『この茫漠たる荒野で』

『この茫漠たる荒野で』予告篇映像より引用。
『この茫漠たる荒野で』予告篇映像より引用。

原題:“News of the World” / 原作:ポーレット・ジャイルズ / 監督:ポール・グリーングラス / 脚本:ポール・グリーングラス、ルーク・デイヴィス / 製作:ゲイリー・ゴーツマン、グレゴリー・グッドマン、ゲイル・ムトラックス / 製作総指揮:トーレ・シュミット、スティーヴ・シェアシャイアン / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー / プロダクション・デザイナー:デイヴィッド・クランク / 編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ / 衣装:マーク・ブリッジス / キャスティング:フランシーヌ・メイスラー / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲル、トム・アスター、トラヴィス・ジョンソン、アンディ・カステリック、レイ・マッキノン、メア・ウィニンガム、ジェフリー・ウェア、クリス・バイルスマ、エリザベス・マーヴェル、マイケル・アンジェロ・コヴィーノ、フレッド・ヘッキンジャー、ビル・キャンプ、トーマス・フランシス・マーフィ、ニール・サンドランズ、ウィンサム・ブラウン、ガブリエル・イーバード / プレイトーン/プリティ・ピクチャーズ製作 / 配給:Netflix
2020年アメリカ、中国合作 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:? / PG12
2021年2月10日全世界同時配信
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/81210670
Netflixにて初見(2021/2/11)


[粗筋]
 南北戦争終結後、ジェファーソン・カイル・キッド大尉(トム・ハンクス)は各地を歴訪し、忙しい人びとのために新聞記事を選んで朗読して回っていた。
 ウィチタフォールズを離れ、ふたたび旅路に就いた大尉は道中、壊れた馬車と、木に吊された黒人を発見する。その近くでは、金髪白皙の少女が逃げ惑っていた。
 馬車に残されていた書類から、少女はジョハンナ・リオンバーガー(ヘレナ・ゼンゲル)といい、ドイツ人の親元から攫われ、先住民のカイオワ族によって育てられていた、と大尉は知る。先日、彼女を育てていたカイオワ族が討伐され、ジョアンナは奪還された。しかし両親は彼女が攫われたときに殺されており、ジョアンナは伯母夫婦のもとへと送り届けられる途中だったらしい。
 あとから現れた北軍の中尉に指示され、レッド・リバーの指揮所へとジョアンナを連れて行った大尉だが、担当官が現地を離れており、3ヶ月は戻らないという。大尉はかつての部下であるサイモン・ボードリン(レイ・マッキノン)とその妻ドリス(メア・ウィニンガム)にジョハンナの身柄を委ねることにした。
 しかしその晩、大雨にも拘わらずジョハンナは飛び出してしまった。氾濫する川の向こうを移動する先住民達に必死で呼びかけているところを発見し、どうにか連れ戻したが、ここに残しておくことは難しい、と悟った大尉は、自ら彼女を連れて行く決心をする。
 少女の伯母夫婦が暮らすカストロヴィルまで640キロ。途中までは大尉も知る道程だが、時代は変わっている。互いの言葉も理解できないふたりの、危険な旅路が始まった――


[感想]
 ポール・グリーングラス監督にとっては初めての西部劇、だが、よくよく考えてみると決して意外ではない。
 この監督は『ブラディ・サンデー』で注目を集めて以来、一貫して戦争、或いはテロを題材に採り上げている。戦争そのものの空虚さ、その影響によって人生を狂わされるひとびとや、そこから再起していく姿などを描いてきた。“西部劇”と大雑把に括っても、南北戦争が終結した直後の南部で、家族を2度も失った少女と旅をする元将校、という構図、そして彼らの辿るドラマは、むしろポール・グリーングラス監督の真骨頂とさえ言える。
 ただし、監督のもうひとつのトレードマークとも言える、ドキュメンタリー調のカメラワークはいくぶん控えめになっている。ドキュメンタリーめいた、手ブレを採り入れた場面も随所にあるが、雄大な大地を広角で捉えた映像を多用しており、その趣は王道の西部劇に近い。テーマや人物像が自身の守備範囲に収まっていればこそ、堂々と本格的な西部劇の道具立てに拘ってみせたのかも知れない。
 筋立てはごくシンプルだ。元将校と少女が出会い、成り行きと義務感から旅の道連れとなって、最初は意思の疎通も出来ない状態から、次第に心を通わせていく。その過程に、格別得意な要素はなく、展開を予測するのはさほど難しくはない。そのぶん、中心となるこの元将校と少女の表情や所作を緻密に描き、両者の関係性の変化を情緒豊かに見せていく。
 シンプルとは言い条、着想とディテールが素晴らしい。“記事を朗読する”という仕事は、識字率はまだまだ高くなく、実際に新聞を読む暇もないひとびとが多い時代ならでは、であり、その描写のなかに南北戦争を経たひとびとの不平不満、鬱屈が滲み出る。他方、両親を殺した先住民たちによって育てられ、その新たな家族さえも、他の入植者に殺される、という少女の不運な境遇もこの時代を象徴している。実際に、何らかの経緯で先住民によって育てられ、本来の共同体に連れ戻されてもその生活様式に馴染めなかった、という例は存在しているらしい。構成はシンプルでもディテールは肌理細やかで、それこそポール・グリーングラス監督が本篇の原作に着目した理由でもあるのだろう。
 そして、どれほど社会性の高い素材でもサスペンスやスペクタクルを盛り込み娯楽3品として昇華させていた監督らしく、西部劇ならではの醍醐味もしっかり盛り込んでいる。はっきりとした銃撃戦はひと幕だけだが、窮地を乗り越える意外なアイディアや、地形を利用した見せ場まであり、充分な名シーンに仕上がっている。そして、広漠たる大地での冒険だからこその発見や危機にも、西部劇ならではの面白さを仕込んでいる。画角や映像加工に現代的な技術を用いつつも、風格は往年の名作に決して引けを取らない。
 展開は予測できる、と記したが、恐らくそれゆえに本篇の着地を物足りなく感じるひともいるだろう。ただこれもまた、近代を描いた作品では苦い結末を選択せざるを得なかった監督が、同じ路線上で初めて辿り着くことを許された救いだった、と捉えると感慨深い。前述したように、この時代ならではの仕事で日銭を稼ぐ元将校の先行きは決して明るい、とは言えず、そこに一抹の苦さも滲むのだが、あえてそこまで触れなかったのもまた、この監督らしい節度であり、またこれまで描いてきた、彼らに近い境遇のひとびとに対する優しさ、と言えるかも知れない。
 西部劇であることの魅力も存分に活かした本篇は、ポール・グリーングラス監督の作家性の確かさとその成熟を証明している、と思う。作品としても優秀だが、監督のこれからの飛躍にも期待させてくれる傑作である。


関連作品:
ブラディ・サンデー』/『ユナイテッド93』/『キャプテン・フィリップス』/『7月22日』/『ボーン・スプレマシー』/『ボーン・アルティメイタム』/『グリーン・ゾーン
ハドソン川の奇跡』/『フォードvsフェラーリ』/『マイ・ブラザー』/『リンカーン』/『ジョーカー
シェーン』/『アウトロー(1976)』/『ダンス・ウィズ・ウルブズ』/『トゥルー・グリット』/『ジャンゴ 繋がれざる者

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