『ゴースト・ハウス』

原題:“The Messengers” / 監督:ダニー・パン&オキサイド・パン / 原案:トッド・ファーマー / 脚本:マーク・ウィートン / 製作:サム・ライミ、ロブ・タパート、ウィリアム・シェラック、ジェイソン・シューマン / 製作総指揮:ネイサン・カヘイン、ジョー・ドレイク / 撮影監督:デヴィッド・ゲッデス / プロダクション・デザイナー:アリシア・キーワン / 編集:ジョン・アクセルラッド、アルメン・ミナジャン / 音楽:ジョセフ・ロドゥカ / 出演:クリステン・スチュアート、ディラン・マクダーモットペネロープ・アン・ミラー、ダスティン・ミリガン、ジョン・コーベット / ブルー・スター・ピクチャーズ製作 / 配給:東宝東和

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:種市譲二

2007年07月21日日本公開

公式サイト : http://ghosthousemovie.jp/

有楽町スバル座にて初見(2007/07/21)



[粗筋]

 アメリカの田舎町ノースダコタ。ここにある放逐された農場に身を寄せたのは、ソロモン一家である。失業中の家長ロイ(ディラン・マクダーモット)は昔取った杵柄であるヒマワリ栽培をここで始めることで起死回生を量ろうとしていたが、彼らが都会を離れた理由はそれだけではない。長女ジェス(クリステン・スチュアート)が起こした問題をきっかけに、彼女と母デニース(ペネロープ・アン・ミラー)との関係が悪化、その影響がロイや言葉を話せない3歳の長男ベンにも波及し、家庭内は危険な状況にあった。夫婦にとって、田舎への引っ越しは家庭環境の改善をも企図したことであった。

 しかし、当のジェスは、一連の出来事の原因が自分にあると理解しながら不平を禁じ得ない。遠路はるばる越してきた家が、広いだけが取り柄のボロであったことも彼女の不快感に拍車をかける。

 ジェスの胸中をよそに、ソロモン一家は着々と新生活の地歩を築いていった。仕事を探していた流れ者のジョン(ジョン・コーベット)を雇い入れたことで農園の整備は進展し、生活環境も整っていく。だがそんななかで、幼いベンは家の中に何かを見て、悦びはしゃいでいた。ジェスはそんな彼の様子に、密かに慄然とする。この家の中には、何か、おかしなものがある。

 やがて、ヒマワリ畑の収穫も近づいたある日のこと。ロイがふとしたことで怪我をして、夜中に急遽病院に向かうことになり、ジェスはベンを託され家の留守を守ることになった。そして、家に実質的にひとり取り残されたジェスを、本格的な怪奇現象が襲う……

[感想]

 かたや、『死霊のはらわた』でハリウッドにその名を知らしめ、『スパイダーマン』シリーズによってヒットメーカーに登り詰めたサム・ライミ。かたや『the EYE』で世界的に知名度を高めたパン兄弟。後者のハリウッド進出作が前者のプロデュースによって実現する、と聞いたときは期待に胸を膨らませたものだが、率直に言って、期待しすぎたようだ。

 もともとどちらも映像のセンスや空気の表現は傑出している作り手である。それだけに映像の雰囲気作り、間の取り方は実に堂に入っており、その意味で不満はあまり抱かされない。また、『the EYE』以来パン兄弟が常にこだわっている、エンタテインメントとしての仕掛けは本編にもちゃんと施されており、その徹底ぶりには好感を覚える。

 しかし、アイディアとして決して優れたものではなく、途中で予想できる幾つかのうち、もっとも安易な類であるために、驚きには結実していない。また、ここのガジェットの結びつきがいまいち薄く、計画的に配されたと見えるエピソードも、全体に説得力を付与する役割をあまり果たしていないのはマイナス点である。きちんとリンクしていれば全体としての恐怖感を盛り上げていくのに有効であるはずが、個々が断絶しているような感を与えるために、単体でしか恐怖を演出できていない。勢い、作中で“怖い”と感じられるポイントがほとんど猫騙しやその場限りでの心理的な仕掛けのみになってしまっているのは、長篇ホラーとしてはまずいだろう。

 ただ、個々の表現の質は高い。白眉は後半に入ったあたり、ジェスが弟を抱きかかえ、彼が見ているであろう幽霊の気配を感じている場面である。なかなか後ろを見ようとしない彼女の背後から迫るものを、間接的にしかも執拗に描くことで醸成される空気は強烈だ。この描き方はパン兄弟が国際的に認知されるきっかけとなった『RAIN』あたりから得意にしているもので、ほとんどの作品を追いかけている者としてはなかなか嬉しいひと幕であった。

 いま一歩とは言い条、志の乏しいティーン向けホラーと比べれば腰が入っているし、ホラーとして徹底しつつもちゃんとドラマを盛り込み娯楽としての骨組みも計算している作りはパン兄弟らしく、さすがと思う。だが、同時に痛感したのは、パン兄弟のこれまでの独自性はアジアの風土あってのもので、順応力の高さは確かだが、それ故にハリウッドに進出した途端にファンが好んだアクが損なわれてしまう、という欠点を露呈した作品でもある、と感じた。ホラーとして標準的な仕上がりであるため、マニアではない一般的な観客であればホラー本来の楽しみ方が可能な作品だと思うが、ずっと追いかけてきた者としては不安を禁じ得ない。

 なお、本編でジェスを演じたクリステン・スチュアートは、『パニック・ルーム』でジョディ・フォスターの娘を演じた少女である。ジョディをそのまま幼くしたようなあの頃の雰囲気とはだいぶ違ってきたが、しかし名優ぶりは変わっていない。ほとんど悲鳴を挙げない、抑えた恐怖の表現を巧みに成し遂げている。美人というわけではないが、今後も順調に成長していくであろう彼女の姿を刻み込んだ作品としてチェックしてみるのも一興かと思う。

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