『アルゼンチンババア』
判型:文庫判 レーベル:幻冬舎文庫 版元:幻冬舎 発行:平成18年8月5日 isbn:4488458017 本体価格:495円 |
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母が死んだ日から、涌井みつこの父は行方をくらました。半年後、彼が身を寄せているのが発見されたのは、街で有名な人物――アルゼンチンババアの暮らす廃ビルであった。戸惑いながら、逃げた父と、世間の目を気にせず自らのスタイルで悠然と暮らすアルゼンチンババアと触れ合っているうちに、みつこは新しい価値観を見出していった……
実はよしもとばなな初体験である。映画を鑑賞することに決まったので、予習のため手に取ったのだが、なるほど文章力とその独特の世界観には異様な魅力が充ち満ちている。 まず大前提として語り手・みつこの現在の価値観や想いがあって、そこに至る過程を取り留めもなく綴っているといった風情で、物語、というよりは虚構に根ざした随筆のような趣がある。それだけに、事件やイベントに煩わされることなく、結末にある幸福感へと自然に誘われていくような心地好さが作品全体に漲っている。 ほどほどに毒をまぶした語り口のために、本質的には決して絵空事に陥っていないのだけれど、すべてがアルゼンチンババアに感化されていくような流れが辿り着くのが、どうしてもあらゆることに善意を見出すような意識であるため、人によっては拒絶反応を起こすこともあるように思う。だが、そのきっちり明確に打ち出されたスタイルこそが、よしもとばななという作家の支持される所以であるのかも知れない、と感じた。あくまでこれ一作しか読んだことがないので、直観的な評価ではあるのだが。 本として気になるのは、本文が僅か80ページ程度しかないことだが、その分、親本にも収録されていた奈良美智氏による、味わいのあるイラストをきちんと再録しているので、好きになった人が手許に置くには適当な1冊になっていよう。……ただ、イラスト目当てなら親本のほうがいいのかも、と思わなくもないが。 |
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