『泣きたい私は猫をかぶる』

『泣きたい私は猫をかぶる』本篇映像より引用。
『泣きたい私は猫をかぶる』本篇映像より引用。

監督&絵コンテ:佐藤順一&柴山智隆 / 脚本:岡田麿里 / 企画&プロデュース:山本幸治 / メインキャラクター原案:新井陽次郎 / キャラクターデザイン:池田由美 / 撮影監督:松井伸哉 / 作画監督:加藤ふみ、横田匡史、永江彰浩、村山正直、藪本和彦、石川準、藤巻裕一、植村淳、小峰正頼、橋本尚典、石舘波子、加藤万由子、小野田貴之、田澤潮 / 美術監督:竹田悠介、益城貴昌 / 色彩設計:田中美穂 / CGディレクター:さいとうつかさ / 編集:西山茂 / 音楽:窪田ミナ / 主題歌:ヨルシカ『花に亡霊』 / 声の出演:志田未来、花江夏樹、寿美菜子、小野賢章、千葉進歩、川澄綾子、大原さやか、浪川大輔、小木博明(おぎやはぎ)、喜多村英梨、篠原恵美、清川元夢、北川里奈、駒田航、永野由祐、有賀由樹子、引坂理絵、田村奈央、三木眞一郎、佐久間レイ、吉田ウーロン太、落合福嗣、山寺宏一 / 企画:ツインエンジン / アニメーション制作:スタジオコロリド / 配給:Netflix
2020年日本作品 / 上映時間:1時間44分
2020年6月18日配信
公式サイト : https://nakineko-movie.com/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/81281872
Netflixにて初見(2020/06/20)


[粗筋]
 笹木美代(志田未来)の学校での通り名は“ムゲ”――“無限大謎人間”の“ムゲ”。いつも理解を超えた言動で周囲を振り回すので、そんな風に呼ばれていた。
 そんな彼女が目下、ご執心なのは、同級生の日之出賢人(花江夏樹)だった。周りの目も顧みず積極的にスキンシップを図るムゲは、賢人からすっかりスルーされる毎日だが、彼女は気にも留めていない。何故ならムゲには、もうひとつの顔があるからだった。
 祭りの晩、不思議な空間に迷い込んだムゲは、猫の店主(山寺宏一)から猫のお面をもらった。それを被り一回転すると、ムゲは猫になれる。そうしてムゲは毎日のように、賢人のもとへ遊びに行っていた。ムゲのときはまったく相手にされていないが、猫のムゲは、賢人がかつて飼っていた飼い犬にあやかって“太郎”と名付けられ可愛がられている。ムゲは猫である自分に賢人が素直な表情を見せ、心の秘密を打ち明けてくれるのが嬉しかった。
 このころ、賢人には悩みがある。父を早くに亡くし、賢人に期待をかける母(篠原恵美)は一流大学に進むように促すが、賢人は家が代々守ってきた製陶の道を進みたい、と思っている。だが、時代の流れもあって工房の経営は厳しく、母は閉鎖を決断しようとしていた。自分としては家を継ぎ窯を守りたい賢人だが、堅実な道を勧める母の気持ちも理解できて、本心が口に出せない。賢人からしてみれば、周囲の目を気にすることなく感情を口に出せるムゲが羨ましくさえあった。
“太郎”として賢人の本音を知ったムゲは、彼を励まそうと、徹夜で手紙を書き上げた。普段口に出来ない想いも込めた手紙を、しかし意地の悪い級友に奪われ、大勢の前で読み上げられてしまう。恥ずかしさに逆上した賢人は、ムゲを「大嫌いだ」と言い放った。ムゲは涙を流し、教室を飛び出す。
“ムゲ”として嫌われても、猫の“太郎”を好きでいてくれれば、“太郎”に笑いかけてくれるならそれでいい。いつしかそんな風に思い始めていた――それこそ、あの猫店主の思うつぼだったのだ。


[感想]
 誰にも口に出せない本音がある。たとえ身近な人間でも、それまでの接し方を引きずるあまり本心を打ち明けられず、ろくに受け答えもしないもの――観葉植物やペットに向けてだけ素直になり、愚痴を言ったり、本音を漏らしたりする。
 本篇はそういう、多くのひとに心当たりのある状況を突き詰めて組み上げたファンタジーだ。好きなひとがいて、普段から全力でアタックしているけれど、日頃の振る舞いが災いしてまともに受け取って貰えないヒロイン・ムゲ。そんな彼女が、猫たちの世界に迷い込み、被ることで猫になれる仮面を手に入れる。彼女に対しては無愛想な想い人の日之出も、猫の“太郎”になったムゲには素直な笑顔を見せてくれる。猫になりたい、と思ってしまうのも無理はない。
 それにしてもこのムゲというキャラクター、実に個性が際立っている。本名は“美代”というあえかな響きだが、日頃から周囲の理解を超える言動が多いせいで“無限大謎人間”と言われ、そこから“ムゲ”という渾名になった。実際、序盤での学校における彼女の振る舞いを見ていると、周囲が困惑するのも頷けるほど奔放だ。やもすると、観客の感情移入を妨げるレベルで、主人公としては問題児でもある。
 しかし本篇は、そうした学校での表情を見せる前に、ムゲと実の母とのやり取りを置いている。これが、彼女が猫の仮面を手に入れることへの導入なのだから、ストーリー的にも決して突飛な配置ではないが、ここでまずムゲが友人には見せない、巣に近い表情を示すことで、学校での突拍子もない振る舞いにある“裏”を観客に想像させる。それがその後に点綴される、父や父の新しいパートナーとのやりとり、そして猫の姿のときに日之出と触れ合うときの素直な表情に、共感を覚えてしまう。こういう積み重ねのあとに、ああいう事件が起きるのだから、ムゲが人間であることをやめたくなるのも頷ける。
 ここから物語は、日之出の目線に寄せた描写が増えていく。やむを得ない側面もあるのだが、ひとによっては収まりの悪さを感じるかも知れない。
 しかし、このパートがあることで、改めて“ムゲ”と呼ばれる少女の素顔を、改めて客観的に突きつける。ひとは他人を一面だけで判断しがちだ、という当たり前の事実が、ムゲといういくぶんエキセントリックな人物像ゆえに際立って描き出されている。
 またこの視点の切り替えが、クライマックスでの昂揚感とカタルシスに結実していることを考えれば、やはり必要なツイストだったと言える。ここで日之出がより深くムゲを知ることで、終盤の展開に切迫感と達成感とが育まれる。
 個性の強さ故に、岡田麿里が携わるとどうしても脚本から読み解こうとしてしまうが、本篇は彼女が関わる作品としては終盤の展開が少し変わっている。風変わりであり、どこか懐かしくもある猫たちばかりの世界で、人間さながらに振る舞い暮らす猫たち。彼らがどんなルールの中で生きているのか、本篇の中ですべては明示されないが、画面全体に漲る異世界感が楽しい。あまり緊迫感のない空間で、しばしば滑稽なひと幕を演じつつ繰り広げられる冒険は、まさにアニメーションならではの醍醐味が堪能できる。
 脚本担当・岡田麿里ならではのアクと、劇場用アニメーションだからこそ実現できる丁寧な美術で構築された異世界で繰り広げられる冒険、そして快い結末。常滑に舞台を据え、現地の風物を盛り込んだ作りにしても、現代的なエッセンスに富んだジュヴナイルの佳作である。

 この作品、当初は劇場公開作品として告知されていた、と記憶しているが、コロナ禍によりNetflixでの配信に切り替えたらしい。同様に公開延期となった作品が多数発生し、劇場が思うように確保できない、といった事情から配信を選択した、と思われるが、個人的には映画館の大スクリーンで浸りたい種類の作品だった。
 Netflixでの再生回数もどうやら好調のようで、製作側の判断は誤りではなかった、と思うが、好評ならばこそ、落ち着いた頃合いに、特別興業の形でもいいから劇場での上映を目指して欲しい。


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コメント

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