入場
近場に住んでいる者の務めとして、自転車にて現地入り。……余裕をもって家を出たら、余裕がありすぎてまだスタッフとヘルプの方ばかりでした。ゆらゆらとあちこちを漂いながら時間を潰す。
例年、いちどはリアルタイムで更新するのが趣味だったのですが、昨年の参加以降に携帯電話の機種を変更、これと普段使用しているノートパソコンでは通信のための連携が取れなくなってしまいました。そこで半ば諦めていたのですが、或いは、と考えて、ノートパソコンと一緒に無線LANのPCカード子機を持参する。もしご近所で使われている無線LANで、暗号化をしていないものが存在するなら、今夜だけちょっとただ乗りさせてもらおう、と目論んでいたのですが――清々しいほど、何もありませんでした。暗号化も何も、LANの端末自体発見できず。なんということだ。
やむを得ず携帯電話のメール機能を利用してちょこっとだけアップした次第。写真付きで投稿するとあんなデザインになってしまうんだ、とあとで驚きました。
開会−石持浅海インタビュー
例によって大広間に集い、開会式から石持浅海氏のインタビューになだれ込む。スタンバイしてもなかなか始められなかったり、マイクの故障でエコーがかかったままになり、やたらとムーディになってしまうため、結局インタビュアーの蔓葉信博さんも石持さんも早々にマイクを放棄することに。序盤、そのために蔓葉さんが「もっと声を張って」とツッコまれるひと幕もありました。
作法通りにデビュー前後の状況から創作の背景などを伺っていく聞き方で、他の書き手がやっていない舞台や状況を選択する発想の仕方、わりと細かい展開や伏線は書きながら固めていくことが多く、自ら「論理的ではありません」と断じたり、原体験として『百日紅の下にて』、好きな作品として『獄門島』を挙げるなど意外にも横溝正史からの影響が強いことを窺わせたりと、なかなか興味深いインタビューとなりました。調子に乗ってその後のイベント内容に抵触しそうな質問をしそうになる場面もあったりと、和やかに予定時間を超過して終了。
諸注意&企画説明〜休憩
続いて主にINOさん司会にてイベント中の諸注意と、各企画の担当者による内容説明。やはりマイクがおかしいままなので全員が肉声で説明する中、ただひとりマイクを使おうとした近田鳶迩さんが素敵だ。
全体企画の開始までは夕食の買い出しや歓談、入浴などを済ませることに。時間が押しているので到底ぜんぶこなす余裕はなく、今回は入浴できるよう準備していったのですが、けっきょく入れずじまいでした。買い出しの際に「ひとりで移動すると道に迷う」と仰言る石井春生さんと同行し、道中えんえんキム・ギドクとか伊坂作品の映画化の話をする。
全体企画『7つ数えろ!』
休憩終了後、あらかじめ指定された班に分かれての全体企画が開始。今年は『笑っていいとも!』で長年続いている、会場でたったひとりだけ該当者のいるアンケートを考える、というアレの応用。同じ要領で、参加者全体で7人になるような質問を各班2問ずつ考案し、各問の7との誤差の合計が最も小さいチームが優勝、というルールです。数字は単に7回目のMYSCONということを踏まえたようですが、こういう集いなので当然質問はミステリ縛りとして、少なすぎても駄目、やたらいるような質問もNGというのはなかなか絶妙です。
班の名前はミステリ・シリーズのワトソン役にちなんでいるそうですが……眺めていても誰が誰だか解らない。同じ班に強者・葉山響さんがいたのですが、その葉山さんでさえ咄嗟に解らないものがある。ヘイスティングスはポアロ、アーチー・グッドウィンはネロ・ウルフ、ニッキー・ポーターはエラリー・クイーン、ぐらいまではすぐに解るのですが、あとは一見して咄嗟に思い浮かばない。それでもルイス部長刑事はモース警部の相棒だよな、とかこの辺の名前は心当たりがある、と漠然とながら言えるのですが、困ったのは当のわたしたちが所属している班の名前。ディビット・ハドレイって誰。葉山さんや他の皆さんと首を捻っても皆目答が出ず、集まったあとでスタッフの鳶迩さんに確認しても「誰でしょう?」と返る始末。ていうかせめてスタッフは把握しといてくれー!
それはさておき質問を練る段になったわけですが、わたしが途中で要らん縛りを用意したりしたため、ひとつがまとまったあとはなかなかいい案が出て来ない。とりあえず、「イギリスにあるホームズ博物館に行ったことがある」というのが最終候補として残ったのですが、その時点になっても依然としてわたしたちの班の面々が頭を悩ませていたのは「ディビット・ハドレイって誰」ということだけ。結局、他のチームの様子を窺いつつ、この質問を2個目に持っていって、ウケ狙いに純粋な興味も含めて攻めてみることに。話の成り行きで、こちらは葉山さんが質問者となることに決定。
見事7人ジャストを引き当てる質問がよその班から出るなか、我が班が用意したのは「山村美紗作品を3冊以上読んでいる」という質問でした――が、二桁以上の誤差が出てしまいました。モデルケースにした我が班のなかでは見事にひとりだけだったので、理屈では大した誤差が出ないはずが、やはり本邦ミステリの女王は女王であったらしい。この質問を提示した葉山さんが次の質問の発表者となったために思いがけず会場を沸かせる結果となりましたが、こちらは誤差ひと桁で済みました。詳しい数値はたぶんMYSCON公式サイトに載ると思いますのでそちらを参照のこと。
ちなみにディビット・ハドレイとは、ディクスン・カー作品に登場する警部でした……でも、いま手許にある『剣の八』ではハドリー、『疑惑の影』ではハドレーと表記されているのは誤差と認めるとしても、ディビットはたぶんデイビッドだと思うんですが……前述の二冊は登場人物一覧にファースト・ネームがなく、本文をざっと追っても発見できなかったので断定は出来ませんが、常識的に考えてアルファベット表記なら“David”でしょうから……ま、いいんですけど。どのみち最近これだけカーを読んでいて気づかなかったわたしがいちばんいけない。
個別企画1コマ目『春休み・海外ミステリなんでも相談室』
短い休憩を挟んで、個別企画のスタート。一方は恒例の読書会、今回は史上初となるゲストの作品・『扉は閉ざされたまま』を採用するという冒険に出ていて、そちらにも興味はあったのですが、悩んだ挙句にこちらを選択。
当初はなかなか海外物に手が出せないという初心者のかたの質問を受け付けて企画の茗荷丸さんにShakaさん、さすらい人さん、葉山響さんらが中心となって答えていく、という体裁だったようですが、初心者よりはある程度馴染んでいる人のほうが多かったので、必然的に、あまりネット書評でも採りあげられておらず、食わず嫌いで避けている人も多いと思われる海外翻訳ミステリを如何にして読んでもらい親しんでもらうか、について、前述の諸氏を中心に討論を重ねる格好になりました。
侃々諤々あったのですが詳細を書くと長いので省くとして、大まかに「翻訳物は貴ワン的に文章として読みづらいものではなく、最初の取っつきづらさを乗り越えれば得られるものがある」「必要なのは網羅的なブックガイドと、各個人の地道な啓蒙活動である」という結論に。ほんとーにごく大まかな纏め方ですので、必ずしもパネラー諸氏の理解とは一致していないと思いますのでそのへんご理解を。最後に、数人混ざっていた初心者のかたの要望を聞いて、合いそうな作品を並べていたのはかなり参考になりそうなのですが、細かくは記憶せず。
個別企画2コマ目『ミステリ連想ゲーム』
引き続きふたつめの個別企画、一方の『ミステリソムリエ2』は申込制かつワインにはあまり興味がない、ということもあって、迷わずこちらを選択。読んで字のごとく、伝説のテレビ番組『連想ゲーム』に倣って、示されているキーワードから連想される言葉を回答者に伝え、早く正解を出した方にポイントを与え、最終的にポイントの多い方が勝利する、というゲーム。
INOさんとShakaさんがそれぞれキャプテンとなって、参加者のなかから回答者を募り、ヒントを出していき、最終的にポイントで負けた方のキャプテンが罰ゲームを命じられる、というルールなのですが、どうも反則ワードの基準などを煮詰めていなかったためにけっこうグスグズな展開に。しかし、こういうゲーム式のものはやっていくうちに楽しくなっていくもので、最終的にはけっこう盛りあがりました。ヒント一個で見事に当てる人がいれば、正解を口にしていたにも拘わらず余計な言葉をつけてしまって失敗する人もあり、もう少しルールを厳密にして、かつ司会が慣れてくれれば更に面白くなりそう。わたしもいちど回答者として引っ張り出されましたが、相手が葉山さんだったので太刀打ちできず。ヒントとして出された作品を読んでいなかったのが致命的。
回答者に恵まれたShakaチームが終始優勢でしたが、最終問題でお約束的に齎された逆転のチャンスをINOチームが見事にものにし逆転勝利。Shakaさんがジェスチャー・クイズの出題側にまわり、到底身振り手振りだけでは表現できない作品名を、INOさんが答えられるまで表現し続ける、という屈辱を与えられたのでした。
深夜大広間『古本オークション』&恒例ゲリラ企画
個別企画終了後、眠い人は各個部屋に移動して就寝し、話したい人は大広間にて雑談する、という流れへ。その傍らで毎年恒例の古本オークションが行われましたが、今年は比較的数も少なくおとなしめ。はじめから、毎年のごとく催されるゲリラ企画が始まれば一時中断して全員でそちらを鑑賞する、という決まりになっていたのですからいったい何が何だかもう。
ともあれ、1時過ぎからにわかに準備が始まると、大広間に居合わせた面々がすぐさま鑑賞態勢に入って待機するという異様な状態に。驚異的な人口密度と、もうどのへんがゲリラなんだよ、というぐらい丹念な仕込みが行われたあと、よーやく開演。
今年は進井瑞西&七沢透子司会によるニュース・ショー形式。ミステリのネタをふんだんに鏤めたコントを長々と展開したあと、書店でミステリ・フロンティアのポップを作成する模様を取材する、という体裁でよーやく本題である大喜利が始まる。スケッチブックを利用してやたらと懲りまくったネタが頻発するなか、いちばん印象に残っていたのは、微妙な線で滑る蔓葉さんの姿だったのはここだけの話。
大喜利のあとにも天気予報をモチーフにしたコントなどがあり、最後にちゃんとオチをつけて終了。なんか年々、この企画に対する期待度と、準備する側の懲りようが激しくなっていく気がします。ほとんど小劇団だ。
余談ですが、ゲリラ企画が始まる前後に珍しくたれきゅんさんが酔い潰れ、早々に部屋に引き上げる、というひと幕がありました。
深夜企画『深夜の人狼』
通常はこの辺で企画は終了、あとはそれぞれ眠りに就くか、話し明かしたい人は大広間に移って各々駄弁るなり熱く語り合うなりするのですが、今回はすずるさん持ち込みの企画が別室で催されることに。前々から興味があったので、覗いてみることにしました。
これのもととなっている『汝は人狼なりや?』は、チャットや現実での体面形式で行われるパーティーゲームの一種で、15人程度のメンバーをひとつの村と仮定し、そのなかに潜み一夜ごとに村人を喰らっていく3人の“人狼”と、残る村人とのあいだで競うかたちのゲーム。通常は様々な役職を記したカードを配布し、受け取った者はそれに従って役割を演じるもので、昼のターンのあいだにそれぞれの役割に添って嘘を吐くなり真実を述べるなりして議論を重ね、合議制で誰かひとりを処刑する。続く夜のターンでは全員が顔を伏せるなか、ゲームマスターに呼ばれた役職の人間が、それぞれの役割に従って、人狼を炙り出すヒントを得、最後に“人狼”が誰かひとりを指名して襲撃する。これを繰り返し、最終的に“人狼”のほうが多く残っていれば村は壊滅となって“人狼”の勝利、村人が“人狼”をすべて狩り出せれば村人の勝利、という具合なわけです。
前述のとおり、本来は実にいろいろな役職があって、その特性に従って複雑な駆け引きが行われるようなのですが、ここで採用されていたのは“人狼”のほかに、夜のターンにおいてその日処刑されたのが村人なのか“人狼”なのかを知ることが出来る霊能者、メンバーの誰かをひとり指してそれが“人狼”であるか否かを知ることが出来る占い師、やはり誰かひとりを指名して“人狼”の襲撃から守ることが出来る(自分を守ることは不可能)狩人、そしてメンバーのなかで自分ともうひとりが確実に村人であることを知っている“共有者”と呼ばれる人間、の四つの役割。村人側にとっては様々な情報を得るのに役立つ役職ですが、“人狼”に知られれば、彼らが勝利するためにすぐさま狩られかねないので、役職を持っている人間は敢えてそれを隠したり、またはフェイクを交えていかなければいけない。役職のない村人も彼らを庇うために敢えて嘘を吐いたりも出来ますが、しかし“人狼”側も同様の手法を用いて村人を攪乱する戦法がある。昼のターンの3分以内にそうした駆け引きを行い、村人は役職を持つ人間をなるべく生き延びさせて有利な情報が齎されるように運び、“人狼”は早急に役職を持つ人間を排除して村を全滅に追い込むようにする、という具合。
と説明されても解りづらいので、とにかく実地でゲームを行っていく。なにせまったく経験がないので最初は見ているだけでしたが、基本的にこういう頭を使うゲームは好きなので、ある程度コツが把握できたところで参加してみました。
……2回連続で“人狼”の役を振られました。しかも2・3ターン目で狩られ、連続して負けました。
ルールがルールなので序盤はどうしても手探りになり、通常は“共有者”のひとりがまず自己申告して、その人の意見をまず参考にして最初の処刑者を決定する、という流れが多くなるのですが、手がかりの少ない状態で2度も処刑対象にされて、3人の“人狼”のなかで二連続で初っぱなに狩られてしまう羽目に。正直これほどしんどいこともありません。最初の時点では次に誰を襲撃すれば有利に運べるかアイディアを思いついたところで処刑されて、二度目はあまりに早すぎて手だても打てず。いったん殺されて外野に廻されたら、フェアプレイの精神からも決してヒントは出せませんから、もーもどかしいったらありません。
これで最後、という段になり、役職のなかに、村人でありながら“人狼”側に有利な行動をする“狂人”というものを追加したところで、どーにも悔しかったためもういちど参加。今度は“共有者”となったので、最初の昼のターンが始まったところでさっさと自己申告、参加している気分を存分に味わったうえにどーにか“村人”側の勝利にも貢献できたようです。
もう4時を過ぎたころで、さすがに朦朧となっていましたが、このゲームの魅力は十分確認できたので良し。また機会があったら挑戦してみたい。
大広間でだらだら〜閉幕
このところ疲れ気味故、もう脳味噌も働かず、そのまま眠り込んでしまいそうなのをあちこちの雑談に混じったりぼーっとしたりしながらやり過ごし、旅館の都合によりいつもより早めの7時前に終了。もはや倒れる寸前だったので、挨拶もせずにさっさと自転車にて帰途に就く。我が家に辿り着くと、軽くシャワーを浴びる、ということもせず、すぐさま寝潰れました……
某氏とか某氏がいなかったこともあって、深夜の濃い議論がなかったのが少々残念でしたが、例年以上に企画を存分に楽しめた気がします。とりあえず『人狼』はまた別の機会に参加してみたいところ。
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