから本篇を観ていてまず慄然とするのは、駆け引きの残虐などよりも、初めて物語に関わってくる登場人物たちの末路をテロップで無造作に提示していることだ。本篇の登場人物はすべて実在しているはずだが、平穏に死を迎えられた者は少なく、多くの者が第三者の手にかかっている。画面には直接出て来ないが、劇中の出来事には少なからず当時の政治状況が繋がっていることが窺え、それゆえ余計に生々しい。劇中で断定はせず、具体的な描写こそないが、大統領の暗殺さえ仄めかし、そこにリアリティが感じられるのだから、なおさらに恐ろしい。
 それでいて、本篇に登場するギャングたちはいずれも、一目で“犯罪者”と察しがつくような厳つさを見せてはいない。ある意味でビジネスライクであり、『ゴッドファーザー』のように一家を守る、といった理念よりも、相互の力関係や利益を優先させているのが解る。つい昨日まで親しく交流していた者も、状況が変われば容赦なく(文字通り)抹殺されてしまう。
 結果的に――或いは、語り手であるからこそ必然的に、なのかも知れない――そうした世界を、フランクの立ち位置や振る舞いが象徴している。もともとフランクは食肉の輸送業者に過ぎなかった。だが、稼ぎを上げるために横流しに手を出し、後始末のために知遇を得た裏社会の人間に接触していく。自分がいまから組織の一員になる、という恐怖も気負いもさほと感じられず、淡々と踏み込んでいくさまは、彼自身の暴力との距離が近かったことを感じさせる。彼が交わっていくひとびととも相通じるこの感覚は、まるで当たり前のことのように、フランクを暗殺者に変えた。そこだけを切り取ればドラマティックとも言える展開が、しかし本篇の語りの中では大きなひと続きの流れに組み込まれてしまっている。さも、そうなることが運命づけられていたかのように。
 本篇の山場はフランクと、アル・パチーノ演じるジミー・ホッファの関係性がショートするかのようなひと幕だが、しかしそれ以上に印象深いのはその出来事のあとである。犯罪や裏切りが日常となった男が辿る末路は、いちどはある意味での栄華を極めた人物だからこその物悲しさがある。その感覚は、往年のギャング映画の名作でも描き得なかった、濃厚な“無常観”を滲ませている。
 デ・ニーロやアル・パチーノ、本篇のために監督が交渉を重ね復帰を促したジョー・ペシなど、配役にも往年の名作群へのリスペクトを籠めながらも、本篇はまた異なる境地へと達した、新たなる傑作である。同年のアカデミー賞では最多ノミネートを受けつつも無冠に終わったが、『ゴッドファーザー』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』などと共にその名を残すと私は信じる。


関連作品:
タクシードライバー』/『アビエイター』/『ディパーテッド』/『シャッター アイランド』/『ヒューゴの不思議な発明』/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』/『沈黙-サイレンス-(2016)』/『アメリカン・ギャングスター』/『ドラゴン・タトゥーの女
ジョーカー』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『グッド・シェパード』/『パルプ・フィクション』/『マザーレス・ブルックリン』/『ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート』/『パブリック・エネミーズ』/『アメリカン・ハッスル』/『ジャージー・ボーイズ
仁義なき戦い』/『ゴッドファーザー』/『ゴッドファーザー PART II』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>

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